第11話
「ねぇねぇお兄ちゃん?」
「ん? どうしたの花恋?」
「私ももう中学二年生でしょ? それに、お兄ちゃんも高校二年生。来年になると受験で忙しくなると思うし、何処でもいいからお兄ちゃんと出掛けたいなって。」
「……お母さんとじゃ駄目か?」
「むー 一回でいいからお兄ちゃんとお出かけしたいよ。」
頬を膨らませなから肩をブンブンと揺らしてくる花恋。大きく膨らんだ頬を可愛いと思いながらつつくと、仕返しとはがりに俺の頬をつついてくる。花恋の頬の感触はつきたての餅のような弾力のある感触で、且つ餅のように貼り付いてくることもないので、ついつい触ってしまう。
「一回だけだよ? 一回だけ。いいじゃん別にお兄ちゃんとお出掛けしても。」
「うーん。別に家でも良くないか?」
「駄目なのだよ!! だって、一年に一回の旅行だってお兄ちゃんと行ったことなくて、いつもお母さんと二人だもん。花恋は、お兄ちゃんと一緒に色々なところを歩きたいの!!」
「そう言われてもなぁ……」
俺としても花恋と一緒に出掛けてみたいと思ったことはある。
脳内でデモンストレーションをしたこともあるし、実際出掛けたとしたら楽しくなるだろうと思う。
でも、俺は人々から嫌われているので無理だ。
脳や夢の世界ならいくらでも花恋と出掛けられるが、空想の世界での俺が人々に嫌われていないからであって、現実で出来るとは限らない。
普通、こんなに可愛いくて美しいのだから、花恋の隣を歩く男は多数の男達に睨まるだろうに、その隣が嫌われ者の俺となっては男女構わずずっと睨まれている状態だろう。
まぁ、正直のところ睨まれたりガンを飛ばされるのが俺なら別にいいのだが、それが花恋にまで被害が及ぶとヤバイ。何せ嫌われ者の隣に居るのだ。花恋も睨まれることが容易に想像出来る。
俺が嫌われているということを理由に説明出来れば楽なのだが、まだ花恋にはこの事を伝えていない為、どう説明すればいいか対応に困った。
「……もしかして、お兄ちゃんは花恋のことが嫌い?」
「え?」
「だって、花恋のことが好きだったら花恋と一緒に出掛けてくれる筈じゃん!! でも、何度頼んでもお兄ちゃんは断わって………もしかして、お兄ちゃん無理してた? 可愛いとかお兄ちゃんは言ってくれるけど、もしかしてそれも全部気を遣ってた? ……なら、ごめん。」
「そんな訳ないだろ!!」
「-っ!!」
若干涙目になっている花恋を抱き寄せ、華奢な花恋の背中を優しく撫でる。
花恋のことを嫌っている訳がないし、嫌う理由もない。
それに、花恋は俺の心を日頃支えてくれている大事な妹。
そんな花恋に勘違いをされて、花恋との距離が空いてしまったら俺の精神は一瞬で崩壊してしまうだろう。
涙目で鼻水の啜る音がする花恋に嫌っていないということを伝える為に、俺はただ撫で続けた。
「……ぐすっ。お兄ちゃんに嫌われてると思って…」
「勘違いさせてごめんね。」
「……でも、なら何でお兄ちゃんは花恋と出掛けてくれないの? 」
「……」
「やっぱりお兄ちゃんは私のことが……」
「そんなこと無いよ。理由がちゃんとあってね。……花恋のことが嫌いな訳ないし、花恋に嫌われてたら悲しさと寂しさで死んじゃうよ?」
「……じゃあ教えて。」
「え?」
「花恋に理由を教えてなのだよ、お兄ちゃん…」
涙目に上目遣いのコンボ。
しかも涙声で言われてしまっては、花恋のことを誤魔化すことに物凄く後ろめたさを感じてしまう。
……もういっそのこと真実を言って気を楽にするか?
でも、そのことを知って花恋がどんな行動をとるか予想が出来ない…自分で言うのも何だが俺のことが好きな花恋は『お兄ちゃんのことが嫌いな人間なんていらない』などの過激な発言をすることが容易に想像出来てしまう。
正直賭けだが、俺は花恋を嫌っていないということを証明する為に行動に出ることにした。
「……明日。一応明日だったら出掛けてもいいぞ。」
「え? 本当なのお兄ちゃん!! 花恋滅茶苦茶嬉しいよ!! やったー!!」
俺がそう言葉を言った途端、花恋は泣いていたのかと疑うほど元気に俺に抱き付いてきた。まだ涙は残っているものも、悲しいことを全て吹き飛ばすような天使のような満面の笑み。俺と出掛けることが出来るのが余程嬉しいのか、もう理由なんてどうでもいいといった笑顔だった。
ーー賭けには勝ったが、明日の対抗策何も考えてないんだけど大丈夫だよな?
やっぱり花恋は可愛いなと思う反面、俺は明日どうやって切り抜けるか必死に頭を回らせた。
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