第10話

「……美菜に現れた変な気持ちについては気になるけど、告白については受け入れることが出来ない。美菜のことが嫌いということじゃなくて実はもう俺には彼女が居るんだ。だから、美菜の告白は受け入れられない。」

「えっ……」


 俺が言葉を話し終えた途端、美菜はその場で姿勢を崩し地面に手をつく。美菜は自分の体に力が入れることが出来ないのか、花が咲いたかのように開いた美菜のスカートはそのままで色白な太ももが見えてしまっている。大丈夫かと、俺は無防備な姿となっている美菜に近付いた。


「意識はあるか? 立ち上がれるか?」

「一応…大丈夫かな。でも、立ち上がれそうにはないや。力が入らなくて。」

「手を貸そうか?」

「うん。お願い。でも、幻君にはもう彼女が居たんだね。」

「あぁ。まぁな……」


 もうと言っても数時間前に出来た彼女だが。

 そんなことは置いておいて、俺は力弱く伸びてきた美菜の手を掴み立ち上がらせる。スカートが捲れ中の方が露になったことには触れなかった。まぁ、屋上だから俺含めて笠田しかいないし、立ち上がったと同時にスカートが元に戻ったので恐らく大丈夫だろう。美菜も気付いてないようだし、笠田が何も言わなければ俺がスカートを見た犯罪者ということにはならない。


 とりあえず大丈夫そうな美菜を見て俺は安心すると、美菜は俺に近付いて来た。


「立ち上がらせてくれてありがとう。……もし幻君が良ければ、幼稚園の時と同じように私と話してくれないかな?」


 接近してきた美菜は、胸を強調するかのように首を傾げながら上目遣いで俺を見つめてくる。普通に考えてずるくないかこれ? 美少女が色気ある仕草をしながら、上目遣いで頼んでくる。大抵の男など、一発でKOするだろう。心臓に対する攻撃力が高過ぎる。


 元々無視するつもりもなかったし、俺は首を縦に振って意思を伝える。すると、美菜はよほど嬉しかったのか俺に抱きついてきた。まだ苛められていなかった幼稚園の初期を思い出すようで、美菜が抱き付いてきたことに何か感慨深い物を感じたが、笠田もいることだし直ぐに引き離す。俺からした訳じゃないよ笠田さん。だから睨まないで欲しい。その目付き、人殺しててもおかしくないぞ。


「それじゃあ時間取らせちゃってごめんね。また今度の月曜日。」


 そう言って、引き離した美菜は屋上から出ていく。

 何処か焦るように出ていく姿に俺は少し違和感を感じると、美菜が出ていったことで隠れる必要の無くなった笠田が出てきた。



「……幻馬先輩は裏切らないんですね。」

「うん? 何か言ったか?」

「いやいや、何でもないですよ。でも、少しだけ嬉しかったです。もしかしたら、あの人と付き合っちゃうのかなと思ったので。」

「まぁ、流石にそんなことはしない。浮気する男に俺は同情出来ない人間だからな。」


 先ほど睨まれた時と違って、嬉しそうな表情をする笠田に俺は一息つく。


 心配させてしまったこともあるし、どうやって気分を良くしようと考えていたので、とりあえず怒っていない様子に俺は一安心だ。土下座を付き合った初日からすることにならずに済んで本当に良かった。


「それじゃあ、帰りましょう。」

「そうだな。……そういえば、笠田って何処に家あるんだ? 」

「……私の家を知ってどうするつもりですか? 襲うんですか? 」

「そういう訳じゃないから安心しろ。ただ、気になっただけだ。」

「……ふーん。」


 不満気にそう呟くと、荷物を取って一人で屋上を出ていく。


 襲うつもりなんてちっともないし、家を知って何かするという訳でもない。もしかしたら、俺はそこらの野獣と一緒だと思われていたのだろうか。紳士までとはいかないが、付き合ったばかり。初日から襲う奴とか逆に居るのだろうか。


 何か気に入らない対応をしてしまったのかと、俺は人目を極力避けながら笠田を追い掛けた。



■■■



「ぐすっ…ぐすっ…」



 放課後の誰も使うことのない空き教室。

 しかし、今日は一人の少女が可憐な顔を手で覆いながら必死に出てくる涙を抑えていた。


「……やっぱり私嫌われていたのかな。昨日まで幻君に彼女がいる様子なんて無かったし。私を傷付けないように嘘をついてくれたのかな。」


 幻馬は嘘をついておらず、ほんの数時間前に彼女を作ったのだがそんなことを知らない少女は幻馬が嘘をついていたと勘違いしていた。しかし、彼女が今日出来たという情報が少女に伝わることはない。噂含め、幻馬が徹底して隠そうとしていた為、そんなことを知る人は本人達を含め誰も居なかったのだ。


「……でも、幻君に腕を引っ張られた時は嬉しかったな。少し力強かったけど優しくしてくれたし、やっぱり幻君は優しいよ。思わず抱き付いちゃったけど、幼稚園の頃とは違ってがっちりとしていたな。」


 程よく鍛えられた筋肉のあの感触を思い出すだけで、涙で濡れた肌が蒸発しそうになる程頬が熱くなる。鍛えられていながらもそこまで硬くない胸筋。触らずとも見た目だけで鍛えられていることが分かる腕。筋肉がついていても、白くて美しい足。


 好きな人の体ということもあるが、私はもうあの体を忘れることは出来そうになかった。


「やっぱり幻君のことは好きだし、嫌われていたとしてもこの気持ちは抑えることが出来ないから、幻君を振り向かせることが出来るようにアタックしよう。幻君に気を遣っているのかクラスの皆が幻君に話し掛けてるのは、あの五人組しか見たことないし。チャンスはある。」


 勘違いしていることを間違いだと教える者が居ないため、幻馬がこの少女の誘惑に精神が脅かされることになることは容易に想像出来た。



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そういえば、「本編と関係してるけど、読まなくてもいい奴」更新しました。

………気付いた人いますか?(気付かせる気ゼロだった人。)

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