とある女の子

「……やっぱりあれは幻君だよね?」


 体育の準備運動の最中。女子の視線のほとんどがとある男子へ向けられている。

 その男子は……佐竹幻馬。私の幼稚園からの幼馴染みだ。でも、はっきりとそれを言い切ることが出来ない。


 日に照らされて綺麗に輝く白銀のように白い肌に、視線が自然と吸い込まれる凛々しい目。

 どこか中性的な、可愛さと格好良さを両立した顔立ちに、女子が嫉妬しそうな繊細で艶のある黒髪。

 百八十センチを超える高身長に、すらっとしながらもしっかりと鍛えられている手足。


 そんな彼は私の幼稚園の頃の初恋の相手であって、幼稚園の頃の良い遊び相手。今も、幻君を見ていると顔の温度が急上昇し、脈が自然と早くなる。


 なら……何故、私は幻君のことを幻君だと認識していなかった?


 面倒臭そうに体操をする幻君は、幼稚園の頃から好きだった幻君だ。優しくて、いつも私を笑わせていてくれた思い出を想像することが出来る。でも、昨日や一昨日、その時に幻君を見た時は好きという感情は沸かず、どちらかと言えば嫌いという感情が湧いていた。幻君を幻君として気がする。


「何で……何で幻君だったのに私は幻君を嫌ってーーああああああ!!」


 痛い。

 頭の中が物凄い激痛に襲われ、それと同時に絶対に考えたくない出来事が頭の中で再生される。幼稚園の頃、幻君に向かって嫌いと言った私。それからも、幻君に向かって無視を何度も続けた私。それに、少し幻君の苛めに加担していた私。


 嫌だ嫌だ。

 何なのだこの記憶は。

 これは………私がしたことなのか。


 まるで誰かに操られていたとした考えられない私の愚行。だけど、少しずつ頭の痛みが消えていくにつれて、その行為を自分がしたことだと少しずつ思い出していく。何故、このようなことを。どうして……好きだったのに。今も好きだというのに。


「大丈夫?」

「先生! 保険室連れていきます。」

「ーー美奈大丈夫か! ……お前らは大丈夫だ。私が連れていく。」


 あまりの頭に対する激痛と自分のしたことのショックで倒れた私は、地面に手を付く。そんな様子を見た私の友達は直ぐに倒れた私の元へ近付いてきて、先生も私の様子を見て近付いてくる。


 先生に抱え上げられると同時に私は意識を落とした。



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