第27話 ウィルクス公爵邸
荒れ放題になった私達の邸には見張りを立てて、クレイン様とウィルクス公爵邸に帰ることになった。
ウィルクス公爵邸は改装中だが、大きな邸だから、改装中でない部屋もある。
しばらくは、その部屋で寝泊まりすることになった。
「改装している部屋はクレイン様がお使いになる部屋ですか?」
まさか、シノビもしくは暗殺者の訓練をする為の部屋じゃないですよね?
どうしても、突入のインパクトが強すぎてクレイン様がシノビもしくは暗殺者みたいになって帰って来たことが頭から離れない。
「俺も使うが、主寝室を新しく作っているんだ。日当たりの良い部屋に変えようと思って…フフフ…勿論エステルの部屋は続き部屋だ」
「そ、そうですか…」
どうやら、それで三階の角部屋を広くなるように改装しているらしい。
そして、フフフ…とは。
クレイン様、病んでませんか?
離れないクレイン様だが、晩餐の支度の時は離れてくれた。
着替えの時まで控えられたらどうしようかと思ったけど常識はあった。
ウィルクス公爵邸のメイド二人は丁寧に支度を手伝ってくれて普段から好感はある。
ウィルクス公爵邸の使用人達はお父様の葬儀にも来て下さったし。
支度を手伝ってくれている二人のメイドにお礼を言うと、お父様に感謝をしていた。
「セルウェイ子爵様は生前、私達使用人にもよくお菓子や茶葉を下さっていました。お客様で私達使用人にお土産を下さる方なんていませんでしたから、皆喜んでいました」
お父様は、きっと将来私が嫁ぐ時に使用人からも良くしてもらえるように贈っていたのかもしれない。
元々お父様は使用人も大事にする方だったし。
そして、クレイン様に初めて頂いた蝶の髪飾りを付けて、さぁ行こう、と椅子を引き立ち上がるとクレイン様がやって来た。
「エステル、支度は出来たか?入っても構わないか?」
タイミング良すぎませんかね。
まさか覗いていたんじゃないですよね。
「どうぞ…よくおわかりになりましたね」
部屋の扉をそっと開け、クレイン様にそう言うと、クレイン様は背中に花が咲いたように満足気な顔になった。
いや、私よりも後光が差すくらいクレイン様のタキシード姿は素敵です。
「エステル…綺麗になって」
私の頬を撫でながらクレイン様はうっとりと褒めてくれたけど、クレイン様の方が素敵です。
まぎれもなく、奇行者ではなく見目麗しい貴公子に見えます!
「クレイン様の方が素敵ですよ…」
照れながらもクレイン様にそう言うと、またうっとりと見つめてきた。
「さぁ、行こうか」
「はい」
クレイン様と腕を組み、食堂に降りると玄関では、騒ぎが起きていた。
知らない年配の男性が叫んでおり、それをジャンや下僕達が邸に入らないように止めていた。
「クレイン様…どなたでしょうか?」
「さぁ、誰だろうな?気にせずに行こうか。エステルの可愛さには敵わん」
えぇ!?気になりますが…!
「クレイン様、行かれた方が…」
「エステルの為なら行こう」
「お願いします」
クレイン様は私の為と言って、私を少し玄関から離して騒ぐ年配の男性の元に行った。
「ジャン、誰だ?」
「クレイン様、それが…捕らえたブレンダ様のお父上のコリンズ伯爵です」
クレイン様は今にもため息を吐きそうなほど、面倒臭そうにした。
「何かご用ですか?」
「クレイン様!娘を牢から出して下さい!親戚なのに牢に入れるなんて…!」
「無理だな。あれは罪人だ。牢から出す理由がない」
「しかし!平民達と同じ牢に入れるなんて!クレイン様ならすぐに出せます!」
クレイン様は冷たい顔でブレンダ様のお父上を睨み付けた。
「何故俺がブレンダごときを牢から出さねばならん?俺のエステルにしたことは決して許せるものではないぞ」
「…何かの間違いではっ?」
「間違いはない。俺は今から晩餐だ。邪魔をするな…そうだな、明日の午前中にまた来い。その時に話がある」
「では、先にブレンダをすぐに出して下さい!」
「ブレンダは出さん。これ以上騒ぐなら貴様も牢に行くか?公爵家に約束もなく押し入り騒ぎ立てるなど、捕らえられても文句はないぞ」
クレイン様は、終始冷たく言い放った。
そして、ブレンダ様のお父様のコリンズ伯爵は悔しそうに私を睨み付け、クレイン様の迫力に負けて、帰って行った。
「クレイン様、大丈夫ですか?」
「問題はない。後日話はつける気だった」
話って弁償とかの話かしら?
「邪魔者はもういない。さぁ、二人だけの晩餐を始めよう」
「はい…」
そして、またクレイン様と腕を組んで食堂へと歩いた。
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