第7話 私は正直な路を歩く積りで、つい足を滑らした馬鹿者でした。

やられた!どういうことだ!くそお!!やりやがったな!!


私は自室で布団を頭までかぶり、叫びだしたい気持ちを布団の端を噛んで耐えた。ぶつぶつと呪詛の言葉は吐き続けた。どういうことだ!なんだ?どうしてこうなる!


しばらくして、


「晩御飯よお~」


と、間延びした母親の声がする。機嫌がよい時の声だ。

晩御飯?晩御飯?どうしてくれよう!


「はい、、」


とだけ布団の中から返事した。ご飯を食べてる場合じゃない!


「どうしたんですか?」


小坂君の声がする。


「ああ、ね?恥ずかしいんでしょ。」


「・・・?何がです?」


「うふふっ、、」


不毛だ。なんて会話だ!最悪だ!

ああ、馬鹿だ私!馬鹿だあ!


一睡もできずに、眼の下に隈を作って、最悪な夜を過ごした。


うとうとすると、いつかの夜に珠ちゃんに予言されたシチュエーションが勝手に脳内再生される。

夏木の手を取って、

夏木と接吻して、

夏木に抱かれて、

夏木の子を産んで、

夏木と会話して、一生、、、、


ああ、私馬鹿だ!どうしよう!考えろ!考えろ!丸一日、布団に丸まって考えたが、どうなるものか見当もつかなかった。私は朦朧とした頭で、取り合えず珠ちゃんに相談に行こうと決心した。


夏木君と小坂君は普通に学校に出掛けて行ったようだ。

母親が、何度か様子を見に来たが、狸寝入りした。

珠ちゃんは当然塾だろう。とりあえず教会に行って、神父様に聞いてもらおう!

そう決心して、もぞもぞと身支度を整えて、そっと出かけた。

とりあえず、誰かに聞いてほしかった。


ああ、こんな時に!抜けるほどの青空か!


教会までの緩い坂道を上っていると、鐘の音が聞こえる。平日なのに?

意外なほど人が集まっている。今日、何かあるなんて言ってた?


「?」


私の姿を見つけて、珠ちゃんが駆けつけてくれた。喪服だ。お葬式か?


「具合が悪そうだ、って小坂君に聞いてたけど、大丈夫?」


「あ、、、うん、、、誰のお葬式?」


「ああ、聞いてなかったか、、、孤児院のほら、英語教室で一生懸命勉強してた小さい子。高熱が出て、下らなくて、、、、そのまま。」


ああ、小坂君が英語のスペルを教えていた、あのよく笑う子。

そうなんだ、、、


鐘が鳴っている。お別れの鐘だ。ああ、こんなにいいお天気なのに!


お別れだ、お別れだ、お別れだ、、、、お別れなんだ。こんなにあっけなく、、、

小坂君の俯く背中が見える。



・・・見えるのに・・・遠いな・・・





*****



僕がお嬢さんを貰うことになった夕方、お嬢さんは恥ずかしがって部屋から出てこなかった。僕は嬉しそうにする奥さんと、顔を見合わせて少し笑った。

何も知らないKは、お嬢さんを心配しているようだった。


Kに、僕がお嬢さんと結婚することになった、と、言わなくては、と思いながら何日かがたった。奥さんからKに言ってもらうか?とも考えたが、Kが実はお嬢さんを好きだと先に言ったことがばれるのも嫌だった。僕はまじめだから。恋人の信用を失いたくないし。

お嬢さんは恥ずかしさから、ここのところ挙動不審だ。かわいいな。


それから5,6日も経った頃、奥さんが突然、


「Kに言ってなかったの?」


と、聞くのだ。


「私が、あなたと娘が結婚することになったと言ったら、驚いていたわよ。なんでしょ、お友達なのに、言ってないなんて。」


「・・・・・Kは、何か言っていましたか?」


「ええ、驚いてらしたようですが、そうですか、おめでとうございます、って。」


「・・・・・」


「ああ、それから、結婚はいつですか?って聞くので、あなたがなるべく早く貰いたいと言っていた、と。」


「・・・・・いつのことですか?それは。」


「2日も前のことですかねえ。」


2日?その間、Kは僕に対して少しも以前と異なった様子を見せなかったので、僕は全く気付かずにいたのだ!

Kはさぞかし僕を軽蔑しているだろう!でも、今更Kと向き合うのは、僕の自尊心が許さなかった。







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