第6話 「覚悟」という彼の言葉
私は少し浮かれていたかも。まあ、仕方ないよね。難しそうな顔をしている小坂君もかわいく見える。
「どうしたあ~にやにやしてるよ」
「珠ちゃーん!」
私は久しぶりに会った珠ちゃんに、年明け早々の見合い話の一部始終を話して聞かせた。私は、、、本当に幸せの絶頂にいたのだ。私は小坂君の卒業を待つのだ。
「ふーん、、意外と理解のあるお母様なのね、、、ちょっと意外だったわ。」
「でしょ?私も驚いたわ!小坂君の努力をきちんと見ててくれたのね!」
「うーん、、、そう、、、ね。」
「そう!彼は誰よりも勉強家だもの!」
「そう、、、、ね。」
珠ちゃんの歯切れが悪かったのも、その時の私には気にならなかった。
生活が大変だったら、洋裁で支えよう!私は能天気でふわふわと日々を過ごした。
だから、しばらくして、小坂君が教会に来なくなったのも、勉強が忙しいんだろうと信じて疑わなかった。何か面白いテーマが見つかったのだろう。
ご飯をささっと食べて部屋に引きこもるのも、朝早めに出かけて、夜遅くなるのも、口数が極端に少なくなったのも、、、、
私は以前母から貰った、亡き父の軍服を小坂君のスーツにリメイクしたり、コートの丈を今風に少し短くしたり、、、白のワイシャツを作ったり、、珠ちゃんにデパートに連れてってもらって、小坂君に似合いそうなレジメンタルのネクタイを小遣いをためたお金で買ったり、、、忙しく過ごした。
教会での奉仕活動は続けていたので、お裁縫を教えた帰りに英語教室をのぞいてみたが、今日も小坂君は来ていなかった。
歩いて帰る途中、夏木君に会った。彼は今日、具合が悪いと学校を休んだはずなのに、大丈夫なのかしら?
「あら、おかげんはいかが?」
「もう、治りました!治りました!」
急いでいるのかしら?夏木君はずんずん歩いて行ってしまった。へんなの。
*****
僕はKが言った”覚悟”について、何度も考えた。
(覚悟ならある、、、そう、自分の信条に添って生きていくんだろう?修行僧のような人生を望んでいたはずだ。)
(覚悟ならある、、、いや、、お嬢さんに告白する、ってことか?その覚悟なのか?)
(私はKより先に、しかもKの知らない間に、、、やらなければならない!)
僕は機会を黙って待っていたが、なかなかその機会が訪れなかったので、仮病を使うことにした。Kもお嬢さんも出かけた、今だ!今なら奥さんしかいない。
「実は少し話したいことがあるんです。」
「なんですか?」
「奥さん、お嬢さんを僕に下さい!」
「・・・・・」
「下さい!私の妻として是非下さい!」
「あげてもいいのですけど、、、あんまり急じゃありませんか?よく考えたのですか?」
「言ったのは急だが、ずっと前から考えていたんだ!」
「・・・いいでしょう・・・差し上げましょう・・いえ、もらってやってください。」
「いや、、、、、親戚とか、、本人とかの了承はどうするんです?」
「親戚には、あとから報告で十分です。娘は、、大丈夫です。本人も望んでいますよ。わたしは解ってますから。」
「・・・お嬢さんには、、、何時言うのですか?」
「早いほうが良いというなら、今日、お稽古から帰ったら言いましょう。」
「そうしてください!」
僕は落ち着かずに、あてもなく歩き出した。
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