第4話 萎える
翌日、待ち受けていたのは会社内にある看護室からの
福利厚生として設けてあるストレス診断を受けたほうが良いのでは
という提案だった。
「中野さん、今回の人事異動のことでかなりストレスを抱えてらっしゃると
お伺いしています。
会社内に心療内科の先生が来られる日があるので、
ご相談されてみてはいがかでしょうか?」
会社に常駐する看護師は優しく賢治に問いかけたが、
明らかに彼のことを精神が尋常じゃない危ない状況にある
と考えている感がある、
どちらかというと心療内科に罹るべきだ
という強い願望が含まれていた。
「どなたかから、そういう風に私に伝えるようにと要望があったんでしょ?
もう大体察しはつきます。
確かに、私の中ではもう限界に来ているかもしれませんので、
その先生に診察してもらいたいと思います。」
「それなら、明日の午後1時に先生がこちらに見えますので、
診察を受けられてみますか?」
「明日の午後1時ですね?はい、了解いたしました。
よろしくお願いいたします。」
新イベント開発部で、机を横に並べているひとつ下の後輩は
昨日から会社に出なくなっていた。
決してコロナ禍で在宅勤務をしているわけではなく、
自分の思い通りの人事異動が出なくて、
この後輩の常套手段である【出社拒否】による
一人ストライキを起こしているのだ。
この一人ストライキはこの放送局ではよく目にする光景である。
異動発表時期に最もよく見られる現象であるが、
異動してしばらくその現場で働いてみて、
その部署のカルチャーに自分を適応させることが出来ずに、
うつ病などの精神状況の診断書をかかりつけの医者から貰うことで
半年以上、会社の業務を休む、
本当のことを言うとサボる現象のことである。
自ら希望を出してその部署に行ったのに、
そこの上司や仕事仲間と反りが合わずに
【出社拒否】をする者まで出てくる始末。
一体どうしてこのような無責任な行動が
次から次へと出てくるのだろうか?
答えは簡単だ。
出社拒否をしたものには、その後、本人の行きたい部署への異動を許可し、
しかもそのような社会通念上は失点と取られる行動を起こした者にも
昇進の道が何故か用意されているからである。
賢治の次の異動先である北九州支社営業部の上司となる部長は、
正にこの出社拒否をしたにも拘らず昇進した人物だった。
しかも中途採用でこの放送局に入社した者だときたら、
今まで数々の納得のいかない異動を承諾し、
次こそは昇進だと思って頑張ってきた賢治には、
もうこれ以上やってられない気持ちになった。
「俺も、東山みたいに出社拒否でもするか。
もう、気持ちが萎えてしまったわ。」
現在一人ストライキ中の東山のデスクが
「中野さん、こっち側に来たら!」と笑いながら声高に誘ってきた。
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