買い過ぎなシャロン

 次の日からは禁書庫に通い詰める。禁書庫の中に奴隷勇者の物語があったのにはびっくりした。普通の国では、活躍した勇者の話と奴隷勇者の両方を聞かせると教えてもらったんだけど。この国は違うらしい。

 

 特産品のある領地巡りをフウイの遠乗りをかねてやる。シャロンも乗り気なので、遠乗りは毎週やることになった。行った先の美味しい食べ物、お酒、お菓子などを買って帰る。


 服はなかなか出来ないようで、先にファイアドラゴンの服が出来上がってきた。禁書庫に通って、時間を潰す。1度は村に帰ったほうがいいのかな?まあ、いいか。家には誰もいないし。



 制服が届いたのが、入学式直前で教科書などは校内で販売されているから、入学前に買わなくてもいいらしい。寝具は自分で用意するので、シャロンと買いに行く。だいたいこういうのは、親がやってくれるみたいだけどいない。


「どんなのがいいの?今で使ってた布団じゃダメなの?」

「見せてください」


 ちょっと高級な、綿入り布団を見せる。


「そうですね、こちらも悪くはないのですが。こちらのベッドなどもよろしいのではないですか?」


 シャロンはすごく高級な公爵家で使っているベッドを薦めてくる。そんな高級品は必要ないんだけど。


「寝るだけならそんなに高級なのは、いらないんじゃないかな?」

「そんなはずはないです。よく寝られますよ?いかがですか?」


 何でこんな高級なベッドセットを買わせようとするのか?よく見ると従者のベットもセットで選べると、商品の説明に書いてある。


「シャロン、心配しなくても好きなベッドを買えばいいよ。同じの買う?」

「無理です。同じベッドなんて無理です。自分で選びたいのです」

「そう?じゃあ、これでいいか。自分のベッドはどれにするの?」


 店員がどこに運ぶか聞いていて、シャロンが学園に運ぶように頼んでいた。そのままシャロンのベッドは、割と質素な綿入り布団ですぐに決まる。


「これに寝慣れていて。同じのがあってよかったです」


 グレンフェル家ではこのベッドを使っていたので、ビルヴィス家のは少し高級らしく、落ち着かないといっていた。ベッドも決まり、入学まであと2日。他にいるものはないかな?ベッドと机とソファを用意すれば、必要なものは揃うとのことで、机とソファはシャロンに丸投げ。貴族用はわからない。時間が余ったので久しぶりに魔法の本屋に行ってみた。


 なんかぞわっとするんだよね。中に入るといつもより、人が多かった。店の人は忙しそうに、本を選んであげていた。自分で探そうかな。


 魔法書専門なだけあって、基本属性から上位属性までの本は豊富に取りそろえていた。希少属性の本は気持ち置いてあった。パラパラ見たけど、グリじいよりも内容は劣っている。古代語の本はどこを探しても見つけられなかった。


「いらっしゃい、もしかして古代語の本?」

「そう、前言ってたヤツ」

「ごめん、入荷しなかった。王宮の図書館ならもしかしたら」

「全部見たことある本だった。あんまりないのかな?」

「それだと、普通に出回っている本は読んだことがあるか。モルガン魔法国家に行くぐらいしかないね」


 魔法研究の最先端を行く国。古代魔法の復活に尽力しているが、古い魔法の考えが捨てられず停滞している。資料はありそうだけど。魔法ギルドの総本部があるのもここである。停滞しているとはいえ、最先端である。他の国との差が詰まってきているのも確かである。


「そっか。面白そうな本はある?」

「今はないねえ」


 残念だけど本屋をあとにする。いい本があるかと思っていたけど、なかった。禁書の本はそれなりに面白い。使えない魔法とか、使っちゃいけない魔法とか。使えないっていうのは、グリじいの使った命が代償の魔法の類い。レベルに関係ないから、使えるといえばそうだけど。呪いのかかった本は、単純に呪いの本だった。中の呪いがあふれ出して本自体に呪いがかかってしまった感じ。残っているのはそんなに時間かからず読めるし、読まなくてもいいぐらいの本しか残っていない。面白くて夢中になりすぎた。


 入学準備が済んだので、ビルヴィス家へ戻る。制服が遅かったので入学までいることになった。宿に泊まってもいいんだけど、あと2日だからいることになった。


「入学の準備は終わったんだよね?」

「はい、必要な物品は揃いました。そういっても身の回りの物ぐらいでしたが」

「時間があるな。フウイでも洗うか、何か見て回るか」

「それなら、食べ物の補給をしたいのですが。よろしいでしょうか?」

「そんなに減った?」

「学園に入ったら、ランス様が一緒に買い物に出てくれないと、買い物も出来ないんですよ。確保しておきたいです。マジックバッグもありますし」


 時間停止型なのでダメになったりはしないけど。遠乗りで結構な買い物はしているのに、さらに買い込むのか。普段食べそうな、パンとか、買い占めはダメだ。店の全部のパンを全部買おうとしたので、さすがに止めた。


 最近、シャロンの思いっきりがよくなって、店の在庫全部買い取りをしようとする。そんなにいらないよね?どれだけ買い込むつもりなのか。1年ぐらいは過ごせる量あるんじゃないのかな?


「シャロン、買い占め禁止。だいぶ買ってるよね?」

「自由に動けないので、足りなくなることが心配なのです」

「なかったら買いに行けばいい。足りないのが当たり前だったから、ないのは慣れているよ」

「そうおっしゃるのであれば、わかりました。買い占めはやめておきます」


 しょんぼりとしているけど、買い込みすぎなんだよね。それでも買い込みは多めで、多少売り物が残されているかな。がらんとした感じがするけど。山積みになったパンをしまい込むシャロン。その量は買い過ぎなんじゃ。


 しまい込みが終わると、他の店も見て回る。食べ物のないところへ引っ越すのかと思わせるぐらいに、大量に買い付けを行っている。そんなに欲しいなら商業ギルドに頼めばいいのに。


「まだ買うの?」

「ええ。あるだけ安心ですから」

「それなら、商業ギルドに頼めば用意してくれるよ?何がどれだけ欲しいの?」

「そうですね、パンと肉、長期保存向けの野菜。作ってあるスープなんかもいいです。他には、干し肉に干し果物も。あとは何がいるでしょうか。ああそうだお茶も」


 シャロンの言葉を聞きながら、王都でそんなにいる?物流が止まるような事件が起こらない限り、心配はいらないはずなんだけど。あと、時間停止だから長期保存とか、干し肉干し果実はいるの?


 商業ギルドの受付へ。


「こんにちはランス様。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「メイドが店の商品を買い込みすぎるから、商業ギルドで用意してもらうように出来るかな?」

「構いませんが、小売りのお店自体は困っていないのでは?」

「全部買っちゃうと、いつも買いに来る人に悪いかなって」

「それはありますね。こちらはご用命があれば、ご用意させていただきますが、何をどの程度必要でしょうか?」


 シャロンに必要な量を伝えてもらう。受付嬢の顔色が悪くなるぐらいの量を頼んでいるんだろう。


「シャロン様、1度ランス様とお話をされてはいかがでしょうか?国家備蓄分ほどの食料を個人で注文されるのは、商業ギルドとしましてもお止めするしかありません」

「シャロン、どうしたの?国家備蓄分はやり過ぎだとわかるよ?」

「ですが、自由に買い物に出かけられないのでは、足りなくなってしまいませんか?」

「2人で必要な食料を用意出来ればいいよね?あとはフウイの分の草とか野菜とかおやつ。そんなに長い時間、買い物に行けないはずない。ダンジョンに潜るわけでもなく、普通に暮らす分にはそんなにいらないよね」


 不満げにシャロンは頷こうとはしない。


「バックス公爵に狙われているのですから、長期間になります」

「ああ、そのせいか。フウイの遠乗りとかも毎月するつもりだ。あとはギルドの呼び出し、頼まれれば一緒に買い物にも行く。1年分ぐらいで十分すぎるんじゃない?遠乗りのときに買い占めてるよね?」

「そうかもしれませんが、国外に行かない限りは自由に活動出来ないと考えております」

「国外に行ってくれるなら。学園にいる間の我慢だよ。生産系ギルドの学園へ退学要請もあるから、そんなに長くはいないと思う。学ぶことのないところに留まる必要はない。少しの我慢だ」


 納得してくれたのか、頼んだ物は明日には用意出来るとのことだった。学園で受け取れるので、シャロンも安心していた。学園内は自由に動けるからね。

-------------------

読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る