王城の道を覚える

「今日は何をするの?」

「禁書庫に行くつもり。どんな本があるのか楽しみ」

「行き方はわかる?」

「わからない、王城の中にあるんだよね?」


 禁書庫がどこにあるのか知らない。許可証があるけど、場所は知らない。祝福後にならないといけなかったから、そんなに気にしていなかった。


「禁書庫の場所は特定の人しか知らないから、知っている人に案内して貰うしかない。ランスの知っている人なら、マクガヴァン様にグレンフェルさん、父上とぐらいじゃないかな。誰に頼んでみる?」

「おじいちゃんが暇じゃないの?」

「マクガヴァン様は時間が取りやすいかもしれないね。手紙を書くから王城の門番に見せて、案内してくれるかどうか、確認してもらうんだよ。いきなりだから用事があるかも知れない。いいね?」

「わかった」


 禁書庫、禁書庫、何の本?どんな本?何があるのか楽しみだ。ワクワクしながら手紙を受け取る。


「そうだ、メイドは家においておくように」

「え?どうして?」

「王城には貴族が入る。狙っているのは平民?貴族だよね?それに禁書庫には許可を持った人間しか入れない。ランスしか入れない。禁書庫の外で待つしかない。その間に何かあったら、後悔するのはランスだよ?」

「一緒に入れないなら、しょうがないか。シャロンはお留守番」


 何でそんな落ち込んだ顔するの?安全な場所にいてよ。


「よし、行こう」


 フウイはダメと言われた。なんで?ビルヴィス家の馬車に乗って、送ってもらう。ベイジーンが一緒に降りて、門番に手紙を渡すのを見ている。


「こちらの手紙を指南役マクガヴァン様にお渡しください」

「かしこまりました。確認を行ってまいりますので、お待ちください」


 一緒にベイジーンがいるのかわからないけど、話がちゃんと進むならいいね。馬車の中で待つことも出来る。次は1人で来られるかな?


「フウイで来ちゃダメなの?」

「いいけど、次からにして。顔合わせと場所を合わせて案内してもらえるように、手紙に書いてあるからね」

「次から一緒に来られるなら、わかった。そろそろ、遠乗りしないと。馬房から逃げ出さないといいけど」

「住んでいるところでは、フウイはどうやって飼ってるの?」


 村でのフウイ?


「家の厩舎というか、雨よけを作ってあるだけ。風よけの壁があって、出入り口側は出ないように棒をつけていたけど、すぐに外すからつけるのをやめた。自由に出入りして、夜には帰ってくる。村の近くは森になってるから、そこで自由にしてる」

「それって大丈夫なの?帰ってこなかったり、誰かに追いかけられたり、肉食の魔獣に襲われたりしないの?」

「呼んだらすぐ帰ってくるよ。人には手を出さないようにいってるけど、危害を加えるようなら殺されてもしょうがないんじゃないかな?肉食系が嫌いみたいで、よくクマとかオオカミの頭を潰して、持って帰るよ。おかげで肉の心配はあんまりしなくていい。魔獣も普通に狩るんじゃないかな?実習の時も許可を出したら頭を潰していたし、心配してない。ダメなら逃げてくるぐらいは出来そうだけどね」

「そんなに強いなら、自由でもいいのかな」


 そうそう、フウイは自由でいいんだよ。心配はしてないから。


「お待たせしました。マクガヴァン様がいらっしゃるそうです」

「そう、ありがとう」


 門番は元の位置に戻っていった。しばらくしておじいちゃんが登場。場所を降りる。


「久しぶり、今日はお願いします」

「任せておけ。顔通しまでは済ませておく。それでええかの?」

「しばらくぶりです。よろしくお願いします、次からは1人でも来られるようにしてあげてください」


 ベイジーンは挨拶もそこそこに、馬車に乗ってどこかに行った。


「まずは厩舎から紹介しておこう。あの天馬に乗ってくるんじゃろう?」

「うん、そう」

「前に行った訓練場の近くに馬房がある。そっちに行くかのう」


 門から左側に向かう。右の方が広くて石畳になっている。馬車用ってこと?左は石をばらまいただけの道で、歩くと音がする。


「重い物を運ぶと石畳が割れて補修が大変でな、石をまくだけが補修しやすいんじゃ」

「そうなんだ。重いものか」

「入ってすぐに門があって、そうじゃ、これから通うことになるランスじゃ。来たら通してやってくれ」


 わかりましたと兵士達は応えている。


「身分証を求められることがあるが、見せてやるんじゃぞ?」

「わかった。どれを見せたらいいの?」

「冒険者のギルドカードでええじゃろう。ここの門をくぐったら、厩舎がある。ここで預けるんじゃぞ。王子のために預かっておったときは、暴れて大変じゃったのを覚えておる。大人しくなったのかの?」

「え?暴れたことないけど?ちゃんと預ける人の言葉は理解しているから、変なことをやったり、いったりしない限りは大丈夫だと思う。薬師ギルド、冒険者ギルド、ビルヴィス家で預かってもらったことがあるけど、暴れたと聞いたことがないよ」


 話しながら厩舎の人達を呼び寄せる。


「あの天馬に認められたランスだ。これから預けに来るが、きちんと世話をしてやるように。ランスの元に来てからは暴れたことはないそうだ。頼むぞ」

「それは本当ですか?あれほど手がつけられずに、近づくことすら出来なかったのに」

「近日中に暴れた馬の報告を聞いたことはあるか?」

「男爵家の魔馬が暴れたぐらいです。天馬が暴れたとは聞いていません」

「ならば、天馬は大人しくなったということじゃ」


 表情が暗いんだけど、連れてきていいのかな?


「そんなことでどうする?いつも魔馬を扱っているのは、国軍が1番のはずであろう。主を見つけた魔馬を扱えんほどに、落ちぶれたわけではあるまい」

「わかりました」


 力なくうなだれる、イヤなんだろうな。厩舎をすぎると訓練場までは1本道。訓練場前に扉があって、そこを開けると城内に入れるみたいだ。鎧を着けていない騎士達がたくさんいた。一斉に立ち上がって、整列している。そういえば、おじいちゃん偉いんだった。


「騎士達の休憩所じゃ。ここを通り抜けるのが1番速い。皆、よく聞け、これから禁書庫に通うためランスがここを通る。邪魔はせぬようにな」

「はい」

「通りすがりじゃ、楽にせい」


 通り過ぎるまで、ずっと整列したままだった。


 奥にある扉を通り抜けて、道なりに進んで突き当たりを右に曲がって階段を上る。上がっていくと最初の扉を開ける。


「図書からは数えて5番目。覚えておくんじゃ」


 左に曲がって突き当たりの扉を開くとたくさんの本が並んでいた。図書館だ。


「ここが図書館になっておる。許可証をここの司書に見せれば、案内してくれるはずじゃ」

「マクガヴァン様、本日はどのような本をお探しでしょうか?」


 丸眼鏡をかけた人が近づいてくる。


「いや、今日は案内に来ただけじゃ。ここに通うじゃろうから、顔を覚えてやってくれ。ランスじゃ」

「よろしくお願いします。ランスです」

「もしかして、魔道具と付与師ギルドでS級を取ったランス殿ですか?」

「そうです」


 眼鏡をくいっとあげるとぐっと顔が近づいてくる。体をずらして、おじいちゃんの後ろに隠れる。


「珍しい人物ではあるが、後見はビルヴィス公爵家とキンケイド侯爵家が務めておる。両家に泥を塗るマネはせんじゃろう。くれぐれもよろしく頼む」

「左様ですか。ここの図書にも珍しい本はありますので、ごゆっくりされてください。持ち出しは出来ませんが」

「なんか見てみたい本はないのか?」

「古代語の本はある?」

「ほほう、宮廷魔道士様ぐらいしか見ないと思いましたが、数冊でしたらございます。お持ちしましょう」


 並んだ机の1つに座ると司書の人は本を取りに回っている。壁一面、本が天井まで並んでいる。たくさんあるよね。どんな本が置いてあるのか、見て回りたい。


「勉学に向いておるのか。戦闘も強いと思うたのにのう」

「技の練習も出来ないんだから、生産の方がいいよ。ダンジョンにでも行かないと、技の練習も出来ない。おじいちゃんぐらいが、ちょうどいいんだよ」

「それほどの力、冥土の土産に見てみたいのう」

「わざわざ見せないよ。王都にいる間は、無理だよ。ダンジョンがない」


 おじいちゃんは隣に座って、司書の動きを追っている。


「ダンジョンか、国内であれば高い等級のダンジョンは存在しておらんな。修行をするのにはちょうどいいぐらいじゃろう」

「前の群衆突撃もすぐに終わっちゃったから、もっと強いのが欲しいよ。でも、強くなくてもいいからダンジョンがあれば練習場になるんだけどな」

「あるなしは我らではどうにもならない」


 お待たせしましたと司書が持ってきた本の題名を見る。そして中を確認する。


「全部読んだことある本だ。他にはないの?」

「そうなりますと禁書庫になります。こちらは通行証がいります」

「ランスよ、今日は行き帰りを覚えるべきじゃろう。禁書庫はここに来れば、いつでも案内してもらえる。1度戻ろう」


 ここまでの道をしっかりと覚えるのが先だと思って、おじいちゃんのあとについて帰って行く。確かに5番目の扉を開けると階段が現れた。あとはだいたい真っ直ぐに突き抜けて、休憩所に出て厩舎へ。


「覚えられたかのう。なるべく簡単な道を選んだつもりじゃ。それでどうじゃ、よって行かんか?」

「用事ないし、何か壊れても困るからやめておく」

「少しくらいならいいじゃろう」

「王城が壊れてもいいなら、行ってあげる」


 どうしても来て欲しいみたいで、責任は持つというのでついていく。訓練場では部隊の人が剣を振っていた。


 前の隅っこに来ると木刀を渡される。


「その技を見せて欲しい。振るだけでいい」

「無理だって、前に説明したでしょう?」

「そうなんじゃが、見てみんとのう」

「せめて、もっと短くて細い棒はないの?」


 木刀を返すと他にないのか探してみる。壊れた木刀があったので、それを削って短く細くする。手のひらの長さに、細さは小指よりも細い。


「そんな物でやったところで、威力が出ないじゃろう」

「出ないようにしてるんだよ。それじゃ、やってみるよ」


 壁に向かって上から下へ振り下ろす。ソードスラッシュに似た何かが出ると、壁に当たって一部が壊れる。まあ、威力は抑えられたかな?


「な、何をしたんじゃ、武技ではないようだが」

「これが普通の攻撃なんだけど、いい具合に抑えられているようでよかったよ」

「これが普通?ソードスラッシュではないと?」

「そうだよ。前から説明しているとおりのはずだけど?木刀だったらもっと威力が上がるけど、試してみる?今のが壊れるぐらいだから、練習場の壁を突き抜けるだろうね」


 2,3回振ったら、もうやめてくれとせっかく作った棒をとられた。


「威力をわざわざ落としたのに」

「この棒でこの威力とは。疑ったワシが悪かった、すまん。あんまり壊されると、修理が大変になるんじゃ。実際見てみると、ランスのいっておったことが理解出来たのう」

「だからいったのに。道はわかったから帰るね」

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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