公爵夫人3

「ようこそいらっしゃいました。お席へどうぞ」

「用意は出来たのかしら?」

「いくつか見繕ってご用意しました」


 机を挟んで夫人2人、同じソファにエロイーズ。シーラさんが1人がけに座った。


 珍しい他の国の薬草もある。ウコン、カッコン、シャクヤク、ショウガ。ローズマリーやアーティチョーク、ジャーマンカモミール、セントジョーンズワートを組み合わせているからで、扱ったことのない薬草を混ぜていいのか?


「ほう、鑑定も使えるのかい。そこまで使えるのは一握りだっていうのに」


 鑑定用の魔方陣が目の前にある。その周りに補助をするための小さな魔方陣があり、さらにもう1段前にも魔方陣がある。


 抽出でいけるか、それを白粉に混ぜて基材はそのままでもよし。どちらか効果を特化させるべきか?


「美白と老化防止はどっちがいい?」


 空気が止まるような感覚がして顔を上げる。鋭い目つきになっている2人が、恐ろしい雰囲気を漂わせている。


「エロイーズは日に焼けるから、美白と少し日焼けの防止が追加でつく配合がいいかな?どう?」

「そうだな。それでいいぞ」

「もう少し保湿もくわえてと」


 カッコンのエキスを追加でくわえて、他の成分も増やしたりした。


「日焼け防止に美白を追加した白粉の配合。製作してもらって」

「貴族用ということになるのかねえ」

「輸入品を使うから、少量だからそこまで高くならないと思うけど」

「とにかく新作だ。最初は強気にいこうじゃないか」


 シーラさんは売り上げることに乗り気である。作れといわれて、無理矢理作らされているだけなんだけど。


「今回はこ、これでいいの?」

「老化防止を作らずに帰れると思うのなら、顔を上げて正面の方々に許しをもらうべきだよ」


 2人と目が合うと笑顔を向けられる。それはもう、見たことのないような笑顔で。冷や汗が。目が笑ってない。

 

 ウコン、シャクヤク、ショウガのエキスにジャーマンカモミールからローマンカモミールへ変更。ローズマリーも増量で配合を作る。


「これでどうでしょうか?老化防止をふんだんに配合しております」


 それをシーラさんに渡して、正面を見ると穏やかに笑っている。さっきの緊張感漂う笑顔とは違う。


「いつ頃出来るかしら?」

「薬師ギルドで作ってもらわないといけませんので、数日はいただきたいかと。材料はあるので、すぐにご用意出来ると思います。あと必要なのは、成分に合わせた容器のデザイン。今までは中身による変化をつけていませんので、取り違いに問題がありました。種類が増えるので、わかりやすいデザインを考えたいものです」

「それもそうね、普段使いと外に出る白粉が同じデザインでわかりづらかったわ。どうにかなるのかしら?」

「何かないかい?作るのはランスなんだから」


 ずっと無茶苦茶だ。いきなり言われた新作をこの短時間で作ったのに、新しい容器まで?


「日焼けに強い、今までのは太陽。新しいのは太陽と顏。日焼け成分少なめの室内用は無地。あとは老化防止はローズマリーでどうでしょうか?」

「とりあえず作ってみてくれないかい?」


 入れ物は大量に作っていたので、新しく作るのはそんなに難しくはない。ちょっとイメージを追加するだけだから。ローズマリーを見慣れてるせいで、精巧に出来てしまった。細かい葉の感じとか。


 出来上がった容器を見て、それぞれに見ている。


「太陽は悪くないわね。ただ、顔がもう少しどうにかならないのかしら?子どもの落書きのようだけど」

「誰でも顔とわかればいいかと。それでしたらローズマリーのように、繊細にやってみます」


 ローレット様より助言があったので、顔は誰がいいかな?


「これはいいわね。みんなが欲しがりそうな顔をしているわ。誰なの?ずいぶん美しい女性のようだけど」

「お母さんです」

「そう、あなた母親似なのね。ふふ」


 お母さんに似ているのかな?鏡とか見ないからわからないけど。容器自体はこれでいいということになった。暇が出来たら作りに来るよう、お願いされた。


「思ったよりも早く出来たわね。少し早いですけど、昼食にしましょう。そのあとはデザートのお店だったわね」

「デザートですか?お食事のお店だけかと思っておりました」

「もともとランスが行く予定だったから、私たちは付き合うだけよ」

「そうでしたか」


 夫人達が話しているのを静かに聞いている。流れている風景に人通りのある道を眺める。


「それでランス、その知識はグリゴリイの教えということでいいけど、武術は誰に習ったのかしら?公爵家の警備隊長を一撃で倒したそうじゃない。まさかそれまで秘密といわないわよね?」

「秘密です。この国を出るまでは特に。シャロンに聞いてもムダですよ。誓約ですから。死んでもしゃべれません。同じくおじいちゃんに聞いても同様です。蛮族の治める国に知られたくなどありません」

「さすがに蛮族とはいいすぎではないかしら?」

「同意なく連れ去ることを蛮行といわずしてなんと表現するのですか?盗賊?では、盗賊国家、そういいましょう。王族ではなく盗賊と呼びましょう」

「あまり言い過ぎると、さすがに怒りますよ?」

「構いません。このことに関しては、この国と戦いになったとしても後悔しません。全力を出したいと思っていましたので、1国分の実験場が出来たと考えれば、とても魅力的なお誘いです。あとローレット様、賠償金の支払いはいつになりそうですか?1年以上支払われていないのですよ?」


 ピクンと眉が跳ねる。


「それはサイモシーに聞いて頂戴」

「次会いましたら、伺ってみますね」

「賠償金とはなんだランス」

「この国が婚約者を奪った代償だよ。自分たちで認めているんだから。早く払って欲しいよ。本当に誠意のかけらもないよね」


 女性陣は気まずそうな顔をして、別の話題に。今日出来た白粉の話をし始める。それを流し聴きしながら、外の流れる風景を眺めている。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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