公爵夫人2

 起きてから出かけようとするのを止められた。馬車に乗っていくらしい。フウイに乗っていきたかったんだけど。屋敷に戻されて、時間が来るまでの間、部屋の中にいることになった。


「行きたくない、自由にやりたい」

「ランス様がやり過ぎたと思います。S級を2ギルドで認定されるなど、聞いたことがありません。S級を4つ持っているのも噂ですら聞いたことがありません。どこまでも才能があるのかわかりませんが、大人しくしてください」

「祝福を受けたんだからいいの。それまでずっと生活魔法だけでなんとかしていたんだから」

「一気にやらないようにしてください。本当に。契約を解除してもいいんですから」

「ええ?なんでそうなるの?」

「狙われるのはランス様ではなく、私になりそうだからです。ランス様はお強いですから、私を人質にして言いなりになればいいぐらいに考えるかも知れません」


 狙われる?人質とかそういうのかな。それはそれで困るね。ペンダントがあればなんとかなるかな。


「ペンダントがある程度は守ってくれるけど、そうだね、そういうこともあるか。じゃあ、何か魔物でもテイムして守らせようか?フウイはダメだよ」

「いえ、結構です。お世話が大変そうなので」

「他だと思いつかないな」

「ですので、便利だからと何でもかんでもやろうとしないでください」


 困ったな、やりたいこともやってみたいこともたくさんあるのに。


「やりたいこともあったんだけどな。いったん保留しておこう」

「そうしてください」


 悲しいことだけど、シャロンを雇うならしかたない。身の回りのことが面倒だったんだ。やってくれるならそれがいい。


「お待たせしました。準備が整いましたのでこちらへどうぞ」


 案内のまま馬車に乗るとベイジーンのお母さんだけだった。


「出して」


 馬車が動き出す。シャロンは乗り込んでいない。困った。


「これからどこへ向かうのでしょうか?」

「まずはグレンフェル家へ。それから商業ギルド。昼食を頂いてから、デザートのお店へ。最後に服を見に行くわ」


 グレンフェル家?なんで?


「知り合いがいた方がいいと思ってね、誘っておいたの」


 知り合いだけど、あの事件以来だよ?貴族街には用事もなかったから、会うこともなかったんだよね。貴族街を進んで、久しぶりに見るグレンフェル家。その前に止まって、馬車の後ろからメイドが門番に取り次いで、門番が屋敷に取り次いでいる。

 しばらくしてエロイーズのお母さんとエロイーズが。知ってるけど。何でエロイーズまで?


「お待たせいたしました、ローレット様。ランスも久しぶりね」

「さあ、乗って頂戴。パティ、エロイーズ。まずは商業ギルドへ行くわよ。今日は無理を言って申し訳なかったわね」

「いえいえ、そんなことはありません。暇をしておりましたので、お誘いいただいて嬉しかったです」


 ベイジーンのお母さんはローレットという名前で、エロイーズのお母さんがパティという名前だったんだ。エロイーズが隣に座る。


「本日の予定をお伺いしてもよろしいですか?」

「商業ギルドでランスの新作を買う予定よ。ねえランス?」

「あの、昨日初めて新作と聞いたのですが、開発する時間も材料もありません。新作が出来るとは思わないのですが」

「あら、そのために午前の時間をとったのよ。出来るわよね?時空間魔法に、壊れた古代の遺物の復元、喪失技術の復活。新作なんてそれに比べたら、簡単なものよ」


 これって怒ってる?


「これだけの偉業を数日で行ってしまうのだから、新作ぐらいは作れるわよね?」

「偉業だったのですか?グリゴリイの知識を修めていれば、なしえる技術です。教えを得たからこそ出来ることであって、時空間魔法は才があったのかとは思いますが、それで白粉の新作を作れるとは思えません」

「そうなの?確認をしてもらったのだけど、グリゴリイの知識があったとしても出来ないと、弟子の1人が証言してくれたのです。伝手があって聞いたのだけど、それを説明してもらえる?」

「その弟子は本当にグリゴリイの弟子なのですか?グリゴリイの本は全て説明出来ますか?僕がベイジーンにしているように。あと古代語はきちんと理解されているのでしょうか?グリゴリイの魔法理論、古代魔法の理論と構築には古代語の理解が必須です。それが出来ていないのならば、出来の悪い弟子だったのではないでしょうか」

「古代文明の解明に尽力している弟子なのよ、古代語には精通しているの。本当のことを教えて頂戴」


 時間は経ったが、まだ教えるには早いと思う。この国の人に教えるのも、考えてしまう。


「誓約が必要です。シャロンのように。まだ、教えるには時期尚早だと考えています。それにここにいる方々は、信頼に足る人物だと思いますがこの国の方。この国を治める一族に仕えていらっしゃいます。行われた仕打ちは一生忘れることはないでしょう。ですので、お教え出来ません」

「あの行いは確かにそうね、グリゴリイの教えを受けた人物を教えてはもらえないの?」

「申し訳ありませんが、この国にいる間は秘密とさせていただきます」

「どこかへ行く予定が?」

「ファーレ王国に修行に出る予定です。学園のことは断っておけばと、後悔しているところです」


 ローレット様は口元を扇子で隠す。


「困りましたね」

「何か困ることでもあるのですか?」

「グリゴリイの教えを受けたのなら、弟子に当たる方の名前が必要なの。グリゴリイの弟子は、勇者連合国で名前を共有しているので。勇者連合国はグリゴリイ様の反感を買ってしまったので、弟子の方を保護しているのです。その中の名前がわからないとなると、この国での貴族のけん制が」

「ならば、保護の必要はありません。国に保護されるつもりはないです。特にこの国には」


 それ以上、ローレット様は目を細め、言葉を出さなかった。


「ランス、黙って聞いていれば。祝福を受けて調子に乗っていると痛い目を見るぞ?」

「そのためにいろんなことを教えられたんだ。この国を滅ぼすぐらいなら、そんなに時間はかからないと思っているよ。この国のレベルの低さは知っているつもりだよ?」

「いったな?勝負してやろうじゃないか。祝福を受けたからといって、いきなり強くなることがないことを教えてやろうじゃないか」

「祝福前でも音を上げていたのに?それに攻撃する魔法なしの戦いじゃないよね。まさか、昔みたいな剣だけの条件でやるの?生活魔法に対抗する手段は見つけた?」

「そ、そんなことはない。今なら、ランスにも対抗出来るはずだ」


 何でそう言い切れるのかわからないけど、普通にしていれば美人さんなんだよね。中身は脳筋騎士だけど。


「それよりさっさとおじいちゃんを倒して、引退させてあげて。もう年だよ」

「今だ、倒せると思えない。追いつきたいのだ。それよりもランスが引退を勧めて、この国を守ってくれればいいんじゃないのか?その時は嫁に行くぞ」

「王族狩りしていいならね。貴族との婚姻なんて嫌だよ。エロイーズは剣の腕を上げる気がないし、つまんない」

「人をつまらない女みたいにいうな。失礼だな。訓練はしている」


 ため息を吐くと王都の町並みに目を向ける。ここも見慣れてきた。


「このラント王国に残りたいとは思わないの?」

「両親も死んで、大切な人も奪ってしまう国にいたいと思うほど狂っていません。縛られる爵位もありません、逆にいる意味はあるのでしょうか?」

「暮らしていた村に愛着があるでしょう?住んでいたのなら多少はあるはずです」

「あの村では邪魔者で、いい思い出がありません。話をする人が何人かいるだけです。それは王都と変わりません。唯一、両親の残した家があることぐらいです。母の形見は自分で持っていますので、家もあんまり思い出したくないことが多いです」

「母の形見は売ったりしなかったの?」


 ハイとだけ答える。それだけはしないようにいわれている。大変だったけど。


「それを見せてもらえない?」

「結婚すると決まった人にしか見せるなといわれています。決まっていたあの人には見せましたが」

「何か言っていましたか?」

「母の出身が高位貴族か豪商ではないかと。そんなはずがないのに、見たときにいっていました」

「見ればどこの出身かわかるかもしれないわよ?」

「いえ、両親が何者であっても、もう関係のないことです」


 商業ギルドにつくと貴族用の部屋に通される。机にはいくつかの薬草が置かれていた。

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読んでくれてありがとうございます。

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