公爵夫人1

「今日は遅かったね。魔道具ギルドはどうだった?」

「氷の属性を付与した魔道具を作ってた。うまく再現が出来て良かった。そうだ、ベイジーン、冷たい食べ物はある?」

「冷たいか、料理長が作れるかもしれないけど、どうして必要なんだい?」

「食べてみたいのとシャロン、見せてあげて」


 新しく作った冷保庫を出す。調整のつまみに苦労したけどね。


「マジックバッグに収納してもいいけど、こっちに入れておいたら外に出しても冷たいままだからね。修復はそんなに難しくなかったけど、制御が難しかったかな?」

「氷の魔道具?」

「上は氷の温度だけど、下は冷たいぐらいなんだ。下の飲み物を飲んでみたら?店で買ったものしか入ってないけど。選べる人に選んでもらってよ」


 執事さんが登場し、素早く1本とるとグラスに注いでベイジーンの前に。グラスをとって口に運ぶと冷たいねと感想をもらう。


「ちゃんと冷えていて良かった。冷たい食べ物や氷の食べ物があるかと思って。作ってくれる店でもいいんだけど」

「それなら、紹介しよう。どちらかというと、デザートのお店になるよ」

「うん。入れておきたいだけだから。でも、試食はしたいな」

「夏には予約で入れない日もあるぐらいの店だよ。今の季節は予約なしでも入れるはずだ」

「予約は今からでも出来るかな?」


 手配しておいてくれるというのでお任せした。デザートが楽しみ。


「あら、どちら様?」


 見たことない女性が入ってきた。若く見えるけど、貴族の人が着るような服だ。イスから立ち上がると一礼する。


「平民の子みたいだけど?」

「母上、紹介します。ランスの白粉を作ったランスです」

「お初にお目にかかります、ランスと申します」

「あら、礼儀正しい子は好きよ」


 ベイジーンのお母さん?コロコロと楽しそうに笑う。促されて席に着く。


「ところでその箱は何かしら?」

「本日、魔道具ギルドで現在は冷保庫として使用されている古代の遺物です。その保冷庫を古代の遺物の形で作り、魔方陣を復活させ、使えるようにしたのが、こちらです。上は氷温、下は冷温を自動で保つようにしております。魔石の交換だけで良いようになっています」

「そう、今までのものとはどう違うのかしら?」

「今までは氷温を出し続けることしか出来ず、温度は下がり続けるようになっていました。それ自体を入れる場所や魔石の確認がしづらいという欠点を持っていました。この冷保庫の内部は、一定の温度に保たれ、外から魔石の様子を知ることが出来るので変えるのも楽になりました。それぞれの温度で多少の温度変化をさせることが出来ます」


 きちんと冷えるのかしらと近づかれ、扉を開けて中を見ている。


「直接冷やす構造になったのね?」

「はい。その通りです」

「上下で温度が違う。下は飲み物に適温なの?」

「そうです、氷より暖かく冷たく感じていただける温度のはずです」


 一通り確かめるとソファーに座って、こちらを見ている。


「優雅さが足りないわね」

「申し訳ございません。試作の動作を確認するため、基本的な機能しかつけておらず、そこまで気が回っておりませんでした。売り出す際には細工を施し、貴族様のお屋敷にふさわしい出来になると聞き及んでおります。まだ試験中ですので、ご容赦願います」

「なら、しかたないわね」


 欲しいってことではないみたい。


「明日、冷たいデザートを買いに行くそうです。冷たいまま出すには、マジックバッグに入れたあと外に出したら持たないけど、これに入れておけばずっと持つんだよね?」

「そうでございます」

「いつものしゃべり方でいいのよ?主人もベイジーンにもそうしているのでしょう?方々から聞く無礼な態度も、その様子を見るとその価値を示せていないのでしょう」


 無礼な態度なんてとってた?


「勘違いをされておりますので、訂正させていただきます。礼を持って接する方々には礼を持って接しております。無礼と受け取られている方は、そう態度をとられてもしかたのない行動をとられているのです。それで権力を振りかざすのならば、対抗するだけです。この国の魔法師団のように」

「ベイジーンと主人にはくだけた様子だと聞いていたのだけど、私には違うのかしら?」

「ビルヴィス公爵様にも言葉遣いは、丁寧にさせていただいております」

「それにしては緊張しているように見えてよ?」


 その観察するような視線が、緊張する。


「それで母上は王都へ来られたのは、何か用でも出来たのですか?」

「ランスの面倒を見て欲しいといわれてね。時空間魔法の使い手に、失われた魔石付与の技術を持つ平民が現れては、有象無象が殺到するでしょう?ビルヴィス家で懇意にしていることを知らしめるために呼ばれたのよ」

「本人の前でいっても良かったのですか?」

「隠してもしょうがないでしょう?白粉の新作も作って欲しいのよね。それにすごく可愛いじゃない。着せ替えをするのも楽しそうなの。買い物に付き合ってもらわないと。デザートのお店は、お昼のあとに行きましょうか」


 楽しそうに笑顔を向けられても困る。白粉の新作って何?話しについて行けない。


「新作を1番に手に入れることが出来れば、懇意にしていることを周知出来るでしょう?難しく考えることはないわ、明日は一緒に行動をしてくれればいいの」

「母上、そこまでしなくても。自分もいます」

「学園で昼の間はいないのに。時間もそこまで取れないでしょう?あなたはまだ学生なのですから。何かしたときに対処出来るの?」

「止めることは出来るかと」

「そのあとの対処もできないでしょう。明日の予定は急遽、合わせておいたから大丈夫よ」


 予定を合わせて、明日は買い物を一緒にするの?それは面倒な気がする。どうにも出来ないらしく、魔道具ギルドにもいかないといけないといったが却下された。時間の猶予はないようだった。


「ランス、頑張って」

「着せ替えって何?」

「とにかく頑張って」


 ベイジーンはずっと頑張ってと繰り返していた。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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