メイドを雇う3

 話が終わると出て行ってしまった。何だったのかと首をかしげる。


「それではランス様、シャロンとの契約書をお読みいただきサインをお願いします」


 出された契約書には衣食住を保証することとか、雇っている人の命と尊厳を守るとか、給料の支払いとか、体調不良になったら休みを取れるようにするとか、そういうことが書かれていた。


「これでいいよ。給料って自動で払えるってあるけど、どうすればいいの?」

「契約が終わりましたら、ご説明いたします。どこかのギルド員になる必要があるのですが、もうなられておりますので問題ありません」

「それなら契約する」


 書類の一番下にサインをすると紙が少し光った。契約に誓約の下位互換みたいなのを使っているのか。きっちりしている。


「これで契約は成立しました。メイドを解雇する場合は、当ギルドまでご相談ください。該当の従者との関係や提案をさせていただき、より長く雇用していただけるようサポートして参ります」


 もう1枚契約紙が出てくる。


「こちらが所属ギルドからの給料の自動送金に関する書類です」


 送金元のギルドに名前、今のランクをと説明を受けながら記入していく。


「では、最後に承認を行いますのでこちらへどうぞ」


 部屋の隅にギルドカードを作るような装置があって、書類を載せた場所がついている。書類を載せたのでわかったけど、ギルドカードも載せて、指示通りに手をかざしてしばらく待つと終わった。


「気をつけてねシャロン」

「たぶん大丈夫。守ってくれる人だから」

「失礼、ランス様でございますか?」

「あ、ベイジーンのところの。どうしたの?」

「ベイジーン様から公爵邸にお連れするよう仰せつかりました。従者の方もご一緒にとのことです」


 別れを惜しむように頷いていた。使いの人と一緒に外に出て、フウイに乗る。シャロンは馬車に乗ってもらう。公爵領に行くのに許可はいらないけど、仲良くしているから話だけはしておいていいだろう。貴族街に入って行く。


「面倒なことを引き受けているようだね、ランス」

「見知ったメイドさんで誓約済みだから、融通を利かせてもらってる分ぐらいは面倒ごとはあってもいいんじゃないかな」

「そうなんだ。誓約しているなんて珍しい。次のところが決まりにくくなるから、メイドって嫌がるはずなんだ」

「なるほど。辞めなくてすむように、働いてもらえればいいけどな」


 誓約って次の働くところに響くのか。見つかりにくくなるから、嫌がるのはしかたない。


「確認だけど正式な契約は結んだ?」

「従者ギルドの手続きは終わったよ。ねえ、シャロン」

「正式なギルドの書類や契約手続きは終わっております」


 話しながら応接間に通される。ソファに腰かけると、その後ろにシャロンが立つ。


「うちにいれば安心だ。試験が終わるまでは気兼ねなく滞在してくれていい。わざわざ、うちの領地に滞在する必要はないよ」

「ありがとうベイジーン。聞きたいんだけど、バックス公爵が手を出してきたら冒険者として対応していいんだよね?」

「手荒なまねをしてきたら構わないよ。何なら賠償金も頂こう。ただ屋敷の外で攫われたりとか、そういうのまでは守れないから。ランスが用事で連れて行けない事情になったら、うちで預かるのは構わない」

「それは助かるよ。ほとぼりが冷めるまでは危ないから。お礼は何がいいかな?思いついた、ベイジーン、ビルヴィス家の紋章を見せてくれない?」


 ベイジーンは使用人に指示して、紋章のついた服を持ってきてもらう。


「旗は父上の管理だから持ってこれないんだ」

「いや、これで十分だよ」


 服についている紋章をまじまじと見て、目をつぶる。目を閉じても思い浮かべるようになるまで、何度も見返す。



「よし、作ろう」


 服をどけてもらってから、形は単純にして、紋章だけがちゃんと出来ているように。四角い瓶に紋章を1面だけ貼り付けたような形。でこぼこやギザギザは作っていない。


「これをもらえるのか?」

「ビルヴィス家の家紋を他の人にあげられない。これをお礼として送る」

「執事長はいる?」

「お連れいたします」


 呼び出された執事長は優雅な所作で入ってくる。


「ベイジーン坊ちゃま、どうされましたでしょうか?」

「ランスのメイドがバックス公爵に目をつけられている。諦めるまで預かることもあるので、そのように周知してくれ。そのお礼としてこの瓶が送られた。そのことを父上に伝えてほしい」

「こちらを、ですか。見事としか言いようがない装飾。これほどの透明度の高いガラスに、細工はビルヴィス公爵家の紋章。誰が見ても賛辞を贈る品でしょう。作者は伏せた方が良いのでしょうか?」

「紋章付きは販売するの?」

「販売しないよ。あくまで個人的な頼みの個人の礼だから。そこにお金を積まれてもやらない」

「でしたら、ランス様より頂いたお礼なので、作者はわからないということにいたしましょう」


 執事さんは他の使用人達に指示を飛ばして、服を片付けて高級そうな箱に高級そうな布瓶を包んでしまうと自ら持っていった。


「個人の礼なら、いや、どうにか作ってもらおうとするかもしれない。気をつけるんだよ。ランスだけなら大丈夫だろうけど、メイドが心配だね。学園内ではそういうことがないはずだけど、何か対策はしておくべきだ」

「対策か、この際だからいる物を作ろうか。もう遅いのか、明日にするか」

「魔道具を作れるのかい?」

「作り方は教えてもらってるから、やってみるだけかな」


 急なお邪魔だったけど、公爵家の対応は前と変わらずだった。公爵様は仕事で遅くなるので、先に休むことになった。店が始まる時間になって、公爵家から出発する。

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読んでくれてありがとうございます。

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