メイドを雇う1

 王都に着くとフウイに乗って冒険者ギルドへ。王都では目立つから冒険者ギルドか薬師ギルドに預ける。預けたらちゃんと面倒を見てくれる。フウイも嫌いではないようだった。体洗ってもらうのが気に入ってるのかな?


 宿を探しに出ると反対の道に見知ったメイドさんがカバンを提げて歩いている。前は手ぶらだったはずだ。荷物を持つなんてどうしたんだろうか?


「エロイーズのところのメイドさん、久しぶり。誰かのお使い?」

「ご、ご無沙汰しております。ランス様」


 薄茶色の長い髪をまとめた、それなりに整った顔。細い腕には四角い大きなカバンを前にして、メイド服を身に纏ったままだ。少し、汚れている。


「実はグレンフェル家を辞めてきまして、次のところを探しに王都を出るのです」

「王都の方が仕事はあるんじゃないの?」

「それはそうなのですが、少々事情が出来ました」

「メイドさん、メイドさんってどうやって雇うの?」

「何を?もしかして、私のことですか?いえ、ランス様に雇っていただくわけにはいきません」


 何でか普通に断られた。掃除や身の回りのことをしてもらって、助かったからメイドさんならいいかなと思ったんだけど。


「メイドさんがダメなら、家事をしてくれる人を探したいんだ。秘密が守れる人で」

「それは誓約がいりますか?」

「自分じゃわからないけど、薬師ギルドで聞いてみるから一緒に来てくれない?事情もここじゃ聞きづらいからさ」

「そろそろ王都出ないと」

「それはなんとかするよ」


 それならと薬師ギルドへ向かう。中に入ると受付の人が駆け寄ってくる。


「ランス君、祝福は受けたの?どうだった?」

「農家だった。スキルを確認していないから、時間が経ったら出るかもしれない」

「そうなんだ。でも、うちのギルド員には変わりないからね」

「うん。頑張るよ。そうだ、俺ってメイドさんを雇うのに誓約っているかな?」


 ついてきたメイドさんを見る。


「そうね、出来るなら誓約はしてもらった方がいいかもね。ギルド長、ランス君の相談に乗ってあげてください」


 ちょうど降りてきたギルド長はこっちを見てにこりとする。


「祝福はどうだった?」

「農家だよ」

「そうか、まあ、もう少し修行すれば、学園に通うんだったか。すぐにでもフィーレ王国へ行ければ。もどかしいね。それで相談だったね、部屋に行こうか」


 薬師ギルドのギルド長室に通される。メイドさんと並んでソファに座って、対面にギルド長が座る。


「メイドさんを雇いたいんだけど、誓約がいるかどうかわからなくて」

「必要だね。これからもランスの白粉の新しい種類を開発するにも、商業ギルドや薬師ギルドでの販売商品を考えてもするべきだ。奴隷というのもありだね。メイドは誓約を嫌がる」

「メイドさんは誓約をしてくれているんだ」

「ん?それならぴったりだ。従者ギルドで雇用契約をすればいい」


 ギルド長は誓約済みなら問題ないと。誓約は必要なんだ。秘密にした方がいいんだ。


「雇われるわけにはいかないのです。実は好色公爵に目をつけられてしまったのです。ですから、グレンフェル家も迷惑を被っていたので辞めたのです」

「ああ、あの公爵に。それは災難だったね。それなら別の場所がいい」

「ですので、ランス様のお誘いは嬉しいのですが、お断りさせていただきます」


 公爵?


「ビルヴィス公爵とは違う公爵がいるの?」

「バックス公爵。若いメイドや若い娘を金で買いあさっている男だ。そのあとは行方不明になるが、公爵だからもみ消している。権力だけはあるんだ」

「ビルヴィス公爵とどっちが偉いの?」

「ビルヴィス公爵は王家派、バックス公爵は貴族派で派閥争いが続いていて、最近は貴族派が力を持っているね」


 ビルヴィス公爵でも無理かもってことか。


「とにかく、ベイジーンに頼んでみる。ダメだったら、また考える」

「そういう時間がありませんので、ランス様のお誘いはありがたいのですが別の都市に移動します」

「時間か、じゃあさ、ビルヴィス公爵領ならいいのかな?」

「ですが」

「メイドさんが身の回りを世話してよ。知らない人より、知ってる人の方がいいんだ。お願いだよ」


 誓約はしてある。他の人だと嫌がられることなんだから、ここはメイドさんに。


「そういえば、メイドさんの名前知らないんだけど?」

「シャロンと言います」

「なんとか出来るようにしてみるから、雇われてよ。ダメだったらファーレ王国に行くから」

「行く予定があるのでしたら、現地で雇った方がよろしいです」

「イヤなの?」


 断固拒否するシャロン。何がイヤなんだろうか?


「バックス公爵が危害を加えないとも限りません。ですので、王都では特にメイドとしての役目を果たせないのです」

「メイドさん自身が動けないからってこと?じゃあ、一緒に行動すればいい。ギルドには行く用事があるから、何かしたいなら付き合うし。それでどう?」

「ですが、わかりました。そこまでおっしゃるのなら、ご迷惑をおかけすると思いますが、お願いいたします」

「こちらこそ。お願いします。それでこれから雇うのにどうすればいい?」


 従者ギルドで契約して、正式に雇うことになるらしい。ギルド長にお礼を言ってから、冒険者ギルドへ。紙とペンを借りて書き上げる。


「ベイジーン・ビルヴィスに手紙をお願い」

「待てランス、S級のギルドカードを発行するからこっちへ。そっちのメイドも一緒に。手紙はすぐに持っていかせる」


 上の階までいくと本部長の部屋に通される。まだ人は変わってなかったようだ。

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