思い出の場所
「ここへは何をしに来た?」
「グリゴリイの研究を回収に来た。俺を封印するときに死んで、研究を託されたからだ」
森の住民、天馬。その一番偉い皇帝と話をしている。
「わかった。息子は無事に会えたようだな。息子を頼んだ」
「待って待って、この子は皇族ってこと?」
「皇帝候補の1人なだけだ。息子なのは間違いない」
「外に出していいの?天馬ってこの森にずっと住んでいるようだけど」
「森から出たい者は出ればいい。それは自由だ」
「自由ならいいのか」
久しぶりに会った真っ白な天馬の皇帝はそういって去って行った。クーシーに舐められて追いかけるどころじゃない。よだれだらけになっちゃった。
「クーシーわかったから。よしよし」
大きな体をなでてやるとひっくり返って、もっとなでろと毛の間から小さな目を覗かせる。しばらくぶりなので、付き合ってなでていく。相変わらずフカフカの毛をしている。
一通り舐めて、撫でられて満足したクーシーはその場で眠りはじめた。汚れを取って懐かしい森を進んで行く。森自体に迷いの魔法がかかっているので、妖精の案内があると便利だ。1人でも行けるけど、普通の人は道が悪いところを通らないと行けない。妖精には魔法がかからないのと、森が襲ってこない。俺にも襲ってこないけど。
開けたところに出ると花畑が広がって、細い道が続いている。懐かしい家に続く道を歩きながら寂しさがこみ上げる。本当は祝福をもらってから、会いに行くつもりでいたんだ。祝福をもらえましたって。
「直接言いたかったよ。グリじい」
一筋涙が伝う。それ以上は涙が出ない。埋める骨もなく、その時身につけていたモノも何もない。
花畑が終わって広場になると、住んでいた家が見えてきた。家の近くに石を持ってきて積むと文字を刻んでおく。
”大賢者グリゴリイ 永眠”
もう誰もいない家の扉を開ける。日の光が舞い上がった埃をキラキラと輝かせていた。独特の薬草のニオイが充満している。最後の時まで研究をしていたんだ。窓を開けて埃を外へ。
軽く掃除を終わらせると乾燥した薬草を自分の空間倉庫にもらっていく。研究していた書きかけの紙やまとめた本を全部しまい込む。グリじいの道具達はそのまま残しておく。僕も買えるから必要ない。ここで過ごした日々を思い出しながら、懐かしさに浸っていた。たくさん涙が出る。大切な人を失って、思い出すことも悲しむことも出来なかった。力不足が、原因だ。
ひと晩だけ泊まらせてもらって、次の朝には名残惜しかったけど出発する。だって、グリじいだったら早く行かんかって怒ると思うから。学園の試験もあるので、そのまま王都に向かうことにする。怒る理由?ここは本来、人が住む場所じゃなく、選ばれた世捨て人が生きた屍としているところだから。
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