第3章 プロローグ 祝福

ビルヴィス公爵家からの呼び出し1

 村で生活している時間はあるけど、村のお祭りとかそういうのには参加していない。王都や領主街で過ごしている時間とだいたい半々ぐらい?変わったことも起こっていない。


 冒険者ギルドとの関わりは冒険者弁当を買ったり、食事処として利用するぐらい。依頼を受けるとしても、掃除かお使いの依頼を受ける程度。


 商業ギルドは変わらず、クリスタル細工と化粧品の入れ物を作りに行く。クリスタル細工の生産はある程度落ち着いていて、化粧品の入れ物が主な生産物になっている。落ち着いたといっても、化粧品の入れ物のために生産を減らしているだけなんだけど。


 薬師ギルドはポーションの注文自体を締め切っており、祝福を受けるまでに作るのが目標になっている。祝福を受けると上の種類のポーションを作れるだろうから、いったん締め切るそうだ。祝福後に修行とか準備しているみたい。ファーレ王国に行くことになる。楽しみにしている。


 雑貨屋のおばあちゃんの薬はもう作らなくていい。年だからと半年ほど前に閉店してしまった。村で唯一の雑貨屋だったんだけど、じいちゃんの方も麦類の運搬がきついからやめると言っていた。村の人達の反対に遭ったけど、やりたい人がやればいいと言うことで、村長の息子夫婦が引き継ぎをして商業ギルドに登録へ行くことに。雑貨屋は村長の家に増設する形で、続けられることになる。行き帰りの報告もここですることになった。


 領主街でローポーションを作っていると、冒険者ギルドから依頼が来た。ヘルセさんが持ってきたのをデールさんからもらった。王都のビルヴィス公爵家より王都の屋敷で話をしたいとのこと。僕の方は用事がないんだけど。なぜかサルエン男爵から必ず行くように伝言付きだった。領主のお願いだから行かないといけないか。作れるだけ作ってから、依頼の正式受領をして、王都に向かう。


 貴族街警備隊のところで依頼書を見せながら、家の場所を教えてもらう。上の方の王城に近い場所になるようだ。指示通りに向かって、門番に依頼書を見せ取り次いでもらう。


「少々お待ちください。確認をして参ります」


 門のところで大人しく待っている。出来れば偉い人達と関わり合いたくない。ベイジーンは仲がいいのでいいけど。ここで帰ると大騒ぎになって、王都中が捜索の兵士だらけになる。そうなるとギルドも調査に来られて困るので、早く帰りたいが我慢している。


「お待たせしました、ランス様。こちらへどうぞ。魔馬は小屋へ連れて行きますので、そちらの者に手綱をお願いします」

「暴れないんだよ?」


 フウイの手綱を一緒についてきた男の人に渡す。執事さんの後ろをついて、庭を通って屋敷の中に通される。


「ベイジーン様、ランス様をお連れしました」

「通して」


 ドアが開くと大人になってるベイジーンが座っていた。背が伸びてる。


「久しぶり。小さくなったかな?」

「変わってないはずだけど。あの時より大きくなってる」

「背が伸びたんだ。それより座って。ランスにお茶を。お父様は夕方ぐらいには帰ってくるから、それまで待っててくれる?」

「夕方?時間がわからなかったから早く来たけど、早すぎたみたいだ」


 クスッと笑って本に目を落としている。


「何読んでいるの?」

「グリゴリイの魔法理論。たまに理解が出来ないところがあるけど、古代魔術を網羅したら理解出来るのかな?今、常識とされている魔法理論とはだいぶ違う気がする」

「グリゴリイの魔法理論しか知らないから、今の魔法理論との違いなんてわからない。普通に使っている魔法と古代の魔法と、共通性を見いだしてまとめているんだよ。その本だと基本になるところだから、魔力がどうやって現実へと変わっていくのか。簡単にイメージするなら、空気中、生物、いろんなところに魔力があるから、それを魔法で形作るってこと。そのための原理を理論化したものだよ」

「ランスってグリゴリイの魔法理論を理解しているの?宮廷魔術師でも理解していない人がいるのに?」


 一緒に考えていたとは言えない。ベイジーンと手紙のやりとりしているけど、魔法理論と生活魔法で攻撃魔法をどうやって出来るかが主だった。理解してわかっていると思ったけど、違ったのか。


「僕を助けてくれた人がグリゴリイの知識を納めた人だったから、その人に師従して教えてもらったんだ。そのかわりに今の魔法理論ていうのは、全く知らない」

「そうなんだ。じゃあここを教えてよ。魔力の変換について」


 広げられた本に指さされた場所を教えていく。森にいた時を思い出しながら。



「待たせたね、やっと仕事が終わったよ。一緒に食事でも取りながら話さないか?」

「あんまり遅くなると宿が取れなくなりますので」

「うちに泊まればいい。部屋は余っている。ベイジーンもその方がいいだろう?」


 ベイジーンは頷いて笑顔を見せて、本を閉じた。泊まることになりそうだ。


「着替えたら食事にしよう」


 もう少し待てばいいか。


「ベイジーンぐらいの年の貴族って家で勉強をしているの?」

「違うよ、王国学園で勉強をしている。今日はランスが来るって聞いていたから、王都の屋敷に戻っているだけだよ。本来は学園の寮に入って勉強している」

「そうなんだ。僕は祝福を受けたらファーレ王国に行くつもり。みんな待ってるみたい」

「みんなって?」

「薬師ギルド総本部で修行をつけてくれるって。A級やB級の薬師の人達」


 ファーレに行ったときの話を少しだけして、夕食に呼ばれたので案内された食堂に座る。1人知らない男の人が座っていた。


「ご無沙汰しております、キンケイド侯爵。本日はご一緒にお食事を?」

「そうだ。ランスに用事があってね。サイモシー殿と協議をして、この場を設けたのだ。私のことは知っているか?」


 貴族には疎いので、名前と爵位を言われてもわからない。首をかしげる。


「ランス、知らない?サルエン男爵が所属している派閥の取りまとめをしているんだけど。今は宰相をされているよ」

「宰相様!知ってます。商業ギルドの紹介をありがとうございます」


 ピンときて頭を下げる。役職名しか知らない。この国には祝福までしか居ないと思っているから、貴族のことを覚える気がなかった。


「サルエン男爵は何にも関わらずに、あのような美麗で透明度の高い芸術作品を作り出すとは思わず。サルエン男爵には後で手続きの補助をしただけなので、搾取するようなマネをしないよう注意しておいた。取り分の件では、悪いことをした」

「売れるまでが大変だったから、気にしてないです」

「そうか、それならいいのだが」

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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