封印後



 今まで近づけなかったフウイが風魔法でランスを背中に乗せる。

「フウイよ、ランスを家まで頼む。少しやることが出来た」

 2手に別れるとフウイは家にランスを連れて行き布団の上に優しく落とす。入り口が狭いので、最後は魔法でなんとかしていた。そのあとは門番のごとく、扉の前にたたずむのだった。


 エルミニド辺境伯領上空。スコルは城下を見下ろす。許されぬ。許さぬ。我らの存在を知りながら、人間の王を選んだのだ。我らを蔑ろにした罪は償ってもらわねばならん。そして、我らが守る存在を危険にさらした。許さん。

 軽く前足をあげて降ろす動作をする。

 それは音もなく、そこにあったものが消えた。辺境伯領の城と周辺施設全てが消えた。目撃した街の者は目をこすり、何度も何度も振り返り、目をこすり見直した。しかし、消えたという事実は変わらなかった。見つけた者と促され見た者も見直す。思わず大きな声で叫んでいた。

 騒ぎが起きると波紋のように広がっていき、街の中は大混乱に陥った。魔物から守るための城壁と兵士達が忽然と消えたのだから。残ったのは巡回していた兵と門を守る兵士ぐらいだった。


 帰ってきたスコルはランスの様子を見て、封印がうまくいっているのかをおでこに足を乗せて確認する。

「うまくいっている」

 力の封印も記憶の封印も出来ている。うまくいっているのであれば、グリゴリイが命をかけた甲斐があるというもの。魔力が強いのは知っていたが更に高みへと登っていたとは。スキルの確認を行う。

「な」

 精神耐性Lv.10になっていた。あの間に、それならば納得しよう。耐性のLv.が上がるのならば、それなりのことが起こっていたのだと。ただ肉体耐性もあがっていたのはどうしてだろうか?精神耐性が条件であがらなかったのか?それならばあり得る。

 記憶の封印には成功しているのなら、よく会うギルドの者達に協力を要請しておこう。わざと思い出させるようなマネはしないようにさせなければな。


 ラント国冒険者本部長の前にスコルが姿を現す。驚いた顔で見ていた。

「スコル様、突然のご来訪どうされたのでしょうか?」

「うむ、ランスの記憶を封じたのでな。シャローザと辺境伯には触れぬように言いに来たのだ。思い出すようなマネをさせぬように、ランスに近しい人間にはそう伝えてもらいたい。もしも記憶が戻るようなことがあれば、この国が消えるだろう」

「わかりました。そのように取り計らいます。しゃべらぬよう聞かせぬようにしっかりと言いつけておきます」

「よろしく頼む。ランスが祝福を受けるまで、本人に聞かれなければよい」

「かしこまりました」

 スコルは消えると薬師ギルド本部長の前に出る。商業ギルド長と話をしている最中だった。

「これはこれはスコル様ですよね。ランスは大丈夫なのですか?西門が壊れて大騒ぎになっていたところなんですよ」

「そうか、ランスの魔力が暴走してしまったからしかたあるまい。この程度で済んだと喜ぶべきだ。辺境伯の城はランスではなく、私が消したのでランスは関係ないぞ。勘違いせぬようにな」

 聞いた言葉を飲み込むのに時間のかかる2人。引きつった表情になる。

「もしかして、エルミニド辺境伯の城をですか?」

「そうだ。これでも情けをかけた上でその程度にしてやったのだ。ランスも暮らす故、国ごとや領地ごとはやめてやった」

「それは、ご配慮感謝いたします。あとで確認をしなければいけないねえ、薬師の」

「そうだな」

 緊張感漂う雰囲気をスコルは意も介さない。

「ランスに記憶の封印をしたのでな。思い出させるようなことがないように、頼みに来たのだ。シャローザと辺境伯のことに触れなければいい。もしも記憶が戻れば、この国はなくなってもらう」

「ランスの記憶を封印など出来るのですか?」

「出来る。これは人の力には余る。我らだからこそ出来る封印である。それをしても思い出せるような行為があれば、封印が解けるかもしれん。その話題をしなければいいだけじゃ。頼む」

「国がなくなるのは困ります。なるほど、話はわかりました。そのことは厳禁するように伝えておきます」

「祝福を受けるまでの間じゃ、では頼んだ」

 スコルが消えると2人は急いで確認に入る。必要ならば物資の支援。どうにもならない状況ならば、ギルド関係者の回収を行わなければならない。とばっちりを受ける身にもなって欲しい。今はやれることと出来ることを速やかに行うことに集中する。愚痴など、後からいくらでもこぼせる。今はそんなものをこぼす余裕すらもない。

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