シャローザ3
泣き止んでから手紙をシャローザに返す。まだ、手段はある。
「ランス、無理というのがわからぬか?」
「本当に無理と決まってない。諦めない。絶対に」
「生き返らせるためにあわせる場所は100以上。それを合わせながら魔方陣も何十層も重ねなければならないのだぞ。わかっているのか?」
「わかってるよ」
「1度冷静になれ、普通の高位魔法でも1層で済む魔法を重ねるのだぞ。その高位魔法の巨大な魔方陣を重ねると考えれば無理だとわかるだろう」
回復魔法は難しい。出来る人も少ない。普通の魔法よりも高度なことをしないといけない。その中でも、もっとも高位の生き返らせる魔法。それをスキルなしで再現する。
「やらなきゃ、シャローザは、助けて欲しかったのに。助けてあげられなかった」
さっき作った1層を作り上げる。2層、調整はうまくいっているはず。それから3層。調節場所がさっきよりも多くなってくる。集中を切らさないように魔方陣を作り上げていく。
4層。
バリッ
魔方陣に亀裂が入り崩壊していく。
「何で」
「その魔方陣を保つことにもまた、集中せねばならん。スキルのように自動で保つことは出来ん。わかるか?生活魔法で再現するには人でない者にならねば無理じゃ。能力が足りぬとも思わぬ。が、あれを再現するのなら回復魔法を少なくとも完璧にしてから挑まねば、特有の難しさがあるからのう」
「難しいだけなら出来るはずだよ」
そう言ってから1層から順番に構築していく。
バリッ
5層にさしかかったところで魔方陣が壊れて消える。魔方陣の消える瞬間に魔力で風が起きる。
「これ以上は、これ以上は厳しいぞランス」
「頑張ればなんとかなる。なんとかしてきたんだから。僕の努力が足りないんだ。生き返ってよ、生き返らせてよ。もう誰にも渡さないから」
シャローザの載っている台を叩く。誰も返事はない。
また挑戦を続ける。頭が痛い。
「ランス、限界じゃ」
それでも層を重ねていく。
「体が悲鳴を上げているぞ。それ以上は命に関わる。やめよ」
6層をなんとか作り上げている。
崩壊の音が聞こえて、それから一緒に魔力の暴走が。
風を起こして吹き荒れる魔力が連鎖的に反応、止めようと思うも体が反応しない。
「全く」
魔力を魔力で弾き飛ばして周囲には大きな風が起こった。城壁に当たった風はなぎ倒し、崩壊の音が響いた。
「だから言ったのだ、生命の危機に封印が解けかけている。このまま村に帰るぞ」
「だけど、シャローザが」
「もう生き返らぬ。器があっても中身がない。砕けている。お主を裏切ってしまったこと、呪いの解放で魂の形が保てなくなったのだ。呪いがなければあるいは。しかし、起こったことでもう元には戻らん。生き返らぬ証を突きつけるのは酷かと思ったが、諦めぬのなら生き返れぬことを教えるしかあるまい。諦めるしかないのじゃ」
「そんなこと、生き返らせられない」
生き返らせられると思っていた。体はあるし、術さえ完成出来ればどうにかなると思っていた。イヤだ、そんなのイヤだ。
「目を開けてよ、シャローザ。声を聞かせてよ、置いていかないで。僕を1人にしないでよ。お願いだよ、そばにいてよ、シャローザ、い、一緒に」
体を揺すって嘆願する。涙がドレスを濡らすけど、何の反応も指先ひとつ動きはしなかった。
「誰か助けて。助けてよ。シャローザがシャローザが」
「誰も助けられぬ。魂が砕けては打つ手がない」
泣いて叫ぶ
なりふり構わずに
シャローザ
どうして
生きていてくれれば
なんで
君がいれば
ムダだった
何もかも
努力も
時間も
教えてもらったことも
守れなかった
一緒にいようと
それでも
全部消えた
君がいれば
いて欲しい
いてもらえるように
がんばった
がんばったつもりだった
足りなかった
僕の力が足りなかった
誰も助けてはくれない。助けてくれることなんかなかった。泣き疲れてシャローザを眺めていることしか出来ない。
「村に帰るぞ。フウイよ、ランスを乗せて村まで戻る」
ウィットに咥えられるとフウイの背中に乗せられる。
「肉体だけを穢されてはいかんな。これでよかろう」
シャローザの体は、白の色の混じった炎で包まれると一瞬にして消えていった。そこに何もなかったかのように。シャローザがいなくなった。目を見開く。
一瞬のことで何が起こったのか、頭の中がぐちゃぐちゃでわからなくなる。
「帰るぞ。すでに封印が一部解けている。今の状態では修復もままならん。暴走する前に落ち着かせねばならん」
フウイは空へと駆け上がる。僕はシャローザのいた台座を見つめることしか出来なかった。少しずつ遠くなるのを手を伸ばしても遠くなるだけだった。
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読んでくれてありがとうございます。
☆や♡を恵んでください。お願います。
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