賠償会議2

「それではどの程度の戦力を結集すれば、ランスを倒せると予想する?」

「ランス殿が自分の持てる戦力を出すとすれば、勇者連合国との総力戦にて決することでしょう。化け物というのは存在するのです。普通の兵士ならば投入するだけ無駄でしょう。多少魔力を消費させるために、使うといわれるのなら止めません。各国のトップ戦力を全力投入してどうなるかというところです。もっとも地上戦をしてくれればという仮定の話ですが。天馬もいるのです。空中戦となれば、自在に空中を動けないといけません、その状態のまま戦える者を用意しなければ話にもなりません。逆に伺いますが、空を自由に駆け巡り地上と同様に戦える戦力は揃えられますでしょうか?」

「我が国家には空中を攻撃する魔法部隊がいる」

「ランス殿も魔法を使います。魔法だけでワイバーン単騎討伐、ファイアドラゴンに認めさせたのです」

 再びざわめきが大きくなって静まっていく。

「祝福前と聞いていたが、この場で虚偽は許されんぞ」

「信じられないかも知れませんが生活魔法で、ランス殿はそれを実現しているのです」

「にわかには信じられん」

「ランス殿の地元のギルド長が水晶で確認しているので、祝福前の持てるスキルしかなかったそうです。実力を目の前で見られたエルミニド辺境伯様、どう感じられましたか?」

 自然と集まってくるランスの情報。辺境伯兵の前でワイバーンを討伐した魔法を再現したことは知っている。

「我が軍の精鋭をもってして、余波で陣形が乱されてしまいました。恐怖と頼もしさを同時に感じたものです」

「陣形はどのような?」

「前面にシールド2列、その後ろは槍と剣の混合、その後ろに騎馬、魔法使いという編成にし、防御スキル、結界をかけた上で押し込まれました。子どもであるので見誤った兵もいたかも知れませんが、まさか押し込まれるとは想像も出来ませんでした」

 事実を淡々と述べているが、ざわめきが上がっている。

「この国にはマクガヴァン殿がおられるが、エルミニド辺境伯の軍はどの位置にいるのだ?」

「国内ではマクガヴァン先生の指導している国軍が1番の練度であるといわれており、その次に魔物の襲来の多い我が辺境伯軍が来るといわれております。順位は関係ないと思っておりますが、国内でも必ず5番以内にはいると自負しております」

「なんと、マクガヴァン殿の指導する軍の次とは。それをいともたやすく」

 またざわめきが大きくなり、次第に静かになっていった。

「それならば冒険者ギルドのいった、この王都を簡単に落とすことも出来るというのは本当なのか」

「最初から申し上げており、虚偽の申告はしておりません。エインヘニャル様に伺った話ではあるのですが、ランス殿の実力を見るために輝く太陽と戦いを行う予定で領主街の外の演習場へ行ったときのことです。ランス殿は戦うので街に被害が出ないように、城壁をクリスタルウォールで覆ったそうです。わずか数秒で。そのあとの輝く太陽と戦うも実力を測れずじまい。よってS級扱いとなりました」

「さっきからS級扱いといっているが、勇者のS級扱いと同じなのか?」

「全く違うものです。勇者がS級扱いなのは、昔ある国で平民出身の勇者が身分により、長いこと拘束されることになったため、魔物の被害が拡大したのです。その反省を生かしてS級と同等の扱いとすることにより、その国で貴族と同等の地位が保障され、身分差によって拘束することを防ぎ、迅速に魔王討伐を成し遂げるための扱いです。勇者がS級の実績を積めばS級になるだけです。現状それに足りていませんが、勇者の活動を制限させないためのS級扱いです。対してランス殿のS級扱いは実力がS級と同等なのですが、冒険者ギルドでは祝福前はF級でなければならない規定があります。ですので、F級以外のランクにすることが出来ないのです。F級でありながら、冒険者ギルドがS級の実力を認めるのでS級扱いです。祝福後には自動的にS級になる人材なのです」

 軽くため息をついて、気の抜けない勇者連合国の面々と話し合いは続いていく。

「勇者がやったことを勇者連合国で償えと?」

「その通りです。勇者王子様の祝福のために来られていますので勇者王子様の側についている。S級冒険者の婚約者の簒奪を認めるということです。冒険者ギルドとしてはランス殿が報復に出た場合、魔王討伐の代理を務めることで罪には問わない方針でした。犯罪者にするかどうかは各国の判断に委ねる予定でおりました。ですが、賠償で済むのならそちらのほうが良いと判断いたしました。S級の戦力を失うのは非常に惜しい。それもまだ祝福前。将来性を見ても国を潰させるより、冒険者としての活躍を望んでおります」

「聞き捨てならないのだが、報復を認めると?冒険者ギルドは勇者連合国の多くの集まるこの状態で見殺しにするつもりだったのか?」

「冒険者ギルドとしましては、ランス殿の婚約者を無理矢理どうこうすることはないだろうと思っておりました。それにことがおこっていれば、この王都で報復をするはずです。ならば、ラント国のことで済むはずだったのです。国家対個人、口を挟めるはずがありません。それが婚約者は3日前までランス殿家にいたのを、秘密裏に王都へと運んできたのです。こちらが高ランク冒険者の手配をしようにも間に合いません。せめて、防衛のために要請を受けていれば。ですので、ランス殿次第では報復に巻き込まれるのです。我々冒険者ギルドは円満に解決出来るよう、話し合いをお願いしておりました。こちらに落ち度はありません」

 勇者王子の落ち度を冒険者ギルドに押しつけられても、どうしようもないだろうと本部長は考えていた。国のお偉方だ、責任はとりたくないか。だが、こちらも身にかかろうとする火の粉を払うのは当然。

 会場内のざわめきはポツポツとあるが、概ね事態を真実と把握出来てきたのだろう。祝福前の子どもの機嫌如何で全員死んでしまうということを。

「打つ手はないと?」

「十分な賠償による懐柔がもっとも良い手かと。戦力の整っていない状態ではどうにもなりません。他に手があるといわれるのであれば、お伺いします」

「揃えうる暗部を使うのは?」

「やらないほうがいいでしょう。もしも失敗すれば、通信している国でさえも彼の罪を問うのは難しい。それどころか、今以上の賠償をすることになります。それに辺境伯領で偵察の訓練を受けられていたと聞き及んでおります。暗殺の類いにもそれなりに対処出来ると踏んでいます」

 辺境伯は事実を認め、会場中が沈んだような空気を漂わせる。

「冒険者ギルドとしてはどのような賠償を求めるのか、参考までに聞いてもよいか?」

「わかりました。ご参考までに。勇者関連のクエストを受けなくてもよい。なお、勇者をランスが殺害した場合は魔王討伐をすること。各国及び冒険者ギルドからの緊急クエストの強制不可。ランス持ち込み売却素材の取り分のアップ。勇者連合国の皆様が1番関連するのは緊急クエストの強制不可となります。ランス殿が国内にいるなら関係ありますが、滞在しているとは限りませんのであまり影響はないと考えております。勇者関連のクエストについては、ご本人が行う補助になりますので他の冒険者でも代替は可能です。勇者王子様自ら行っていただくのなら、全く問題にならないところです。買い取りアップは冒険者ギルド側のことですので、影響はございません」

「なるほど、他のギルドは?」

「急遽のことなので聞き及んでおりません」

 どうするかという問題を延々と国々で押し問答を繰り返す。たまに質問が本部長に飛んでくるが、述べた事実を繰り返すだけ。打つ手がないという認識が会場内、通信での参加者にも広がっていた。諦めがその場を支配する。

-------------------

読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る