賠償会議1

 朝、支度を済ませた面々が用意された席についていく。勇者連合国会議。勇者の結婚式に直接参加している国の代表及び代表代理を務められる者達は広間の中に集められる。務められる参列者がいない参列国は、権限を持つ者が水晶の通信を通じて参加する。今回は冒険者ギルドの呼びかけのため、会場の準備及び正常な通信準備を終わらせており、話し合いの場というには少し緩い空気が漂っていた。結婚式前でお祭りの浮かれ気分になっている。それぞれ外交という名の話し合いを始める人々も出ており、通信での参加者も物々しい雰囲気でないことに安心している。集まるのは王族や高位貴族ばかりで、さりげなく高額のアクセサリーをつけていたり、見せつけるようにつけていたりしている。それに土地柄のよく出る服装は、各国独自の贅をこらしたもので、色とりどり様々取り揃っている。服装の展示会とも思える。

 本部長達が席に着いた瞬間にざわめきが広がる。最後にラント国国王が席について、全員がそろったことになる。

「緊急の呼びかけに対して、お集まりいただき感謝いたします。今回お集まりいただいた経緯は、勇者殿が我々の重要なギルド員ランス殿の婚約者を自分の婚約者として無理矢理奪い婚姻を進めたことについて、ランス殿に賠償を行うために集まっていただきました」

 ざわめきは大きくなり、しばらく続く。しばらく待ってから声を上げる。

「ご静粛に。ランス殿への賠償ですが、冒険者ギルドとしては」

「待たれよ。そのランスとやらは何のだ?まずは賠償理由を説明してもらわねば話は進められん」

「ランス殿は祝福前の冒険者ギルド員です。ランクはF級、S級扱いでワイバーン単騎討伐、近々ではファイアドラゴンに力を認められた人物です」

「商業ギルドではランス殿の開発、製作した商品を販売させてもらっています。ランクはA級です」

「薬師ギルドではランス殿はギルド唯一の重点育成支援者であり、F級です。なお、薬師ギルドでF級になった者は例外なく最低B級以上になっており、高位薬師と同等の保護を行うことになっております」

 一層のざわめきが起こり、先ほどより更に静まるまでの時間がかかる。

「えー、まずは各ギルドからの簡単な人物紹介、そして次に賠償理由としましては、今回婚姻を結ばれるシャローザ・エルミニド様はランス殿との婚姻をこの国に認められ婚約、成人後に結婚する予定でありました。我々ギルドとしましても降って湧いた降嫁のお話でしたので、紋章官様、エルミニド辺境伯様にも十分に確認をさせていただいたところ、本当であることの確認をいただきました。正式に降嫁させ、婚姻させることを了承していることと正式な手続きをもって、認証されていることも確認させていただいたのです。ですが、この勇者王子様の婚姻にはシャローザ・エルミニド様がいらっしゃる。そして、ランス殿が薬師ギルドの総本部で研修を行っている間に、ランス殿の了承をとらず簒奪したのです。ギルドとしての許可を求められましたが、ギルドの重要な人物の了承を代理で出すことなど出来ず、本人が帰ってきてからの交渉話し合いで決着をつけるように返事をしておりましたが、現在このような、しこりの残る形での賠償請求を行うぐらいしか手がありませんでした」

「待って、なぜ平民などの賠償を行うのだ?我らは国家の代表たる王の集まり、勇者連合国ぞ?」

「現在ギルドのほうで説得を行い、賠償によって決着を任されており、その結果如何では王都もしくはラント国、勇者王子様への報復をする可能性も残っている状態です。ランス殿はファイアドラゴンに力を認められた人物と冒頭でも申し上げたとおり、力を振るえばファイアドラゴンと同等以上の火力を持って報復が開始されるでしょう。その戦力は1人で大国に匹敵するでしょう。また、天馬を従えておりますので、伝承に従えばすぐにでもここは踏み潰されることでしょう。敵対するのであれば、明確にしていただいて勇者連合国が敵に回ると彼に告げなければなりません。賠償のお話の前にここにいる皆様が死ぬか、賠償に応じるか決議をお願いいたします。現行の冒険者ギルドとして、S級最低5人、A級20人以上に治癒の得意な後方支援付きで止められるかと考えておりました。がすぐにこの人数を集められないので止めることは出来ないでしょう。すぐには決められないでしょうから1時間の話し合いを持って、その後決議の際に戻って参ります」

「待たれよ、冒険者ギルドはランスのことを勇者連合国に教える義務がある。残られよ」

 呼ばれなかった2人は会場をあとにし、別室でくつろぐことになった。

 混迷を極め、話し合いどころの空気ではなく、大きなざわめきとたまに怒号の飛び交う場になった。そのままどうするわけでも、取りまとめる人も現れず時間だけがすぎていった。

「冒険者ギルドとしては勇者王子とランスではどっちをとるのか?」

「どっちをとるとは?」

「冒険者ギルドとしてどちらか一方につくとしたらだ」

「冒険者ギルドならば戦力となる方を優先するので、現時点ではランス殿を優先いたします。冒険にも出られていない勇者王子様と比べるまでもありません。勇者王子様が冒険して実績を積まれ、ランス殿と比べられる日が早く来ることを心から祈っております」

 そういった瞬間に会場のざわめきが止まる。

「質問だ、勇者とランスが戦った場合勝つのは?」

「ランス殿です」

「この王都の戦力を総動員して勝つのなら?」

「ランス殿です」

「さすがにひいきに見すぎではないのか?」

「S級冒険者同士で戦えば、この王都ぐらいはすぐに消し飛びます。S級とはそういう規格の人間に与えられるのです。下手な戦力では足止めにすらならないのですよ」

 会場はざわめきをなくし、静かに聞くために静かになっていた。

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