各ギルドの賠償方針

 ランスとの話し合いを終えた各本部長はギルド総本部へと何がランスにとっていいのかを話し合う。


「商業ギルドとしてランスが手を引く対価は減税でいこうと思うのだがどうだい?」

「1番妥当な線だろう。何割に差し引かせる?」

「勇者連合国は関税なしの2割と考えているがいけるかね?」

「ことがことだよ。1割もいける。ランスは国を滅ぼせるのだろう?ならばこちらも強気でいくべきだ。説得した手腕込みでそのくらいは引き出せるだろう?あとはシーラ殿の百戦錬磨の交渉術次第か」

「何言ってるんだい。自分で切り開いた運命を台なしにされて、こっちだってはらわた煮えくり返っているんだからね。横やりも入る、そのせいで婚約者が他の家に嫁がされる。うちだって関係しているんだ、呑気にしていると総本部のせいにしてランスをけしかけるよ!」

「けしかけるのだけは勘弁してくれ。総本部としてもここまでの横暴をされては、ギルド員に示しがつかない。相応の対価はもぎ取ってもらうよ、なんならなしでもいいんだ。それと、ギルド間のもめ事にかり出してしまった上に多大な利益をもたらしたランスにはA級のギルドカードを発行していい。タイミングは任せる。今発行してもいいし、もう発行していることにしてもいい」

「はっ。今さら商業ギルドがアピールかい?」

「いや、うちの優秀なギルド員に手を出したらどうなるか、各国に示す必要がある。ランクはそのためにあるからな」

「使えるなら使っていこうかね。祝福前にA級を与えるなんて、前代未聞だよ。度肝を抜かれるんじゃないのかね。祝福後はS級用意しておきなよ。本来はそこにいさせないといけないんだ」

「わかっている。それほどの売り上げを任せてもらっているからには、それに応えていくのが我々商業ギルドだろう」

「違いないねえ。明日は久しぶりに熱い交渉になりそうだよ」

 水晶の向こうでは苦笑いを浮かべる男がいる。商業ギルドの本部長席でシーラは明日の交渉に向けた考えをまとめていった。


「ランス君のポーションの税を安くしてもらおうと思っている。あとは何が出来るだろうか?うちの研修中に起こされた出来事だ。許されることではない」

「他にか、ギルドとしては希少材料の優遇を追加して、購入割り引きを限界まで高めるぐらいしか。今でも優遇しているからね。ビーカーの値上げはどうだ?」

「ランス君には頑張れば買えるぐらいの値段で、提供して欲しいと任されている。ビーカーの値上げは、その意思にそぐわないと思う。小耳に挟んだんだが、採集も自分でしているらしい。採集の制限を受けないでどうだろうか?絶滅しそうな種は別だろうが、危険なところは制限なしで採集出来るようにしてもらうのはどうだろう。当然、希少材料の採集もとりすぎはさせないが、自由に」

「各国が納得するだろうか?危険地域に関してはすぐに受け入れるだろうが。希少材料は厳しいのではないか?」

「希少材料も危険なところにあることが多い。とる前には相談をしてもらって、薬師ギルドとしては取りに行く国の折衝に当たるようにしよう。本当に数の少ない希少材料はそうそうないはずだ。どちらかというと危険で取りに行けないとか、季節にしか取れないものや魔物が凶暴になっている時期にしか見つからないものもある」

「それならそれを受け入れてもらう形で」

「初めての交渉材料だ。難しいことをいわれるかもしれない。最悪は国に卸すポーション値上げをちらつかせてもいいか?」

「良い手だとは言えないが、反対されるなら交渉材料として使っていい。総本部の高位薬師達はランス君の虜だから大丈夫だろう。あのお歴々を各国薬師が黙らせることは出来ない。だからこそ、こちらもランス君の保護に強気に出られる」

 水晶の通信を切ると深い息をついて一心不乱にペンを走らしている。明日予想される、各国から質問されそうなことを書いて、なるべく答えを用意していく。ランス君が採集することは、サルエン男爵領から情報を聞いていた。冒険者ギルドでS級を約束されている。どこでも行けるなら希少材料を自分で集めるかもしれないと、各国のギルドから情報を提供してもらっていたのが役に立った形だ。それでも何か出来るのではないかと考えてしまう。薬師ギルド唯一の重点育成支援者を保護できなかった。そして、その報いは受けてもらう。


「急遽の招集に協力いただき感謝します。エインヘニャル様」

「我々はランスのことに関わらない立場をとるつもりであると通知したはずだが?」

「商業ギルドと薬師ギルドがランスの説得に当たり、思いとどまらせることに成功しています。ですので、このままいくと何もしなかった冒険者ギルドに対して、両ギルドからの条件交渉が持ちかかる可能性があります。前回の薬師ギルドの比ではありません。薬師ギルドは確実にポーション値上げ。商業ギルドは売り買いの値段の利率を上げる可能性が高いです。薬師ギルドで重点育成支援者に認定されているのはもちろん、商業ギルドでは薬師ギルドと共同販売で新しい白粉の販売が追いつかないほど。この新しい白粉はランスの開発したものなのです。各国に広がる商機を作り出したランスを擁護しないわけがないのです。ここで各国に対して交渉をしないと、我々も勇者連合国側に立たされるのです。どうされますか?」

「このまま日和見を続けることも出来ないのか。ランスの様子は?」

「今のところ、説得に応じて薬師ギルドに滞在しているようです。追加で報告です。ファイアドラゴンに認められた件はご存じの通りなのですが、更に天馬種の白毛に乗っているのです」

「む?天馬種、だと」

「驚かれるのも無理はありません。しかし、職員が確認して間違いなかったのです。初めての魔馬なので、馬房などの使い方を聞きに来たときに、確認をしたのです。私も聞いたときに耳を疑いました。しかも出所が、あの勇者王子が乗ろうとして無理に連れてきた魔馬だったのです」

「天馬種の白毛は天馬種の頂点である皇帝色のはず。その血統なら伝承にある1国を踏み潰せる可能性はあるということか?」

「可能性は十分に」

「止めるのに何人のS級がいる?」

「S級なら最低5人、A級なら20人以上に治癒特化の者と後方支援付きでもしかしたら、いや、無理かも知れません。ファイアドラゴンが救援に来ると考えたら、それ以上を求めます。ファイアドラゴンに認められるということは、同等の力を示したということ。国々の精鋭を編成して凌げるかどうかと思われます。実際ランスは生活魔法Lv.8、各上位属性のLv.8を無詠唱で打てると考えて、集められるだけ集めておくしかありません。今招集している冒険者がやっている、交通整理や警備補助とはわけが違います」

「無詠唱、短詠唱でもなく無詠唱。魔法が無詠唱なら普通に手も足も出せまい。我々も何か勇者連合国に要求を出すしかあるまいか」

「原案を考えましたので、お聞きください。ひとつ勇者関連のクエストを受けなくてもよい。なお、勇者をランスが殺害した場合は魔王討伐をすること。各国及び冒険者ギルドからの緊急クエストの強制不可。ランス持ち込み売却素材の取り分のアップ。このくらいでどうでしょうか?」

「魔王討伐の代わりはどうする?」

「勇者失敗を想定していますが、各国兵士と冒険者達を集めるしかないでしょう」

「貴重な戦力を手放すのは惜しい」

「そうさせたのは勇者王子です。本人に頑張ってもらうしかありません。しかし、戦力では個人対連合国家の差があります。実際、指名依頼も国内分はこなしておりますので、素行や実力から見ても我々が機嫌をとらなければならない人物です。我々とのいざこざも冒険者やギルド側が原因。祝福までに関係改善をしなければ、S級を失うと同意義です」

「受けていない指名依頼もあったはずだが」

「ファイアドラゴン国との会談のための依頼です。お忘れかもしれませんが、ランスは祝福前です。国外への依頼はギルドの責任と保障が必要です。うっかりファイアドラゴンが国を消したときは総本部責任になりますよ。向こうの国が縁を繋ぎたいとドラゴンの怒り触れて何かあっても、うちの国のギルドでは責任をとれません」

「しかし国からの依頼だからのう」

「総本部長が一緒におられれば、問題になる前に止められるはずです。狙いはファイアドラゴンであることは間違いないと考えています。ランスを止められて、王に意見できる方を同行させてください。この国にはそのような人物に心当たりがありません」

「総本部には、いや難しいか。祝福前は国外の依頼を受けられぬこととしよう。暴れられては止められん」

「既に戦力と呼んでおかしくないランスを駆け出し勇者と比べるまでもなく、冒険者ギルドとして必要なのはランスです。お飾りの勇者王子など勇者になってから慢心でろくに稽古もしていない様子。勇者の趣味は女あさりと市井ではいわれています。王子なので無理強いもさせられないので、冒険に出ればそれなりに支援はしなければならないでしょうが、現状では職に見合っていない状態です」

「それならば余計にランスを手放すのは惜しい」

「交渉後に国を滅ぼす恐れも残っています。そのときはランスに強制させるための条件として。また勇者が失敗しておりませんし、生きているのなら、魔王討伐の緊急クエストも発行出来ない。それよりも他のS級冒険者達を探し出してクエストに駆り出すべきです。S級はランスだけではありません。手放すのではありません、勇者から切り離すのです。勇者が殺されないためにも、ランスに冒険者を続けてもらうためにもです。それに緊急クエストも強制させられないだけで、受けてもらうことは可能です。それを出来るかどうかはギルドの腕次第です。それに我々は勇者連合国に要求を出来るのですか?出来ないからこそ、ギルドでかつ勇者連合国の迷惑とならない譲歩を入れているのです。代案があるのでしたらお願いいたします」

「金ではどうにかならないのか?」

「いくら積めば許してくれるでしょうか?前回が白金貨10枚。今回は?お金で換算するのならば、勇者連合国と冒険者ギルド、勇者。どのくらいが妥当でしょう?白金貨100枚。1000枚。1000枚なら安くあげられたと考えるべきです。1万台も視野に入りますかね。それに商業ギルドと薬師ギルドから売り出しているものが、ランスの生み出したものなのでお金に困ることはないでしょう。冒険者をやめても十分に贅沢出来ます。薬師ではランスのポーションが製作待ちと食うに困らない状況です」

「聞けば聞くほど優秀よ。味方ならばこれほど心強い戦力もない。敵に回ると厄介極まりない。いかに祝福前といえど、ため息しかでん」

「ですので、冒険者ギルドとして出せる条件は勇者関連のクエストと緊急クエスト、素材の買い取りアップでよろしいですか?」

「しかたあるまい。金がかかりすぎる。全くこの国の王侯貴族は、全く忌々しい」

「全くです。それではお時間ありがとうございました」

 水晶の通信を切ってから大きくため息をつく。明日の朝は荒れるだろう。しかし、受けさせねばならない。ランスのためにもギルドのためにも。この国はやり過ぎた。国とエルミニド辺境伯にも勇者連合国とは別に賠償をさせよう。今回は勇者に巻き込まれた形、それに他のギルドも追求してくるだろう。

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