調薬2
「肌荒れのが効かなくてね、もっと効くものはないの?」
「違うものですか。カレンデュラの軟膏とかはいかがでしょうか。少し時間がかかるのですが、肌に塗るので効果も現れやすいはずです」
「時間ってどのくらいかかるのよ」
「2週間と少しですね。カレンデュラを油に漬けるのに2週間は必要ですので」
もっとはやくならないの?といわれている。別の薬草に切り替えるしかない気がするけど。
今は腰痛の薬を作っているので手が離せない。セントジョーンズワードにローズマリー・エルダーフラワーを薬箱からとってきて、薬の調合を開始する。それからちゃんと混ざっているかを確認して、袋詰めしてから木札と一緒に受付に持っていく。
「他に何か薬や体にいいと思って飲んでいるものはありますか?」
「いんや、特にないよ」
「薬の効き具合はどうですか?」
「あるとないのではやっぱり違うよ。もう年だから治らないけど、ましだからね。悪くならないように付き合っていくしかないさ。いい薬をもらってねえ」
それならよかったと薬を渡す。
「別の薬を用意出来ないとはどういう了見だい?」
「少々お待ちください。詳しい者に聞いて参りますので」
受付から奥の方へと引っ込んでいった。どこに行ったのかな?調合台に戻ると木札がすでに置かれていた。次は腹痛かな。木札を持って受付に戻る。
「この腹痛って上と下のどっち?」
「上側です」
「はーい」
調合台に戻ると腹痛の胃の部分を見る。表にしたがって薬を集めると調合にかかる。ジャーマンカモミールが入っているから、菊のこと聞かないといけないね。注意事項はそのくらいかな。あとは袋に入れて、木札と一緒に受付に持っていく。
「菊で調子が悪くなったことはありますか?」
「ないけど」
「では、こちらの薬になります。お茶にして飲んでください。治らないときはもう1度来てください。腹痛が続いて薬がなくなったらまた来てください」
「ありがとう」
薬を受け取るとお礼を言って帰って行った。
「ランス君、表に載っていない、別の肌荒れの薬を作ってくれないか?」
「うん、わかった」
木札を受け取ると調合台に戻って、いつもの薬を確認する。ローズマリー・カレンデュラを使うのか。カレンデュラは確かに効くよね。軟膏はいいと思うけど、時間がかかるので前もって用意しないといけない。それが難しいんだ。使わなくておいていてもダメになっちゃうから。
ローズヒップと何がいいかな?カレンデュラ?ジャーマンカモミール?どちらがいいかな?カレンデュラを外してみようかな。ローズヒップ・ジャーマンカモミールでいこう。前のも効かなかったし、これで効かなかったら別の原因があるのかも知れないしね。薬草箱からローズヒップがどこにあるのかわからずに、探すのに時間がかかってしまった。薬草を持ってきて、混ぜ合わせていく。
袋詰めしてから木札と共に受付に持っていく。
「薬草は何を使ったのか、教えてもらえる?」
「ローズヒップとジャーマンカモミールだね。カレンデュラは外したからどうかなと思うけど。これでダメだったら別の原因かもしれない」
「なるほど。勉強になるよ。ダメだったら、とりあえずカレンデュラの軟膏をおすすめしよう。あとは他の組み合わせを考えるしかないか」
「そうだよね。軟膏は直接塗れるからいいと思うんだけど、時間がかかるからすぐには渡せないし」
木札を持ってきた人と少し話して、受付の人に使った薬草を伝える。
「お待たせしました。肌荒れの別の薬をご希望ということで作りました。前回の薬は使っていないので、違う薬になっています。菊で調子を悪くしたことはありますか?」
「ないけど、あんたで大丈夫なの?」
「薬師ギルドの総本部で研修を受けてきておりますので、言葉遣い等至らぬ点はございますが、薬草の調合や作り方などはギルドが認める一定の水準を満たしていると修了証をいただいております。薬師ギルドでの品質で満足いただけない方は、信用のおける個人薬師にご依頼ください」
「なんかね、信用出来ないんだよ」
説明しているけど、納得してくれなくて困っていると受付の人がやってくる。
「何か薬に問題がありましたか?」
「こんな子どもが薬を作れるのかと思ってね。せめて、祝福後が作ったものがいい」
「いえいえそんな、あなたにこそランス殿の作った薬がよいとおすすめいたします」
「だからいまいち信用出来ないと」
手を出してしゃべるのを止める受付の人。
「お顔につけられているのは何でしょうか?正式名称をご存じで?」
「白粉は白粉だろう?」
「正式名称はランスの白粉。つまり、あなたはすでにランス殿の作ったものを使っているのです。これでは信用にたりませんか?」
「確かに、前の使っていたときよりも肌荒れは少なくなった。それなら信用するしかないね」
前に使っていた?肌荒れ?薬を渡そうとしたのを止めた。
「信用するといってるんだ。渡しておくれ」
「僕の作った白粉を使う前は、以前の製法の白粉を使っていたのですか?」
「ああ、あの時は肌荒れがひどくてね、薬をもらいながらだましだまし使っていたよ」
「そうなんですか。なら、この薬でも治らないでしょう。治る方法を知っています。どうされますか?薬を受け取るか、治す方法を聞くか。あなたは治るはずです」
いきなりそんなことをいわれて、戸惑っている。
「肌荒れが治るなら何でも買ってあげるよ。どれを買えばいいんだい?」
「解毒用のポーションです。前の白粉は毒が混じっていたので塗っているとジワジワと体に入っていくようです。入っていくのが遅いので、気がつかないのですが、肌荒れや体の中もやられるのです。前のを使っていて、肌荒れが続いている方には1度、解毒用のポーションを使われることをおすすめします」
高くて買えない人にまですすめないけど、何でも買うといっているから大丈夫かな。
「ポーション!?でもそれで治るならいいよ。買ってやろうじゃない」
ポーション売り場でただポーションをおくれといっていたので、受付の人が困っていた。
「解毒用のポーションをお願いします」
「あ、はい」
受付の人へそう伝えてお金を払うとすぐに飲んだ。
「なんだか体が軽くなった気がするよ。だけど、肌荒れは治ってないじゃないか」
「今すぐ治したいのなら更にローポーション以上を飲むことをおすすめします。解毒用は毒を消すためのポーションで、体を治すためのポーションではないです。体の毒を消したので、しばらく様子を見てください」
「しばらくっていうのはどのくらいなんだい?」
「普通の人ならば2、3日で治り出すでしょう。遅い人でも1週間程度。それでも治らないときは弱っているところを特定して薬等の治療が必要です。毒が抜けたのでしばらく様子を見てください。それでも心配なら薬も持って帰られますか?」
「薬もおくれ。いうことを聞いてやろうじゃないの。ダメだったときはランスはダメだって言いふらしてやるからね。覚悟しておき」
わかりましたと返事をして薬を買ってもらって、なぜか文句を言っていた女の人は足取り軽く帰って行った。そして、なんか疲れた。
「疲れた」
「ランス君ちょっといいかな?」
手招きされるので近づいていく。
「今の話は本当?」
「何の話?」
「以前の白粉の話」
「うん、だから毒の入っていないものを作ったんだよ」
呼び出したおじさんは頷いている。
「それでどんな症状があるんだい?」
「この国で売られていたのは鉛白っていうのが入っていたからダメだったみたい。薬としての作用は書かれてなかった。有害なことばかりだったよ」
「どこでどうやって調べたんだい?」
「中身は秘密ね。グレンフェル家にいたとき、夫人に鑑定ギルドへ連れて行ってもらって中身を教えてもらった。ギルドも嫌がったけど、夫人にいわされたんだ。毒になるものをここの図書室で調べたら鉛白だったってこと。症状は色々あるから、肌荒れもあるし疲れっていうのもある。あとはなんだろう、食欲不振、嘔吐、便秘とか歩行障害っていうのも書いてあったね。そんな感じ」
「それなら成人女性の肌荒れには使ってみたほうがいいんだね?」
「前の白粉を使っているならいるね。絶対に使ったほうがいい」
毒が消えるだけでも全然違うと思う。調合台に戻ってから木札をもらって、薬を作っては袋詰め。何度か繰り返してく。
お昼の休みを取ってから午後からも薬作りに専念して、何も考えずにずっと木札と表に集中していった。考えてはダメ。涙が出るから。考えてはダメ。守れなかった無力さを感じるから。考えてはダメ。守るための努力が無駄だとわかりたくなかったから。考えてはダメ。こんな不条理を受け入れなければならないから。考えてはダメ。取り返しに行きたくなるから。
途中から商業ギルドの人が迎えに来てた。何だろうと思って、商業ギルドへと連れて行かれる。
「クリスタル細工とランスの白粉用の入れ物を作ってほしいんだが、いいだろうか?」
「いいよ。どのくらい作ればいいの?」
「そうだな、作れるだけ作ってほしい。注文が殺到していて、恐ろしいことになっている。全く容器も白粉も足りなくて、作っては出す、作っては出すような状態で手間はいいんだが、金払いのいいお客ばかりなので早く作って渡したいんだ。よろしく頼むよ」
「ここで作ってもいいの?」
「頼むよ」
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読んでくれてありがとうございます。
☆や♡を恵んでください。お願います。
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