帰ってみると2
「それで冒険者ギルドはなんて?」
「関知しないと」
「それで済むのかい?」
「結婚も黙認。ランス君が国を滅ぼそうとも冒険者ギルドは関知しないと。各国家が犯罪者として取り扱おうが、冒険者ギルドはランス君に関する討伐、捕縛依頼等は一切受けず、ギルド員として扱うと」
「逃げたのかい。それ相応の対価はいただこうかね」
ソファーの上に座らされて、何も出来ないまま座ることしか出来なかった。
「シャローザは取り戻せないの?」
「取り戻せない、戻せるかもはしれない。ランスなら城に攻め入って、取り戻すことは出来るだろう。だけどね、うちらはそれを許してやれないのさ。それをやっちまうと2度とギルド員にはなれないだろうね。第1はそれ。それでもっていうなら、止めはしない。第2はどこに逃げるのかってことさ。シャローザ嬢は人のいないところで暮らせるかい?自分の身は守れるかい?もしもだけど、ランスがいないときに襲われて、どうにか出来るのかい?欲しいものがあっても買えないし、不自由を強いることになる。元々不自由だっていうのは、呪い姫だったから知っているけど、それでも誰の世話もなしにいきなり自分だけでやれるかっていうことなんだ。わかるかいランス?平民だとわからない感覚なんだけどね、世話する人がいただろう。いきなりいなくなって、自分で全部してご飯も買いに行けないのに、どうするのかってことだよ。ランスが何かの拍子に帰れなくなったら、生きられないんじゃないかと思ってね。ずっと一緒にいられるわけじゃない、食料、服も買いに行ったりするだろう。逃げられないシャローザ嬢を置いていくのだろう?その時に食べられなくて死んでしまうんじゃないかと心配しているんだよ」
「あ」
昔の記憶がよみがえる。母さんが冷たくなって、動かなくなって。僕もお腹が空いてどうにもならなくて。手伝いして食べ物もらって生きていた。お腹が空いたら母さんみたいに痩せこけて死んじゃう。
「アタシがいってやれるのは、諦めてやったほうがいいんじゃないかい?」
「一緒にいたら死んじゃうのかな?」
「そうならないかも知れないけどねえ、あとその先を考えると。子どもがもしも出来たときに物入りになるけど、揃えられないってことも考えられる。子どももそこから出られないから、かわいそうだろうしね。そうなると、離れることが多くなって、余計に食べ物も襲われるっていうのも。危険が多くなるね」
シャローザとお母さんの姿が重なる。細くなった腕が力なくたれて、冷たくなっていく様子がハッキリと目の前に広がる。
急に寒くなって血の気が引いていく。涙が出てくる。両足を抱えて震える体を押さえつける。
「食べられなくて、死んじゃうのはヤダ」
「それが嫌なら、シャローザのことはなかったことにしよう。ランスには悪いが、それがあの子のためだよ。そのかわりにギルドとして、あいつらに目にもの見せてやるさ」
頭をなでられて、それでも涙と体の震えは止まらない。
「冒険者ギルドの本部長を呼び出すよ」
ソファの上で震えて泣いていた。あの時のままだった。無力で何も出来なくて、泣いて震えることしか出来ない。努力して、努力して、頑張って頑張って頑張って頑張ったのに、家族になれると思った。どんなことがあっても守れると思ってた。思っていたのに、何も出来ずに諦めることしか出来ない。僕は何をしていたんだろう。何のために頑張ったの?
「ランスは諦めてくれるといってくれたよ」
「それで冒険者ギルドに何をしろと?」
「勇者連合国との交渉。冒険者ギルドとして何を要求するんだい?」
「勇者と比べるわけにも」
「比べるまでもなくランスが強いからねえ。勇者を守るために余程のことを要求してくれるんだろう?それとも黙認なんてことで許してもらえると?うちと薬師を敵に回すつもりなら、当然総本部同士の話し合いになるね。前回の薬師の件から日がたっていないから、薬師には強く出られないはずなんだが。よほど薬師に金を落としたいようだよ」
声が聞こえるけど、頭の中で理解しようとしない。何も聞きたくない。
「勇者連合国と何を交渉しようとしている?」
「うちはそうだね、ランスの作るものの減税だね。その分をランスの慰謝料とする。薬師はどうするんだい?」
「うちもそれで構わない。将来的にそれが1番だろうね」
「減税を勇者連合国全体に適応すると?」
当たり前さと軽い感じの声がした。泣き疲れて、うとうとしている。疲れた。何も考えたくない。
母さんみたいに死んでしまうのなら、諦めるしかない。イヤだ。帰ってきてよ。捨てないで。置いていかないで。イヤだよ。やだ。
ヤダ。
やだ。
い、や
「眠ったかい。昔に餓死した人がいたんだろうね。でないとこんなにすんなり納得するはずがないよ」
「これほどの才能を持っても、小さくては無力ということですな」
「そうだねえ」
慈しむように視線を向ける商業ギルドと薬師ギルドの本部長達。
「冒険者ギルドはどうするんだい?下手するとこの国だけじゃくて、勇者連合ごと戦いを挑みそうなほどの蛮勇をしそうで怖いよ」
冒険者ギルドの本部長は引きつった顔をしている。
「2人に頼み事があるのだが」
「なんだい?聞けるものと聞けないものがあるよ」
「聞いてみてから判断しても?」
冒険者ギルドは意を決したように口を開く。
「夢物語のようなランス君の話があるんだ。こんなにも才気に溢れる秘密だ。当然、誓約がいる。冒険者ギルドではエインヘニャル様と私、秘書とそれに受付のレスタが誓約をしている。してもらえると今後のためにもなると考えている。我々がこの件に関しては板挟みで、どちらかをとればどちらか立たず。エインヘニャル様と相談した結果こういう結論に至った」
「つまり自分たちは関わらないと?」
「そうだ」
「勇者を殺しても関わらないと?それは勇者連合が納得しないだろうに」
「それでもだ」
商業ギルドと薬師ギルドは目を見合わせる。
「どういうことだい?ランスなら総出でかかればなんとかなるんじゃないのかい?」
冒険者ギルドは首を振る。
「誓約がない限りはこれ以上説明しようがない」
「つまりそれ以上の秘密があるのかい?わからないねえ。生活魔法を高レベルで使えるのは驚くけど、それ以外は相応の部分もあるしねえ」
「ランス君はすでに薬師として最前線の総本部で討論出来るほどの知識を有している。この幼さでそれほどの知識をどこで得たのか知りたい。誓約しよう」
「あんまりしたくないんだが、それで話が進まないならしかたないねえ。覚悟を来決めるか」
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読んでくれてありがとうございます。
☆や♡を恵んでください。お願います。
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