帰ってみると1

 ファーレでの生活は充実して、たくさんのことを知れて楽しかった。もうすぐ終わりになると思うと、祝福前にこっちに移り住んでもいいんじゃないのかと考えている。シャローザがどう考えるか。貴族のうちは他の国に行くのに許可がいるのか。結婚してしまえば、平民だから自由にしていいんだけど。許可はでないよね。今回も出かなかったし。

「ランスはいつ帰るの?」

「もうすぐ帰るよ。3ヶ月たったら終わりだからね」

「ラント王国の第3王子、勇者ブレイブ様の結婚式があるから早く帰るのかと思った。うちの兄はもう出発して結構立つからそろそろつく頃じゃない。そういえば、最終確認の手紙では婚約者の名前が変わってたって、何かあったのか確認するのに時間がかかったみたい。ランスは見に行かないの?」

「人混みにまみれて見に行ったりしないよ。蹴られたりするのイヤだからね。それに婚約者が家で待っているからね。お土産も用意出来た。喜んでくれるといいな」

 何事もないようだとズワルトには聞かされている。心待ちにしているのは聞かされているので、結婚式は関係なく帰ってしまってもいいかもしれないね。

「婚約者って、そういえば平民でもそういうことするの?」

「相手は貴族だよ」

「は?」

「言ってなかったっけ?」

 驚いた顔をしているけど、どうしたんだろう。

「聞いてないわよ。平民同士で婚約しているものだとばかり思っていたから。ありえなくはないでしょう?」

「そうなの?正式な婚約の手続きも終わっている。紋章官に認められた書類もあるよ」

「本物なの?」

 マジックバックからシャローザと結婚するための紙を取り出す。彼女はそれを見つめると驚いた顔をして、震える手で戻してきた。

「ランス、よく聞いて。そのシャローザ・エルミニドという人物は2人いるの?」

「2人?いないよ。エルミニド辺境伯の4女シャローザは1人だよ。それにエルミニド辺境伯の家族に同じ名前の人はいなかったよ。1番上のお姉さんのことはわからないけど、お嫁に行ってるってシャローザから聞いたことがある。2番目のフィリーダは学園にいて、3番目のシルヴリンは辺境伯領にいる。シャローザは僕の家にいるよ」

「ブレイブ王子の結婚相手がシャローザ・エルミニドなのよ。結婚式の招待状にも書かれていたわ。本当に2人いないのよね?」

「いない」

「じゃあ、どちらかがウソになる。結婚式でないのならランスの家にいるのよね?確かめたほうがいいんじゃないの?」

「そうだね、帰って確かめるよ」

「あっ」

 顔をうつむけて黙り込む。

「祝福を受けたらまた来るよ。来たらまた遊ぼう。楽しかったよ」

「また来るの?」

「当たり前だよ。まだ祝福をもらってないんだから。もらったらまた来ないと」

「そう、じゃあ、来たときに遊んであげるから早く来なさいよね」

「わかった。またね、メアリー」

 別れを告げると滞在中にお世話になったギルドに挨拶に行って、帰ることを伝えてまわる。薬師ギルドでは期限一杯までいるように言われたが、シャローザのことが心配なのですぐに帰ると伝えた。

 フウイに乗ると真っ直ぐに自分の家を目指した。家にいるはずなんだ。



 行きと同じように街を経由して、王都まで来るとそのまま自分の家まで飛んでいく。なりふり構わず、家の前に降り立った。

 おかしいぐらいに静かだった。騎士団の駐在もいたし、下働きも多少なりともいたんだ。音がしないなんて。

 家の中に入ると以前と変わらない風景が広がっていた。シャローザが来る前の何もない風景が広がっていた。地下のつながる道、恐る恐る入って行くとそこには食料などもなかった。シャローザの部屋を開けても、何もなくなってがらんとした空間だけが広がっていた。作り出したときと同じ。

 何かないかと探し回ったけど、僕が作り出したもの以外がなくなっていた。駐在用の場所も何もなくなっていた。建物だけが残されて、そこまで来てシャローザがいなくなったことが頭の中で理解できた。ただ心はそんなはずはないと叫んでいた。作ったものを元に戻す。必要ない。誰もいないなら必要ない。物も人もいなくなったんだから。

「王都へ行こう。何かわかるかもしれない」

 フウイに乗って王都へ。


 貴族門の検問で止められた。

「申し訳ございません。現在ランス様は王都へ入場を制限されております」

「どうして?理由は?」

「通すなと命令されているだけで、理由は知らないのです」

「じゃあ、上から通るね」

 フウイに乗って城門の上まで登ると結界を軽く壊して中に入って行く。下では大騒ぎで叫んでいる。人もいっぱいいる。降り立って薬師ギルドへ入って行く。

「戻ってきたとき王都に入れなかったんだけど。どうしてかな?」

「どういうこと?入ってきてるじゃない」

「門で入れないって言われたから、上から入ってきたの」

「ちょっと待ってね」

 お姉さんは後ろを振り向く。

「ギルド長に緊急連絡、時間をとってもらって。ランス君が王都に入れないこと確認」

 何でなんだろうって思っているとギルド長が降りてきた。

「お帰りランス君。それで」

「ギルド長、ランス君が王都への入場を断られたそうです。魔馬がいるので上から入ってきたそうなのですが、入れない理由は何か伺っていますか?」

「第3王子の結婚式でかなり神経を尖らせているからでは、説明がつかないか。何か理由は聞いたのかい?」

「命令されているだけだって。教えてくれなかった」

 思案しているようで、そのままギルド長室に行こうということになった。お茶をもらいながらいろんなところに連絡をしているみたい。

「心当たりはあるのかな?」

「家にシャローザがいなかった。勇者王子とシャローザが結婚するって、ファーレで聞いた」

「それは、本部長に聞いて。みないとわからないね」

 薬師ギルド本部長に連絡を取ってみると、すぐに部屋へきて欲しいとのことだった。ギルド長に案内されるままに本部長の部屋へと案内される。

「戻ってきたかい。早かったねえ」

「何で商業ギルド長のシーラさんがいるの?」

「ランスのことでね、話し合いをしていたところなんだ」

「それより、シャローザはどこに行ったのか知らない?」

 本部長とシーラさんは顔を見合わせる。

「その様子だと知らないようだね。シャローザ・エルミニドは第3王子ブレイブと明後日結婚するんだ。貴族じゃなかったらいくらでも手が出せたんだけどね、家のこととして手が出せなかった。それにふざけたことにギルドの了承を、ランスが不在の間に求めてきたんだよ。ランスが戻ってきてはどうにもならないとわかっていたんだろうね」

「なんで?僕ちゃんと、正式な手続きっていうのをしたし、書類も持ってるよ。ちゃんと出来るまで待ったし、ギルドの人達にも見せたよね?」

「ああ、知ってるさ。うちも薬師もギルドの人を使って、正式に確認をとったんだ。ランスが騙されるようなことがないようにね。商業ギルド、薬師ギルド、冒険者ギルドも確認済みさ。本部長の間で共有していたんだよ。それなのにこんなことになるなんてね。エルミニド辺境伯は何も考えているんだい」

 あの書類はちゃんと現実にもらったものだった。もらったのに、どうしてシャローザと結婚出来なくなったの?わからない。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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