side シャローザ ランスとの婚約破棄5
「シャローザお嬢様、辺境伯様が」
慌てた様子のハンナは呼吸を乱している。
「お父様がどうしたの?手紙の返事が来たの?」
「そ、そうではございません。これから来られるそうです」
「え?来る?」
「そうです。これからこちらに来られるのです」
お父様がいらっしゃる?この家に?どうして?
「お迎えのために着替えをいたしましょう。もてなしの準備などは出来ませんので、せめてお迎えをきちんといたしませんと」
部屋を移動していつもよりも豪華な服を着る。汚れなどのないきちんとしたドレスに着替える。着替えることはハンナに任せて、邪魔にならないようジッとしている。靴もそれ相応のヒールを履いて出迎えの準備に余念はない。お化粧直しもハンナに見てもらって、これで大丈夫。
「いきなり来られるとはどうしたのかしら?」
「直接説得をされるつもりではないでしょうか?もしくは一緒に王都へ向かうようにするつもりかも知れません」
それなら動きやすい服の方がよかったのかもしれない。
「手紙に書けないことも聞けるということね」
「それはそうですが、王都へ一緒に来るようにいわれますよ」
「手紙で言ってもダメ。ランス様と一緒にいられないのならどこに行っても同じこと。全力でお父様と話さなければなりません」
「覚悟がおありなのでしたら、お止めするわけにはいきません。全力を尽くしてください。微力ながら応援しております」
しばらくしてお父様の乗った馬車が到着する。
「ご無沙汰しております、お父様」
降りてきたお父様に膝を曲げて挨拶をする。旅の疲れか、王子のために動かざるおえないことに疲れているのかはわからないけど。
「顔を見るのは久しぶりだな。元気になっているようで安心した。では王都に向かおう。道中つもり話もあるだろう」
「どうして王都に向かうのですか?手紙でも一切了承しておりません。私はここに残ります」
「手紙でも書いた通り、すでに婚約破棄はされ新しくシャローザを婚約者として手続きは終わっている」
「それは王子の話であって、私はランス様との婚約を破棄していませんし、王子との婚約も認めておりません」
「これは家の話で決まったことなのだ。シャローザの一存で決定出来る問題ではない」
冷たく突き放す言葉にひるみそうになる。家の方針には逆らえない。
「では、ランス様との婚姻を破棄した証拠を本人とギルドの了承を取り付けた上で、新しく婚約者として勇者王子と婚約したということでしょうか?」
「そちらは事後承諾をするつもりだ。まだ粘られている、やはり金や地位にがめつい。様々な要求をしてくる。忌々しい。我らの言葉が聞けぬ愚か者達には困ったものよ」
「ギルドとランス様を敵に回してどうにか出来るとお思いなのですか?」
「どうにでもなろう」
「私は行きません。お父様の決定とはいえ、対応がずさんすぎます、失礼いたします」
きびすを返して家の中に入って行く。国がついているからといって、ギルドを蔑ろにすれば大ごとになる。それがわかっていない。私が調べるだけでも大きな影響力を持っていて、国と交渉するためにギルドという組織が作られたはず。なら、不条理を目の前にしてギルドが交渉をしないわけがない。事後承諾になれば、戦力である冒険者ギルド、商売を司っている商業ギルド、人々の健康や命を支える薬師ギルド。どれとも敵対したいと思わない。かなり重要なギルドを敵に回すつもりならば、国が傾いていってもしかたないことなのに。辺境伯領などすぐに苦しくなる。
用意してくれたお茶を口に入れると少しだけ頭が冷える。結局は何も考えていなかったのね。どう対処をするつもりなのでしょう?なってからでは遅いのに。
お父様が中に入ってくる。
「王都へは一緒に行かないのか?」
「行きませんし、行けません。ぁぃ・・・・・・」
「どうした?」
後ろには執事が立っていて、誓約によってしゃべれない。
「ランス様をどうやって抑えるつもりなのか、教えてください」
「よい条件を提示すれば黙るだろう。金を稼げるようになってきているのだ。次に望むのは地位。爵位でも与えれば大人しくしよう」
「本当にそうでしょうか?一緒にいるので地位が欲しいと思っているように感じられませんでした。いらないとされたときはどうされるのでしょうか?未だ全力を見た者がいないランス様を誰が止められるのでしょう。辺境伯領がなくならなければいいのですが」
「あの甘いヤツが牙を向けるとは思えん。目の前である程度へりくだった対応をしていれば十分。誰も殺せんよ。敵だといいながら口しか回っておらん。誰も傷つけず、シャローザさえも救うほどのお人好し。向くことなどあり得ん」
「それでも力を恐れたからこそ、お父様もへりくだったのではありませんか?そうでなければ、今度はわかりませんね。いいのではありませんか、ファイアドラゴンとランス様の共闘で滅びるのは、辺境伯領だけではなく王国そのもの。昔の皇帝は戦争の時に天馬が国を踏み潰したそうです」
何を言っているのだと言われて驚いた。
「ランス様は天馬を購入してファーレ王国に行かれたのですよ。知らないのですか?」
「わざわざ天馬を所有する必要があるのだ。飛竜で行けば十分ではないのか?」
「詳細な事情はわかりませんが、飛竜の予約で時間のかかるようでしたので、一刻も早く向かうために天馬を手に入れたそうです。魔馬は力のある者しか乗せようとしないのに、すごいことです。たまたま、天馬が王都にいてよかったです」
「それは王子勇者がランスより劣っているといいたいのか?」
「劣っている?比べられるような実績がありますでしょうか?王族以外に優れた点がございましたら教えていただきたいです。それは勇者で王子様ですから、よほど素晴らしいお方だと説明をお願いします」
勇者王子のいいところ、王族の血族であること。勇者の職業を授かったこと。それぐらいしか思いつかないのです。
「これから魔王を討つのだ。実績はついてくる」
「そうですよね、ランス様はすでにワイバーン単騎討伐、ファイアドラゴンと友好を認められ、天馬にも認められる。勇者王子も天馬には認められるのではないのですか?」
「ぐっ。まだ修行が足りなかっただけの話だ」
悔しそうに顔をゆがめる。
「いえ、将来を考えるのでしたら実力があり、生計を確実に立てられる方がいいと思いまして。才気に溢れるランス様を切り捨ててまで、勇者王子へ嫁に行けというのならそれ相応の優れた点を教えてください」
「王になるだろう」
「どうやってですか?」
「魔王を倒すからだ」
倒すと信じられているようなのですが、女をとっかえひっかえしている男に出来ることなのでしょうか?
「職業を得ているのですからランス様よりは強いのですよね?エインヘニャル様に認められるほどには」
審議するように首をひねっている。
「今はまだそこまで成長していないが、すぐに追いつく」
「お父様。ランス様は私と同じ年で祝福前です。追いつくのでは遅いのではないですか?それにエインヘニャル様に認められるほどの冒険者はS級冒険者のみではないのですか?勇者王子は直接お会いしたのでしょうか?」
「そこは国が今鍛えているところ。十分にエインヘニャル様に認められる可能性はある」
「もう認められた方からまだ認められていない方へと嫁げと?魔王を討ち取ってからでもよろしいのではないのですか?今、わざわざ婚姻をする必要があると思えないのです。魔王を撃つ旅に出ないといけません。1人にされるのにどうして、今、奪うように嫁がされる理由がないと思います」
大々的に第3王子の結婚式をして身を固めさせ、問答無用でこれ以上側室を作らないようにする計画だったらしい。しかし、勇者になり国王になる可能性を秘めたため、そうもいかなくなり計画が裏目に出ている。そうは言っても無理に無理を通しており、シャローザとの婚姻と他国に触れ回っているので、折れるしかないのだと説明された。全然納得していない。
「無理に無理を通すのなら、ギルドにも無理を通すべきです。どのような譲歩をしてもです。その前に、ランス様と引き剥がされることに納得していません。留守を狙うなど卑怯で外道のすることです。国家ぐるみでそのようなことをするなんて、本当に信じられません。最低です」
「この結婚式さえ終わってしまえばどうとでもなる。とにかく国の面子を保つためにも結婚式には出てもらう。国をバカにされては我々貴族もバカにされることになるのだ。そのようなことは許されん」
どうでもいいこと聞かされていて、とにかくこの結婚式だけを成功させることだけを考えているのね。自分たちがバカにされることは我慢がならないようで、そのための犠牲は何も考えていない。自国の安全さえも引き換えにして。
「それでは、ランス様がドラゴンと友好を結んでいますので、友好を結ぶのは難しいにしても狩ってくることぐらいは出来ますよね?まさか庶民に劣る王族に嫁がせるなどいう、貴族の誇りのかけらもない方と婚姻させることはありませんよね。私には愛情もなければ、前もって結ばれた婚約もありませんので、その程度のことをして示してもらわなければここを動くことはできませんよ、お父様」
「王子がそのようなことを」
「面子を保つためにもするべきです。幸いそれを成し遂げれば、私は劣っているなどと吹聴し、面と向かっていいません。誇りのかけらもない、王族などとはいいませんよ」
この言葉はお父様に効いたのか眉間にしわが寄る。何を思って立ち上がったのか、もう行くぞと執事に告げると馬車に乗り込む。見送りに一緒に出ると私をおいて馬車は出発していった。
無理矢理でも一緒に連れて行くと思っていたので拍子抜けした。難関を抜けて、これできっと大丈夫。気分が晴れて肩が軽くなった気がする。お父様が諦めたのなら一安心。
着替えを済ませてから気晴らしに馬での散策に出て、気持ちよく歩いて行く。
-------------------
読んでくれてありがとうございます。
☆や♡を恵んでください。お願います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます