side シャローザ ランスとの婚約破棄4

 教会の帰った翌日、お父様からの手紙が来た。すぐに中を開けると呪解が済んだのなら憂うことなく王都に向かうように書いてあった。何を言っているのかわからなかった。呪解は出来ず、出来た前提で書かれていたからだ。

 各ギルドへの確認のことは全く書かれてない。どういうつもり?生きるのに必要なギルドを本当に怒らせるつもりなの?

 とにかく呪解が出来なかったことを書いて、王家に呪い持ちを輿入れすることはエルミニド家として品格を疑われる行為なのでやめるように再度書いておく。もう伝わらないのかもしれないけど、抵抗をやめてしまってはランス様に会えなくなってしまう。あの方だけ、私のことをわかってくれたのは。救ってくれたのは。

 また急ぎでの手紙をお願いして、今日のところは筆を置いた。ギルドのことも確認で書き入れた。ランス様が暴れたときの対処も再度書いた。疑問に対して全然答えてくれない。晴れない疑問に気持ちが重くなる。それでも時間を延ばして、行く気のないことを伝えないと。今までちゃんと言うことは聞いてきた。でも、ランス様との結婚だけは譲れない。誰がなんといっても譲ることは出来ない。逃げる準備をしないといけない。


 手紙を出したあとに馬を持ってきてもらって、川は渡らないけどいつも歩いているようなところを馬で散策していく。危ない動物はいないはずだけど、気をつけないと。後ろに騎士達も馬に乗ってついてきている。護衛のためか監視のためかはわからないけど、誰かはついてこないと行けない。

 逃げるのなら馬に乗せてもらっているけど、自分で乗れなければいけない。1時間ほど乗って帰ると集中出来ないまま授業を受けることになった。勉強をしないといけない。

 昼からも1時間ほど散策をして、帰るとスコル様がいらっしゃった。

「帰る日取りが近づいてきたが、変わりはないか?」

「少し問題が起こりましたが、私で対処出来ると思います」

「対処出来るのなら構わん」

 いつも通りに魔力を送られて、少し光るとランス様の状況を教えてくれた。他のギルドにも出向いて楽しそうにしているようだった。邪魔は出来ない。だって、ランス様に嫌われるようなことはしたくない。

 スコル様はランス様のことを話すと消えていった。どういう風に来て、どう帰っているのかは想像も出来ないので、さすがは女神の代行様です。光の魔力をどうやって運んできたのかもわからない。とにかく凄い力なのだけはわかります。

 ランス様の様子を聞けたので、気持ちが落ち着いてランス様が帰ってくるまでは頑張れるはずだと自分に言い聞かせる。とにかく、ランス様と一緒にいられればいいの。お父様にいいくるめられないように、いいくるめられるようなことはもうないから、ここにいられるようにするだけ。


 毎日朝と授業が終わってから馬に乗って散策するようにしている。家から1時間圏内だけをずっと馬で歩き回って、乗るのに慣れておく。いざとなったら逃げ出せるように練習を怠らないようにしている。生きてさえいれば、生きていればきっと、ランス様に会えるはずだから。

 出来れば早く帰って欲しいとスコル様にお願いすれば、ランス様は帰ってきてくれるかな?私のわがままに愛想を尽かされないかしら?

 不安はつきない。


 お父様からの返事は5日後に到着した。呪解は婚姻後に聖女様をお呼びしてやっていただくことが決定したと書かれていた。そのことだけが言い訳のようにならんでいて、ギルドのことやランス様のことは一切触れていない。問題を先送りしても降りかかってからでは、遅いから先にどうにかしないといけないはずなのに。

「お父様は私を説得する気があるのかしら?」

「どうされたのですか?」

「呪いが解ければ、私はいいのだとばかり思っているみたい。ギルドの許可に、ランス様の戦力への対処はどうするのかわからないの」

「許可が下りないので諦めたのではないですか。戦力も国を落とせるファイアドラゴンと友好関係にあれば、死ぬしかないでしょう。冒険者ギルドにいくら払って対処してくれるか。ですが、ランス様の戦力を把握している冒険者ギルドが対応に応じることはない。ギルド員が貶められた状態で冒険者ギルドが協力すれば、ギルド員から反発は必至。新しい冒険者ギルドの誕生ですかね。そこを解決することはかなり難しいと」

 手紙には呪いよりもそちらを解決しなければ、ランス様との婚約を解消するつもりがないこと。さらにランス様に直接、婚約の解消を了承してもらうことを合わせて条件として明言して手紙を返した。

「お父様は何を考えているの?ランス様を敵に回していいことなどないはずなのに」

「もしかしたらですが、代行様の怒りに触れて職を取り消された魔法師団長のことで焦っておられるのかも知れません。あの者は現在職がわからないそうです。スキルはあるので、魔法は使えるのですが。補填の人員を国軍から引き抜くことも条件に含まれているみたいなのです。領地を守るために、ですが、ランス様を敵に回したらなくなるかも知れませんね」

「前回、敵といいながら殺さないでいたというのは聞いていますが、もしかしたら殺さないと思っているのかしら?」

「そうですね。前回はランス様の領民ごと消せないためにと聞いています。制限がかかっているので手紙には書けませんが、代行様の怒りに触れてなくなる可能性が高いです」

「人ではどうにも出来ない。お父様は滅びることをお望みなのかわからないわ」

「国を挙げての婚姻にシャローザ様を指名された辺境伯様のご心中お察しします」

 お父様がいくら国のために動くといっても、私はランス様に嫁に出されたはず。すぐに婚約者を替えるにしても色々飛ばして無理矢理することへ誰の賛同も得られない。

 特にギルド員への裏切り行為、特権階級の横暴を許すとは思えない。国とどのような取り引きをしたら、ランス様のことを無視出来るのか。辺境伯なら国の防衛を担っているから無理をはね除けられるはず。それなのにどうして。

「いくら王子の結婚式とはいえ、無理矢理私とあげる必要などないでしょうに。お父様も何を考えているのでしょう」

「どうやら、追加の招待状にシャローザ様の名前を勝手に使用していたらしく、国も引くに引けず、中止にも出来ず、辺境伯様に泣きついたそうです。譲歩に譲歩を引き出して、今の結果になったそうです。王子の暴走の尻拭いをさせられることになるとは」

「巻き込まれたってこと?」

「完全な勇者王子のやらかしに巻き込まれた形になります。お嬢様や辺境伯様は巻き込まれて、そうせざるおえないように持って行かれたのです。他国も国に勇者のお相手を用意出来ないなどと微塵も思っていないでしょう。出来なければ、嘲られ嘲笑の格好の的になるので必死なのです。勇者の結婚式ということで、これまで交流のない国々からも参列されます。鑑定のスキルもありますので、別の人を立てるということも出来ません」

 お父様も苦慮されてはいるのでしょう。ですが、ランス様のお嫁さんだけは譲れません。

 予定を切り上げて早く帰ってきて欲しい。お父様はどう動くのかわからない。王都へ向かうはずだから、その一行に無理矢理同行させられる可能性が1番高いと思う。どう動くかはわからないから、逃げ出せるように毎日の馬に乗る時間を徐々に延ばしている。

 馬はちゃんと動いてくれて、散策する範囲も広くなってきている。危なそうな動物はいなくて、木々の中を通ったり新しい草原を見つけたり。日々の中に少しずつの変化が加わっていく。

「今日も楽しかったわ」

 馬を下りると話しかけてなでる。散策が終わると馬は連れて行かれて、近場を少し歩く。1人は寂しい。暗い中で痛みに耐えるだけの生活からこんなに広い光の世界に私を連れ出してくれた。他の誰でもなく、ランス様だけ。こんなに広い世界で自由に出来るなんて思っていなかった。草を踏みつけて、歩いているとハンナがお茶が入っていると呼びに来た。

 クリーンをかけてもらってお茶をもらう。喉が渇いていたのでおかわりをもらう。もらったら少しずつ飲んでいく。

「馬に乗るのは楽しいですか?」

「楽しいわ。1人で歩いているときよりも遠くに行けるから、いつもと違う場所を見られるの。木々の向こうに背の低い草原が広がっているのを見つけたわ。それからここの草原は結構広いから端までたどり着いていないの。そのうち端まで行ってみたいのよ」

「それはよろしいですが護衛に仕事をさせないようにしてください。危なそうなら帰ってくることです。わかっていますか?」

「危なそうならちゃんと帰ってくるわよ」

 無茶をしなくても十分に楽しめているので、危険なことをしようなどとは考えていない。楽しく馬になれつつ、行動範囲を広げられれば逃げるときにもきっと役に立つ。

 いつものように過ごしてランス様が早く帰ってくることを願う。今さらだけど、王子は諦めてくれないのかな?

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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