side シャローザ ランスとの婚約破棄3

 魔力枯渇したあとで、疲れがありありと浮かんでいる神官達はあの神官の指示に従って、また位置についていた。

 呪文の詠唱が始まり、長く長い呪文の言葉が続いていく。イスに座ったままでいいのなら、疲れることもありませんからいいのですけど。魔力を感じるのはランス様がいるときに補給をしてくれるとき。それ以外の時は全く感じられない。呪いのせいで感じられないのかもしれない。

 呪文の言葉が終わり、光が満ちて魔方陣が光を放つ。私自身の体からも光があふれ出て、皆の視線が私の上に。見上げると美しく完成された白い魔方陣と黒く崩れた魔方陣が浮かんでいる。黒い魔方陣からは禍々しい黒いもやがあふれ出いて、白い魔方陣は白いもやを黒いもやの方へと向けている。

 視線を戻すと高位の神官は口をあんぐりと開けて、魔方陣を見ている。ランス様は動揺すらしなかったのに。周りの光がおさまっていくと頭上の魔方陣は薄れて消えていった。また、魔法を使った神官達は倒れていく。

「あれは神代の魔方陣。あれは神々の言葉で書かれた魔法。我らが扱える代物ではない。黒き魔方陣は古代魔法で構成されている。崩れているとはいえ、その呪解法は存在しない。そのようなことが、魔法自体が失われたものだというのに。残されているのは遺跡や遺物に刻まれているのみ。誰も使えず、唯一伝説の大賢者グリゴリイとその弟子達のみが理解出来るという。なんということだ。どのようにして呪いをかけられたのか。誰も出来ないのならば、古代の遺物によってかけられてしまったのか」

 頭を抱えてしゃべっているけど、呪解出来ないってことはわかった。しかも教会でも古代の魔法は解明されていないみたい。やっぱりランス様は凄い。これを読み解き、呪解まで出来るのだから。これで断る理由も出来たわ。呪解出来ないのだから、行く必要などないのよね。理由を考えているけど、どうしようもなければどうしよう。

「対策を考える。聖女様のお力を借りることも考えねばならん」

「聖女様の」

「どれほどの呪いなのだ」

「我らが敗北するのか」

 思い思いにしゃべっているのをあの神官が黙らせる。

「失敗ということで戻らせていただきます」

「失敗ということでは」

「今ここでできないことは失敗です」

「次の手を用意しております」

「すぐ出来なければ、失敗です。どうぞ、次の手を行ってください」

 悔しそうな顔をしたまま、何もしないでいる。

「では、呪われたままであるときちんと報告し、呪われた者を娶ることを教会では推奨していましたか?していないのであれば、反対するべきですよね?いいたいことはそれだけです」

 呪われているものは嫌われる。呪われるかもしれないから。呪いが降りかかるかもしれないから。

 呪解出来なかったことに胸をなで下ろしながら、家の中でお茶を入れてもらい一息ついた。教会が国からの依頼を受けて出来ないのは、なくはないけど、総力を使ってどうにかしようとする。出来ないとその国の中での権威が失墜して優遇を受けられなくなるらしいとしか聞いたことはない。教会も立派だし、いいでしょう。

「お嬢様、一緒に入れませんでしたが何かされませんでしたか?」

「何もされてないわ。呪解は出来ないって。古代の魔方陣はわからないといっていたわ。そう思うと教会よりも優れているランス様って改めて凄いのよね。さすがランス様です」

「呪解は出来なかったのですか?」

「そう。魔方陣は出てきたけど、出来ないみたい。対策を考えるつもりみたいだけど、ここで出来ないなら失敗よ。誰かを呼んで、対策を考える時間の余裕があるとは考えられない」

 お茶を飲みながら、やっと終わったと考えてホッとする。こういうのは前もって言ってくれないと心の準備のないまま来られるのは好きじゃない。

 それに呪解出来ないといっていたのは教会。信用なんてしていない。

「帰る準備をしていますよ」

「呪解出来ないのにここにいる必要ないでしょう。教会の方が心地はいいでしょうから」

「少しささくれておりますね。お嬢様が嫌いのは知っておりましたが」

「魔力も分けてくれないのに、今さら何の用?教会なんて大大大嫌いよ」

 頼ることも許されないのに、嫌いにもなる。相手にもされずにすげなくあしらわれる。教会とは関わり合いになりたいと思わないけど、頼れるのが教会だけだったからお願いしたけどダメだった。

 もうランス様がいるから頼らなくてよくなった。イヤなところに行かなくて済むから気持ちも楽。ランス様との婚約が決まって、ここで暮らして平穏で平和で痛いこともない。出来なかったこともやれている。ランス様には感謝しかない。ちゃんと私を見てくれている。


 落ち着いてから居座っている教会関係者がどうしているのか見てみると設置していた天幕を片付けていた。ついてきている人達がかいたいして、それからまとめたり積み込んだりしていた。建てるのにも時間はかかったから、片付けるのにも時間はかかるわよね。早く帰って欲しいけどしかたない。

 片付ける音を聞きながら家の中に入って行く。疲れるようなことはしていないと思うのだけれどもイスにかけて休んでいた。教会と関わるのに精神的な負担が大きいのかも。はあ、疲れた。イスに座りながらうつらうつらと寝ているのか起きているのかわからないような、そんな感じで時間がたっていく。


「シャローザ様、シャローザ様。夕食の時間ですよ」

「う、え」

 ハンナが起こしてくれた。

「あれ、寝ていた?もう、そんな時間?教会はまだいるの?」

「教会の方々はとっくに帰られましたよ。高位の神官の方もいらっしゃったと思いますが、頼みこめば呪解出来たのではありませんか?」

「私にかかっている呪いの方は古代の魔法だから出来ないって。もしかしたら聖女様だったらって話していたから、ここで出来ることは全部やっているはずよ。これ以上は出来ることがないわ」

「そうですか。それならばまた来るということもないでしょう」

 言い終わると夕食を並べてくれる。お父様は一体何を考えているのでしょうか。婚約の解消をしたからといって、すぐに別の人を、私をあてがうなんて。周りから見れば、王子の悪い癖が出たと思われているだけなのかも知れないけど、迷惑でしかない。こちらの婚約の解消もしないといけないはずなんだけど、そのことには何も聞いていない。どういうつもり?いくらなんでもギルドの確認の入った婚約を解消するなら、最低限本人の了承を得ないといけない。ランス様はお金でなんとか出来る人ではない。力でもどうにかならない。本当に一方的に破棄していいのかしら?

 とにかく、お父様には呪解出来なかった旨で、お断りを行う。まずそこから。料理を食べていると安心する。いつもの味に、ランス様と一緒にいるような、そんな気になるから。

-------------------

読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る