side シャローザ ランスとの婚約破棄2

 ずっと考えていたけど、答えなんか出るはずない。わからないことだらけで勝手にすすめられている。お父様の返事を待っている間に教会の馬車が大量に乗り付けてきた。呪解できないと投げた教会が今さら何をしに来たというの?

「お初にお目にかかります。シャローザ・エルミニドと申します。教会の高貴な方々とお見受けしますが、どのようなご用件でしょうか?」

「国王様よりブレイブ王子様の婚姻する相手が呪われているとお伺いして、こちらへはせ参じた次第。それではさっそく呪解をさせていただいてもよろしいでしょうか?このような城壁もないような僻地は一刻も早く立ち去りたいものです」

「魔物が出るような、魔素の濃い地域ではございませんので、騎士がいれば十分、もしくは低ランクの冒険者で事足りるような場所です。城壁などはもったいないかと存じます」

「それなら安心しました。少し時間がかかるかも知れなかったので、魔物に襲われては困りますからな」

 後ろの方では呪解か何かをするための設営に入っている。

「婚約を正式に結んだ覚えがありませんが、王子様と婚姻するとは本当のことでしょうか?」

「それはそれは、我々はお父様であらせられるエルミニド辺境伯様とラント国王陛下の連名により、こちらへ赴いて呪解をお願いされたのです。我々はくしくも呪いを受けられたシャローザ・エルミニド嬢の呪いを解術するためにこちらへ参った次第。婚約自体は国王陛下と辺境伯様とで結ばれたと伺っておりますので、このような僻地で療養されているシャローザ嬢には知らせるのが遅れているのもしかたのないこと。それでは準備か整いますまで、しばらくお待ちください」

 神官はそう言い残すと設営の様子を確認することもなく、用意されたテントの中に入って行った。

「もう、どうしようもないのかな?」

「まだ諦めてはいけません。呪解できなければ、それを理由にしてしまえばいいのです。教会が選んだ神官では無理だったと。聞いていただけないような雰囲気が、それでも諦めてはランス様と引き離されるだけです」

「そうね、私が諦めてはランス様に申し訳が立たないわ。呪解出来なければ、呪い持ちなのだから諦めるはずよ。それに今の状態がランス様とあの方達のおかげであるのなら、あの者達ではどうしようもないはずだわ」

「そうですね。それでも呪解してもらえれば僥倖というものです」

 出来ればよかったぐらいで、ですけどランス様のそばを離れる気はさらさらありません。離れるはずがありません。

「逃げ出す準備もしておくべきでしょうか」

「お父様も時間がなくて強行にすすめるかもしれないわね。馬もなるべく近くにおいておけるようにして、次の返事を待って式の日程が終わるまで、どこかに隠れましょう」

「そのように」

 逃げるのは難しいかもしれない。うちの騎士達が見逃してくれるとは思わない。ランス様に負けるとはいえ、優秀なのが今は恨めしい。食料自体は地下通路に多少あるので多少は持って行けるはず。

 逃げられるのはここの領主街へ行くしかない。街に入ると同じ貴族だ、袋小路に追い詰められるだけね。それを避けて村がある場所で食料を買って、なんとか食いつないでいけば。ランス様に見つけてもらって、連れて帰ってもらえるはずよね。きっと探してくれる。私はランス様に会えることを願っている。

 家の中で待ちながら、あの人達帰らないのかなって。そう思いながら見ていた。着々と準備が整いつつ、たまに設営では光が見える。光の属性、嫌われる闇の属性とは全然違う。癒しをもたらす光は教会のお得意な魔法だから。

 無理だと、いつも言っていたのに。今さら教会が出来ることなんてあるの?あの方がかけた魔法に光の魔力を注ぐくらいしか、出来ることなんかない。今回も何も出来ずに帰って行くのが目に見えている。


「お嬢様、準備が整ったそうです」

「ええ、わかったわ」

 呪いがなくなれば、それはそれで嬉しいけど。どうにか出来る人達なのかと言われれば、高いお金を払ってみてもらっても無理なときは無理。私も1度みてもらって、無理だと言われた。今さら出来るとは思わない。

 案内された白い天幕の中に数十人の神官と挨拶に来た偉い神官が1番奥に座っている。

「それでは魔法陣の中心にお立ちください」

 いわれるがままに魔法心の中心へ。私が魔方陣の中心に立つと一斉に神官達が陣を囲むように配置される。すぐに呪文を唱えだした。それは長い呪文で、攻撃に用いられるような呪文よりもさらに長く、時間のかかることを思わせる。少し息を吐きながら、発動までの時間を呪文を聞きながら過ごすことになった。


 まだ終わらないのかなと思っていると急に人が倒れ始めた。何が起こっているのかわからない。魔法は使われたのかすらわからずに、そのまま立っていた。

「どういうことだ?呪いの鑑定魔法が発動しないなどと?魔方陣の光すら起こらないなど初めてだ。一体、何が起こったというのだ」

「倒れたものは魔力枯渇状態です。魔法は使われているはずです」

「ええい、まずは倒れたものを回復させろ」

 倒れた人達は運ばれていって、倒れなかった人達もその場にうずくまって動けないでいる。魔法を使った神官達は人の手を借りて、倒れてしまった人は騎士達によって運ばれていった。

「初めて見る。このような現象は。呪いなのに魔力を、光の魔力を吸収するというのか」

「ランス様の知り合いの方に呪いを抑えるための魔法を授かりました。たしか、光の魔力をためて呪いの力を相殺するそうです」

「そんな、聞いたこともないような。そんな魔法が存在するはずがない。それこそ神の所業。神が舞い降りたとでもいうのか。呪いはどのようなものなのだ」

「知り合いの方と協力されて、ランス様から教えていただいたのは、命を黒い魔力に変換して、それが私の体を痛めつける呪いだと。痛めつける黒い魔力を相殺するために光の白い魔力を送り続けることが必要なのです。白い魔力をためておくための魔法が私の体の中にかけられているのです。辺境伯領の教会からは断られてしまいましたから、魔力をためておくようなことを説明したのですけどね」

「そのようなことが信じられるとでも思っているのか」

 真実しか話していない。声を荒くして、叫んでいる。その顔は真っ赤になって、怒りをにじませるようにしわが入っている。

「信じられないのも無理はありません。教会に見捨てられている身にとって、希望を与えられればすがりつくことしか出来ません。ランス様は私とって神に等しい希望なのです。呪いが解けないのならばお帰りください。そして、呪いが解けなかったと依頼された方にしっかりと正確にお伝えください。そして、解けないならばお話はお断りしますと」

「ふん、我々教会以外の人間がそのようなことが出来るはずもない。すがる相手を間違えたな。少し待つがいい。回復次第、もう1度行う」

 自信に満ちた表情で、部下達に指示を出していた。やるのは魔力を枯渇した神官達なんだろうけど。ポーションを飲まされて、魔力を回復しているところでしょう。

 用意されたイスに座って回復するのを待っている。いつまで続けるつもりなのか。この人達に呪いが解けるとは思えない。ランス様も祝福後に解くとおっしゃっていた。今はまだ待つときだと、祝福までいられればランス様と一緒に進んでいける。呪いが解けたとしても王子と婚約させられたくない。信頼のおける方と一緒に人生をすすめたら、私は幸せなのです。

 そのためにも教会の人達を出来ないとわからせて帰らせる必要がある。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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