side シャローザ ランスとの婚約破棄1

 何事もなくランス様が行かれてから2ヶ月が過ぎ、あと1ヶ月と勉強にも身が入って順調に進んでいます。

「お嬢様、辺境伯様より手紙が来ております」

「お父様から?婚約は決まったけど、ランス様のお披露目でもするつもりかしら?結婚にはまだ早いのに」

 家の家紋の入った手紙はいつものことだけど、他の貴族に当てて出す手紙に使う上等な紙を使っている。

 開けてから中を確認する。

「え!?」

 思わず手紙が手から離れて床に落ちる。

「ど、どうされたのですか?」

「見間違いよね。そんなことって」

「失礼します」

 落ちた手紙を拾い上げると、ハンナも様子がおかしくなる。

「な、何を考えているのですか?そんな、ギルドの了承は得られていないでしょう。それなのに強行するなんて、ギルドを敵に回すということ?いくらなんでも無謀すぎます」

「見間違いではなかったの・・・・・・」

 手紙の内容はランス様との婚約を破棄し、第3王子との婚約をするというものだった。そして結婚式は1ヶ月後。各国の王族、高官を招いての国を挙げての婚姻。その相手が私。

「待って、1ヶ月後に結婚式なんて無理じゃない。最低でも1年ぐらいはかけて準備するはずよ。それをたった1ヶ月で出来るはずがないわ」

「少々、少々お待ちください。騎士団に情報通がおりますので、聞いて参ります」

 王族を招いての婚姻にこの1ヶ月で集まるはずがない。遠くから来る人もいるはずなのに、無理に決まっている。手紙を読み返すと婚姻に当たって、辺境伯領への優遇処置、緊急時の物資支援、王家への納税軽減。国軍の常駐、即時支援。どれもお父様にとってはいいものでしょう。王家からのお金と軍事力の支援。

 元々いた婚約者の方はどうしたのかが書かれていない。婚姻の日取りと婚約破棄の一方的な通達。いきなりのことで頭が混乱している。ええと、ええと。

 呪い、呪いのことはどうするつもり?ランス様が祝福を迎えれば、私の呪いはどうにか出来ると。そのことは?今の状態もランス様あってのこと。それなのにお父様は忘れているとでもいうの?私は絶対にイヤ。あの日々に戻るのなら、いっそのこと死んでしまった方がまし。震える手で机に手紙を置く。

 助けて、ランス様。心の底からそう願う。


「お嬢様、ある程度の情報を集めましたところ、第3王子が祝福後に婚姻する予定を入れていたそうで、それが1ヶ月後の予定で組まれていました。祝福後に来賓の増員等ありましたが、予定通りではあります。婚約者がいたはずなのですが、2ヶ月前ほどに正式に婚約を解消されていました。お嬢様を狙ってのことだと思います。婚約者を解消の上、急遽中止にいたしますと勇者王子への各国の見方、そして国の評判を落とすことにもなります。ここに来て、譲歩に次ぐ譲歩、国の評判を考えますとしかたなく折れたということではないでしょうか」

「ハンナ、呪いのことは何も書かれていないのだけど、確認は出来ないのかしら?あとギルドを敵に回してもいいのか、伺いたいのだけど。手紙を早急にお父様へ送れる?」

「手配いたします」

 手紙の準備をしてもらってから、ランス様のおかげで日々を平穏に過ごせていることを書いてから、それ以外の手段があるのか。具体的にどうするのかを説明していただかないと行きませんと手紙にまずは書く。それからランス様の所属しているギルドへの説明、許してもらっているのかを確認。このまま強行してもいいことはないので、考え直したほうがいいこと。思いつく限りの反対案を書き記して、全てを満たさない限り、ランス様の元から離れるつもりはありませんとハッキリ書いておいた。

 手紙をしたためるとハンナがいて、蝋封をして急いでお父様の元へ届けるように頼んでいた。手紙はいったん返事待ちになる。症状が出なくなったから、呪いがなくなったと思っているのかしら?呪いは私の体中にあって、確実に蝕んでいる。ランス様のおかげで、ランス様といることで、呪いを抑えてもらっているのに。何を考えているの?ワイバーンの討伐の縁があって、今ここにいるのにそれすらも手放すなんて。

 何かの間違いかと手紙を見直す。お父様からの手紙で間違いない。封蝋印も間違いなく家のもの。文字もお父様の直筆で間違いない。領内の発展のために税が軽くなり、飢饉などでは物資援助もしてくれる。魔物が多く定期的に狩りに出かけているから辺境伯軍が強いと言われている。それでもランス様には敵わないと思わせられたはずなのに。それなのに、どうしてこんなことに。

 あそこから救い出してくれたのはランス様だけで。ランス様だけが私を見つけてくれて、手を差し伸べてくれた。あの痛み、苦痛、暗闇。おかしくなって、壊れそうで、何度も殺して欲しいと思って、口にも出していた。誰も助けてくれなかった。誰も何もできなかった。近寄りもしてこなくなった。それを救ってくれたランス様を差し置いて、本人の了承もギルドの了承も何もしないまま、国だけの中で動いている。ギルドは国を超えて、国ほどの影響力を持つ組織。それを蔑ろにすれば、手痛いしっぺ返しをされても受けざるおえない。婚姻したことはギルドから国への確認も行っているはず。ギルド員が騙されていないか、確かめるためにも。それを反故にするならするで、交渉をしなければ。冒険者ギルド、薬師ギルド、商業ギルド。どの国も敵対をしたくないはずのギルド員の正式な婚約者を奪い取る。勇者王子の価値はそれを上回るというの?そんなはずはない。

 すでに1国の王子、勇者という価値を足したとしてもランス様の方が素晴らしいに決まっている。私はランス様と一緒にいて、ランス様のそばで一緒に暮らして、結婚して、こ、子どもも欲しいし、ちゃんと家族になりたい。そういう思いも何もかも全部壊される。この手紙で。

 私は何か悪いことでもしたの?呪いもお姉様から引き受けたし、それはあんまりうまくいかなかったけど、それでもちゃんと引き受けて耐えてきた。それなのに、それを救ってくれたランス様と引き剥がされる意味が全くわからない。私は辺境伯家にとってのお荷物で、外には出せない呪いの子。そういうことになって、ずっとあの塔に閉じ込められていた。調子のいい日は外出を少しだけして、王都にも年に1、2回行けることもある。痛みで寝られずとも、痛くて泣いていても、闇の中で1人だとしても、誰も助けてくれなかった。何も考えず、早く死ねないかとばかり考えていた。起きているのか寝ているのか、境界も曖昧なまま生きていた。それを!それを救ってくれたランス様以外と一緒になるなんて考えられない。考えたくもない。どうにかして、ランス様と一緒にいられるようにしないと。


 返事は早く3日後には私の元に届いていた。呪いは教会から派遣する神官が対応して解術してくれると。ギルドへの説明は今行っているところで、ランス様には帰国してからの説明となるらしい。最悪なことに事後説明。それでなんとかするつもりなら、辺境伯領やこの国が滅んでもおかしくない。

 とって返すように質問を書き、ランス様が与えてくれた呪いを抑える方法以外に確実に呪解出来なければ行かないこと。ギルドの了承を証明書付きで送ってもらうこと。ランス様の戦力に勝てるのかを教えて欲しいこと。勝てるのなら、どう勝つのかを。ランス様が戦うのなら協力するであろう戦力には同時にどうやって対抗するのかを手紙に書いて、持っていってもらった。


 勉強に身が入らないまま過ぎていく日々に、どうにかしないと。考えて、考えては過ぎていく時間。結婚式までここにいられれば、ランス様と一緒にいられる。

 また3日で返事が届く。神官は教会にいる呪解の専門家で最高峰の人がこちらに来ている。それで呪解出来るだろうと。前、教会に頼んでみたけど、呪解は無理だと言われたはずなのに、今さら出来るの?ギルドの了承はまだで、戦力はこちらに考えがあるので心配しなくていいとのこと。たぶんだけど、ランス様が力を振るうことはないと考えているのかも。敵だといいながら、力を振るうことはなかったから今回も振るわれないと?ランス様はどう思うのかしら?ランス様は本当に怒らないのかな?

 お父様の見通しの甘さについて、また各ギルドの重要度などを懇切丁寧に長々と綴りながら了承をとらずおくのはまずいことを説明する。ファイアドラゴンの件や王都で魔法師団と何やら問題を起こして内々に処理され、情報がわからないけどランス様との何かがあったことを書き記しておいた。ギルドの了承がないと国から引き出した益も相殺される恐れがあることも頑張って考えて書いた。

 同じように急ぎの便を使って手紙を出した。連絡はまた3日かかるわね。ランス様がいない中、連絡も何もしないままで婚約破棄を一方的に行うなんて。それにギルドの了承を取り付けられないのは、正式な書類をきちんとギルドに対して見せて、ギルドからの確認もしているはずだから。それを早急に破棄。本来なら話し合いや本人との意見を聞くような時間を設けて、円満に解決へ持っていこうとするはずなのに。

 それに商業ギルド、薬師ギルド、細工ギルドが関わって、ファーレ王国に行かせている状況でこのようなことをされるとギルドへ国が何をしてもよいと受け取られる。終わったあとにそれなりの賠償と要求をされるはずなのに。どうするつもりなのかしら?本当に急いでいるだけ?

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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