side シャローザ しつこい使者2

 どういうわけか、数日で使いの馬車がまた来た。ハンナと一緒に対応に出る。今度は王家の紋章を隠さずに出てきているので、私も出て行かないと失礼になるだろうということになる。表に出て使者が出てくるのを待つ。

「初めましてシャローザ・エルミニド様。わたくしは王家より使者を賜ったシターノ子爵と申します。王家の使者としてえー、手紙を預かって参りました。手紙をお受け取りの上、お返事を聞かせていただければと考え、はせ参じた次第でございます。それでは手紙の方をこちらに」

 後ろから豪華な入れ物が運ばれてきて、シターノ子爵が恭しく手に取ると蓋を開ける。中には王家の蝋封のされた手紙が置いてあった。

「こちらをお受け取りください」

 前に出された入れ物を目の前にして、息を吐いて気持ちを落ち着かせる。

「申し訳ございません。そのような、高貴なお方からお手紙をいただけること誠に光栄でございます。入れ物や使者の方も立派な方をご用意いただき、感謝の念にたえません。しかしながら、そのような重要な手紙が当家当主エルミニド辺境伯を経ないまま受け取ることは、当主を蔑ろにすることになり、当主の許可なく受け取ることは出来ません。当主の許可を得てここに滞在しておりますので、自らの判断でそちらのお手紙を受け取り拝見することは出来ません。まずはエルミニド辺境伯の許可を受けた上で、その証明の自筆の手紙とご一緒にお持ちいただけますでしょうか?そうでなければ、シターノ子爵様、ひいては王家がエルミニド辺境伯を蔑ろにしていると受け取ることになりますが、辺境の防衛をになう辺境伯家を侮ることなどないかと存じますので、我が父、エルミニド辺境伯へ意見を求めていただけませんでしょうか」

「あ、侮るなどとは滅相もございません。現在、エルミニド辺境伯様には手紙の内容を精査していただいておりまして、すぐにでも許可を下ろしていただけるようにしております。ですので、先んじてお手紙をお届けに参った次第です。なにぶん、早く結論を出すようにと高貴なお方には重々いわれておりますので、話が早く進むように各所に話をしております」

「では、各所の対応とエルミニド辺境伯全ての許可が出た上で、その証明とともにお持ちいただいてよろしいでしょうか。そのようなことを自由にしてよい身分でもございません。許可を確認したとき、受け取りをさせていただきます。ご用意をお願いいたします」

 頭を下げて使者は忌々しそうに顔をゆがめている。

「そうおっしゃらずにお受け取り」

「許可をお持ちください。次からは侍女が許可を確認した上で、お出迎えさせていただきます」

「お、王族からの手紙なのですよ?」

「私はエルミニド辺境伯の娘です。そして、エルミニド辺境伯の考えの基ここにいます。当主の許可を得なければ、ここにいることも手紙を受けることもできません。当主の結論を聞かなければ、お受け出来ません。辺境伯領へお向かいください」

 何かを考え込んでいたが、入れ物の蓋をそっと閉じた。強く地面を踏みしめるように馬車に向かい、乗り込んで去って行った。

 ふうと息を吐いて、気が抜ける。立ち去るまではなんとかもった。よかった。

「ご立派でございました。これで当分来られないでしょう。さあ、中に入りましょう」

 気が緩んでくるっと家の方に回るとそのまま地面に倒れ込んだ。うまく体に力が入らない。

「お嬢様、お嬢様」

 抱き起こしてもらうと中に入って、そのままベットに連れて行かれる。

「初めてのこと、お疲れでした。本日はこのままお休みください。食事もお持ちします。何かあればお呼びください」

 力なく頷く。すぐに着替えさせられて体を起こすともたれかかる。すぐに帰ってくれたからまだよかった。時間が長引けば、あの場でこうなっていたかもしれない。

 だけど、ハンナとの練習の成果が出て追い返せたからよかった。また来るといけないから、練習をしておかないといけない。出来れば二度と来ないで欲しい。


「ランス様」


 思わず口をついて出た言葉が、そばにいなくても支えになっていることを感じた。一緒にいられないのは寂しいけど、私の心にはあなたがいる。



 いつも聞いているランス様の報告とスコル様が近くで見ている様子を聞くのが楽しみとなっていた。薬師ギルドでの学びはある程度終わっているらしく、高ランク薬師との製造法の討論や実験、古代語の薬の作り方を学んでいるそう。おかげで薬師ギルドが賑やかで、毎日のように議論を交わしていると報告があった。あとは一緒になって実験などをしている薬師が1段階品質が上がったので、師弟で参加するようになり大人数になっているそうだ。薬師ギルトとしては高品質になることがお互いの益になるので、場所の提供や薬草の原価売りで対応している。出来ればずっといて欲しいと伝えているそうだ。

 スコル様からは同じようなことを楽しそうにやっていること。武器や防具、細工などの物作りのギルドに興味があるようで、下働きのようなことをしているらしい。たまに遅くなると薬師ギルド職員が迎えに来るぐらいには、薬師ギルドで重要な人物として扱われているそう。

 ランス様らしいといえばそうなのですが、他のギルドへも才を発揮されているのかが心配です。今でも忙しそうにされているのに、一緒にいる時間がなくなるのは嬉しくありません。薬師ギルドでも十分活躍されているのに、たくさんのことを成し遂げられる方かも知れません。ですが、一緒にいる時間をとってもらえなかったら、そのときはいくらランス様でも、とっていただけるように説得しなければなりませんね。

-------------------

読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る