side シャローザ ランスが出発したあと3

 落ち着かない日々が続いている。授業も受けて毎日を過ごしているけど、何かそわそわする。

「何かあったのか?」

 振り向くと真っ黒な狼が。女神の代行であらせられるスコル様だった。

「スコル様。予定よりもお早いのではないですか?」

「ランスが心配しておってな、早めに来たのだ。問題でもあったのか?」

「いえ、何もないのですけど。ランス様が行かれてからその、まだ慣れなくて面影を探してしまうのです。帰ってくるまでずっと、まだかなと思っているかも知れません」

「ふふ、よいよい。魔力を与えておこう。多少これで落ち着くだろう。予定よりは長くならんだろうが、新たな知識を得られる機会を逃すとも考えられん。胸を焦がすこともあろうが待つしかないじゃろう。自ら心を御することもまた必要なこともあろう。励め」

「ありがとうございます」

 頭を下げて上げるとスコル様の姿はどこにもなく。さすが女神の代行様。どこにいても、どこにでも現れることの出来るといわれている。代行様のお力は絶大で国程度は簡単に滅ぼせる。教会から伝承を話してもらうこともあれば、聖書に書かれている話でもある。信じるかどうか、あまりにも現実味のない話ではあるけど、強い魔物が都市を蹂躙することが、事実としてあるのでおとぎ話としておくのは難しい。本当じゃないのかなと思っている。

 最大の謎はランス様に対して、神様が全ての職とスキルを与え、フェンリル様とスコル様が守るようにしたこと。その辺りのことは神々のことなので、教えてもらえない。話せないと明言されているので、無理に聞いても教えてくれないはずなのよね。いつかは教えてくれるかな?

「お嬢様、お茶はどうされますか?」

「もらうわ」

「なんだか嬉しそうですね」

「先ほど、スコル様がいらっしゃったから。落ち着いたのかも」

「そうだったのですか、気がつきませんでした」

「代行様だから」

 そういうと納得したのか、お茶を用意してくれる。来てもらってから心が落ち着いた。ランス様が心配してくれていると聞いて、安心した。忘れられていない。それが私の心に凄く響いて、幸せな気持ちになった。



 少しずつ慣れては来ているけど、ランス様がいないのが寂しくて家に置いてある使っていたものを手に取って、眺めてランス様の顔を思い浮かべている。

「お嬢様、ランス様の白粉を手に入れてきましたよ。優先的に販売してくれるそうです」

「よかったわ。だいぶ少なくってきていたから助かる」

 容器は木でランス様の特製容器ではなかったけど、ハンナは中身を移し替えてくれていた。

「元々の容器の方が長持ちするのではないかと薬師ギルドの方がおっしゃっておりました。白粉はこっちの街でも人気だそうです。薬師ギルドでなら作れると。女性の騎士を行かせましたが、日焼け止めと白粉を両方使ってみるそうですよ。ランス様は皆のことを考えられていて、素晴らしいですね」

「ランス様は毒のある白粉をやめて欲しいから開発をされたので、手に入りやすくして、やめやすいようにされたのではないかしら?」

「元々準備を進めていたのに、本部から材料が届かなくて困っているそうですよ。王都でも販売解禁で、爆発的な売れ行きを記録しています。薬師ギルドは大忙しで人手が足りなくなっているとか。薬師ギルド総本部にランス様がいらっしゃるので、商業ギルドもランス様の容器を各国に届けやすくなっていて、ですが間に合っていないそうです。容器を届けてからの販売開始らしいです」

「ランス様、無理をされていないといいのですけど。夢中になられると寝食を忘れると薬師ギルドの方がいっていたので、心配です」

「無理をしたあとは休ませるようにしているとギルドの方々がおっしゃっておりましたので、総本部でも同じようにされてらっしゃるのではないでしょうか」

 思いをはせていると中身がいっぱいになった白粉を渡されて、手の中で大切に持っている。落としたら壊れそうで、少し力が入る。壊れたらランス様とのつながりが壊れてしまいそうで、ハンナに預けていつもの場所に戻してもらった。

「これで生活の心配はしなくて良さそうですね。評判がどうなのか気になるところですが。今のところ古い白粉よりも白さは劣りますが、体の負担のことを考えるとランス様の白粉はとてもよいものです。日常で使う分には本当によいものです」

「いいのはわかっているわ。ランス様は私が古い白粉を使うのをやめさせるために作り出したんだから。人気になったのなら模倣品も出てくるでしょうね」

「商業ギルドが取り締まるでしょうから、大丈夫でしょう。独自商品をきちんと開発して、販売生産を任せたのですから対応は確実にしてくれるはずです。しないなら任せる必要は一切ありません」

「それなら、安心ね。ランス様は想像も出来ないことをやってのける。本当に凄い人」

 ハンナも同意して、2人で笑い合う。凄い人に助けられた。違うかな。凄い人だから助けてもらえたんだ。出会いがなければ、ここにはいない。ランス様。私は何かお返し出来ているのでしょうか?

 忙しくしているであろうランス様のそばにいられたら、少しはお役にも立てられたかも知れなかった。一緒に行けなかったのは、本当に悔やまれる。



 ランス様が何をしているのかを聞くのが待ち遠しい。薬師ギルドでいつもどうしているかを聞いてきてくれるのだけど、本人からの連絡はなく寂しさを感じる。伝言でもいいから私宛てに言葉をくれないのかな?

 そう考えると帰ってくるまで、気持ちが持ちそうに思えない。深呼吸をして落ち着こうとする。

 窓際の日向が気持ちよく、そよぐ風が気持ちを落ち着ける。

「様子見を頼まれたが、ふむ、元気にしているようじゃな」

「スコル様、ランス様はお元気ですか?」

「何やら張り切りすぎて体調を崩していたが、すぐに治った。心配するには及ばん。ランスから勉強が忙しいよ、一緒に出来なくて残念。そういっておった。何か伝えることはあるか?」

「元気にしていますと。少し寂しく思っております。あの、手紙をくださいと」

「わかった、伝えておこう」

 体にあたたかい何かが流れ込んでくる。それで満たされると落ち着いて、ちょっとの間だけ光る。ランス様の魔力で満たされる。

「貴様のことを気にかけているようじゃ。変わった様子はないな。では、次の時に」

 そう言い残すとスコル様は目の前から消えた。それにしても神々の代行がつくなんて、記録にあるのかな?ランス様みたいに他の人へ知られないように、制約で縛っていたのなら記録に残せないからないのかしら。聖人様や聖女様以上の存在のはずなのに、こんなところにいていいの?すでに特別な存在として活躍はされているけど。でも、そばにいてくれるのならランス様がどんな存在であってもいいわ。それがたとえ魔王であっても。



「シャローザ様、ランス様からの手紙が届いております」

「え?手紙」

「はい。冒険者ギルド経由で薬師ギルドに預けられていたそうです。ランス様の近況を聞きにいった騎士から、そう聞いております。近況は変わらず忙しくされているそうです。販売を開始した国からさらに注文が舞い込んでいて、勉強に製作に忙しくされておられるそうです」

 それを聞きながら体調のことを心配してしまう。倒れたり、寝込んだりしていなければいいけど。

 渡された手紙を手に取ると中身を取り出して広げる。

『シャローザへ

 こちらは元気にやってるよ。行くのが遅くなりそうだったから、馬を買った。天馬種で名前はフウイっていうんだ。帰ったら紹介するね。こっちに来てからは・・・・・・

 近況報告で聞いていたとおりで、午前が薬師ギルドでの勉強を行い、午後から商業ギルドに行って追加で容器の製作を行っているようね。容器の製作初日が1番多く作って、疲れたと書かれてあったわ。無理しておかしいことになっていないといいけど。薬師ギルドは応援がやってくるから、もう少ししたら落ち着くかもって、応援が来たらランス様は忙しくなるのではないのですか?どう思っていてもここからでは届かない。

「ハンナ、ランス様に手紙を書きます。用意を」


 近況や寂しく思っていることを書いて、蝋封をする。

「書いたのはいいけど、どうやって送ればいいのかしら?」

「そうですね、1番使われているのは冒険者ギルドにどこの国のどこの方へ送りますと依頼を出す形ですね。きちんと住んでいれば、届くようにはなっています。住所不定の冒険者は、ギルドによったときに渡します。ランス様の場合はどちらでも届くでしょう。いる場所が確実にわかっているのですから」

「そうなのね。だったら冒険者ギルドに行ってみようかしら?」

「遠いのでおすすめ出来ません。泊まりがけになってしまいますので、行くのでしたら予定を立ててからでないと、騎士達の泊まる場所やシャローザ様の宿泊場所も確保しませんと。あの町はいい宿がないと伺っておりますし、出来れば出すのは任せていただきたいです」

 ハンナが珍しく困った顔をするので、手紙を出すのを任せることにした。早く帰ってくれると嬉しいな。遊びで行っているはずじゃないから無理は言えないけど。

 今でも出る先は制限されている。安全のためといわれている。村には行かない。あとは森には入らない。家の周辺なら自由に歩いていいと言われている。外を自由に歩けるだけで、大きなことだった。車椅子に座って、ハンナに押してもらわないと絶対に外にすら行けなかった。

 自由に扉を開けて歩けるのは、閉じ込められていないことだと感じられて嬉しい。家の前に広がる、丈の短い草を踏みしめて歩き回る。そんなに遠くに行くつもりもないけど、弱っていて歩くのも大変だったから普段から歩くようにしている。ランス様と王都観光を自分の足で出来るように。

 でも、ランス様の背中に背負われるのも。何かあったときにはやってくれるでしょうけど、何でもないときにしてもらうのは悪いのかしら。王都で背負って降りてくれたときは、頼もしくてかっこよかった。背中にいるときは疲れてそれどころじゃなかったけど、同じ年なのに凄いなって。

 歩いた先で家を見ると木で作られた、丈夫そうなランス様の家と即席で作った石の建造物が並んでいる。あれを一瞬で作れることに騎士達は驚愕していた。私も驚いていたけど、ランス様なら何でも出来ると思い始めている。

 足手まといにならないようにしないとね。そのためにも勉強を頑張らないと。ランス様に必要とされるように頑張らなくちゃ。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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