フィーレ王国へ3

 戻ると中から飛び降りる。

「買えないかな?」

「いくらですか?ランス君が馬に気に入られているのはわかりました。勇者用に持ってきたが、乗れなくて払い下げたと聞いています。費用は王家から出ているのですよね?」

 店主の人は唸っている。

「払い下げとはいえ、うちは嫌だったのですよ。ケガをしていて気は立っていて、従業員も近づかないように指示していたのです。それを冒険者ギルドからの依頼で来た子が治して、世話もしていったと。その子にただでもいいから引き取ってほしかったのですが。やっと会えました。これで心置きなく引き渡せます。お代は結構です」

「お金は払うよ。馬具とか、お世話する道具とかいる。足りるかな?」

 リクッターさんは頷いて、馬具やら桶とか色々用意してもらって。つけるのに台がいるってことになったけど、それは馬屋にないので商業ギルドで用意してくれることになった。馬具は何がいいのかわからないので、丈夫なのっていって用意してもらった馬具にした。


 馬具もつけてもらって、支払いも終わって、乗せてもらう。

「名前をつけてあげてください。賢いのできちんと理解するでしょう」

「名前か、何がいいかな?フウイ、なんとなく浮かんできた。フウイ、よろしくね」

 軽く頭を振って返事をした。それから商業ギルドに帰って、台を買うとシーラさんが慌てた様子で出てきた。

「て、天馬種を買ったって本当かい?」

「うん。乗せてくれたから。馬屋の人もいいって」

「はあ?試しもなしに乗せるなんて。どういう天馬種なんだい?天馬種に乗った人間なんて聞いたことがないよ」

「え?でも、乗せてくれたし」

 表に出るとフウイの周りに人だかりが出来ていた。僕が出てくるのを見ると近づいてくる。頭を下げてくるので、なでると気持ちよさそうにしている。

「確かに懐いているね。何もなくて乗れるのなら反対もしようがないねえ。買うんならしっかり面倒見るんだよ。人の街での過ごし方は教えておきな。暴れて捕まるのはランスなんだからね」

「あ、そうか。賢い子だっていってたから大丈夫だと思うけど」

「それでも教えないと入門禁止とかにされかねない。冒険者ギルドで聞いてみるんだよ」

「わかった。行ってみる」

 馬車の荷台を借りて乗る。大きいから視線が高い。とにかく冒険者ギルドに行ってみる。入り口の近くで待っててもらう。

「馬を買ってきたんだけど、教えることってある?」

「何?どんな馬だ?どこにいる?」

「入り口」

「説明してやるから一緒に来い」

 レスタと一緒に入り口まで来ると固まって動かなくなった。

「名前はフウイだよ。この人が教えてくれるって」

 話を聞いているのか聞いていないのか、ちょっとわからないけど。

「それでどうしたらいいの?」

「お、おう。こっちだ」

 ギルドの角を曲がるとその先に馬房が並んでいる。

「ここに繋いでギルドに入ってくるように。他のギルドにもあると思うから、そこそこで聞いておけ。馬房にはギルドの馬もいる。馬がいる支部は、そのまま預かって世話をしてくれる。ちゃんと世話してくれる人に言ってから預けるんだぞ。ちょっとした用事で、クエスト探しに来たとか話があってとか泊まらないときは繋いでおくだけでいい。あとはそうだな、馬が暴れて人をケガさせたり、ものを壊したりしたら、ランスの責任になる。だいたい、お金を払って和解ってことになることが多い」

「襲われたりしてフウイが反撃したら?」

「その時は大丈夫だが、多少人に触られるぐらいは許すようにしておいた方がいい。特にお貴族様には気をつけろ。売れとか乗せろとか言われるかもしれん。その時はどうするか」

 反撃はいいけど、勝手に触られても許せってこと?僕だったら勝手に触られてたら嫌だけどな。

「レスタがこっちに来るの珍しいな。お、新しい魔馬持ちが来たのか。うん?その魔馬、まさか、本物か?」

「本物かどうかわからんから連れてきた。見たことないからな。それに初めての魔馬だ。リントンの方が詳しいだろうからよろしく頼む。噂のランスだからきちんと教えておいてくれ」

 馬の世話をしている人はリントンと呼ばれた。レスタは帰って行った。

「馬を買うのは初めてなのか?」

「うん、初めて。乗り方は普通の馬で教えてもらったことはあるよ」

「餌をやったり、寝床を変えてやったり、体を洗ってやったりしたことはあるか?」

「寝わらを変えたことはあるよ。ギルドの依頼にあった。餌や体を洗ったことはないね」

 まずは馬を馬房に入れておこうということになって、馬房に入れて柵をして、手綱をはずそうとして手が届かない。台を出してから外してやる。

「よし、いいぞ。ここに預けるときはこういう状態で馬房に入れておくんだぞ。その辺に繋いでおかない。馬を預かってほしいときは、レスタにいうか俺に言ってくれ。そのままにしておくと、世話をしていいかわからないからな。世話は寝わらの交換をしてやるぐらいか。出来れば下の掃除もしてやるといいぞ」

 頷いて聞いている。

「食べるものだが、草を食べる動物だから肉は食べない。草、うちは干し草なんかが保存出来るからいい。野菜なんかもいいが、キャベツやタマネギなんかはダメだ。大根なんかもやらないほうがいい。ジャガイモもダメだな。馬が腹いたを起こす原因になるからな。多少ならいいかもしれんが、やらないほうが馬のためだ。やっていいなら、果物かにんじん、メロン、かぼちゃ、セロリなんかはご褒美にやるといい。普通は草だな。その辺の草だと危ないのもあるが、賢いなら食べていい草といけない草を教えておけば覚えるはずだ。普通の馬なら餌は管理してやるほうがいいがな」

「果物はだいたいいけるってこと?」

「だいたいいける。次は体を洗ってやる。ここから出してやるのに、手綱をつけてやって、腹に着いているのは外してやる」

 手綱をつけて、柵を外すと別の場所に連れてくる。繋ぐところがあるだけだ。

「ここで繋いでやる。それで耳や顔にかからないように水をかけてやる。耳や顔は最後にする」

「魔法でもいいの?」

「生活魔法ならいいんじゃないか?普通の魔法はダメだ」

 水をじゃばっと体全体にかける。

「ほう、これは便利だな。あとはブラシで体をこすってやる」

 台とブラシを出して、2人でゴシゴシと洗っていく。体が大きいので大変だ。

「終わったら水で流して終わりだ。今日は暖かいが、出来れば布なんかで拭いてやるといい。風邪を引くことがあるからな」

「へー」

 体を震わせてから、びゅうと風魔法を使い自分で乾かし始める。

「フウイ、待って」

 風魔法がとまる。温かい風をながして早く乾かすようにする。熱すぎないようにね。

「あと教えることとは町中では人に近づかないようにすることだな。だいたいのヤツは魔馬に近づかないんだが、乗ってるヤツがいるとそいつの責任になる。難しいところなんだが、いないところで暴れたときは暴れさせたヤツの責任になる。貴族とかは面倒だが、勝手に触って蹴られて怒ってきても暴れさせたヤツの責任なんだが、教育がなってないとか言い始めるときがあるんだ。ギルド内とかなら、暴れさせたヤツが悪いでいいんだが、宿とかであずけていると貴族に丸め込まれたりするからな。1番は馬を預けられるギルドで預かってもらうことだな。多少金はかかるが、面倒ごとが少なくていい」

「難しいんだね」

「いやいや、面倒じゃない。貴族が絡むと困るってだけだ。それ以外は自分がいるかいないかで決まる。それぐらいだ」

「そうなの?」

「そうだ。貴族はわけわかんねえことをいってくるからな」

 ぶるっと啼いたので見ると乾いたようだ。

「教えてくれてありがとう。薬師ギルドにいってくる」

「ちょっと待て、馬具をつけろよ」

 鞍の付け方を教えてもらい、馬に乗せてもらって出て行く。薬師ギルドのお姉さんに馬置き場を教えてもらってから、フウイを置いてくる。

「ファーレってどうやって行くの?」

「ランス君、飛竜の予約がね」

「天馬なら行けるでしょ?行き方を教えてよ」

「ちょっっと待って。ちょっと待って。え、もしかして、馬って。天馬を買ってきたの?」

「うん」

 お姉さんの叫び声が比較的静かな薬師ギルドに響く。周りの職員の人が何事かと集まってくる。

「どうしたんだ?」

「何事?」

「何かされた、わけじゃなさそう」

「何があったんだ?」

 囲まれたお姉さんは困り顔だ。

「ランス君が、天馬を手に入れたからファーレ王国の行き方を教えてと」

「はあ、そりゃすごい。乗ってる人を他に知らない」

「他の国でも乗ってる人は聞いたことがない」

「ギルド長に相談だな。それから地図の用意だ。ギルド長に時間を作ってもらうように誰か行ってくれ。本部長にも話をしておかないと行けないな。そっちに行ってくる」

 動く人以外はどこかへ行ってしまう。騒ぎになっている薬師ギルド。どうしようかな?とにかく待っていよう。


「ランス君、ギルド長が呼んでいるから一緒に来て」

 呼びに来たお姉さんについていって、ギルド長室に案内された。机には地図が広げられている。この大陸の地図っぽい。机を挟んで座る。

「出来れば飛竜を待って行って欲しいが、行く手段を用意したのなら止めることもない。行くことはこちらから頼んだことだ、道中はどんなことが起こるかわからない。飛竜なら泊まる街や経路も全部こちら任せでいいが、自分で街を探してどうにかしないといけない。それはわかるね?」

「うん、それと街に薬師ギルドがあったら宿を頼んだら紹介してくれるかな?」

「そのくらいはやってくれる。こちらからも経路沿いの街にはお願いを出しておこう。入出国に関しては、冒険者ギルドと商業ギルドにも協力してもらって、各国に通行許可、ファーレ王国には滞在許可をもらっている。薬師ギルドカードでわかるはずだ。新しい街に入るときには薬師ギルドのカードをだすんだ、いいね?」

「わかった。薬師のギルドカードね」

「それじゃあ、経路を説明しておこう」

 地図で説明をしてもらって、だいたい北東の向きにあって、大陸のほぼ中央にある。大陸の中央付近だから生産系の総本部ギルドが集中しているらしい。今日は1泊して、明日出発することになった。薬師ギルドでフウイは預かってくれるそうなのでお願いした。準備をしっかりしないと。


 フウイに乗っていざ出発。視線がドンドン高くなって、だけど地面を走っているように感じていた。下を見るとかなり高い。誰も見えないし、風が気持ちいい。たぶん北東の方向へ進んでいるはずだ。時間もかかるだろうから、休み休み進んでいこう。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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