シャローザとの生活4

 帰ってくると家の前にシャローザが立っている。どうしたのかな?

「ランス様、どこに行っていたのですか?探したのにどこにもいなくて、探しにも行けませんでしたし。心配したんですよ、もう行ってしまったのかと思いましたし、やっぱり捨てられたのかと」

 不安が強くなっているのだろう、うっすらと黒いもやが体の周りを覆っている。

「捨てるわけないっていつも言ってるだろう。取り込んでいるようだったから、薬草でも採りに行こうと思ってね」

「一声かけてくださいと」

「遠くに行くわけじゃないから」

「それでも、行くのなら教えてくれてもいいじゃないですか」

 ふらっと森に行くとシャローザはいつも怒る。慣れたけど。

「ごめん」

 怒ったままのシャローザの頭をなでる。本気で怒っているわけではないが、行き先を伝えてから出てほしいとのこと。いいかなって思ったんだよね。ハンナさんと持っていく物を選びに行ったから。

「遅くならないように帰るから大丈夫だと思ったんだ」

「出かけるときは行ってきますぐらい言ってください。黙っていなくなられたら、実家にいるのと変わらなくなるので凄く嫌いなのです。イヤなんです。誰も避けて近づかなくなって、理由はわかっていましたけど。ハンナも専属だからいてくれただけで、本当に唯一私のそばに来てくれたのはランス様だけだったのです。お願いですから、お願いします。黙って私の前から消えないでください」

 気持ちに反応して、黒いもやが周囲にあふれ出す。

「うん、次からはちゃんと伝えてから出かける」

 言葉を伝えたときには涙があふれ出ていた。凄く寂しかったんだ。誰も一緒にいてくれないのは、いなくなるのはとても寂しい。

 そっと頭をなでる。飛び込んでくるシャローザを受け止めて、泣き止むまで頭をなで続けた。


「すみません、みっともない姿を見せてしまいました」

「僕もごめんね。ちゃんと行くときには声をかけていくよ」

「ホントに、お願いします」

 連れて中に入ると夕食準備が始まっていた。それぞれ手伝いを言い渡されて、みんなで夕食を作る。干し肉だけじゃなくて、燻製やソーセージなどの加工された食ベ物もあるので、美味しく食べられる。

 肉を焼いて食べるだけじゃあないんだね。加工法は騎士団の人に教わったり、料理はハンナさんに教えてもらったりして、シャローザとの生活を充実させるための技術を教えてもらっている。野菜も塩漬けしたりとかの保存法を教えてもらえた。あとはパンの作り方。作り方はだいたいよかったみたいだけど、焼き方が違っているのでそこを重点的に教えてもらった。火の加減が大切なんだって。パン屋でも焦がすことはあるらしいから、失敗してもおかしくないって。

 みんなで食べる食事はおいしい。温かくて、体がぽかぽかする。


 お出かけの時はちゃんと行き先を告げて、日々を過ごせていた。

 沈んだシャローザが黒もやを出している。

「どうしたの」

「お父様の返事が来たのですが。貴族の子が関係性のない国に行くことは許されないと」

「そうなの?貴族って面倒だね。確かにシャローザは直接関係性はないか。でも婚約者と行くならいいんじゃないの?」

「3ヶ月ぐらいならすぐだから我慢するようにと」

 黒もやの抑え方を知っているのだろうか?そばにいないと困ることになるのは知っているはずだよね。

「そばにいないと魔力を供給出来ないのに、許可が出せないの?」

「それについても、国に許可を取らないと行くことは出来ないとのことです。半年ぐらいはかかるだろうとのことですので、時間がかかってしまいます。今回は留守番をしておきます」

「許可を取るようにしてもいいんだよ?時間はかかってもいいんだからね」

「お父様の手紙には細工ギルドからの陳情があって、ランス様が早急に向かっていただきたい旨が記されていました」

 細工ギルド、なりふり構っていないな。薬師ギルドや商業ギルドにもお願いしているようだったしね。それだけ今の状態が困っているのかもね。

「じゃあ、辺境伯が早く行けるように国に働きかければいいよね?」

「それはそうなのですけど、手紙の往復にも時間がかかり、ギルドからの陳情が非常に多く、またいろいろな貴族達が早く和解をしてもらいたいとお願いされている状態でして、私のせいで遅れたとなるとお父様の立場も悪くなるようなのです」

「だったら辺境伯が国に直接交渉しに行けばいいんじゃないの?お兄さんがいたよね?」

「そうなのですが、出来るだけランス様には早急に向かっていただきたいのです。行きたいのですけど、どうしても多くの時間がかかってしまいます。細工ギルドの販売や加工が滞っていて、辺境伯領の産業にも響いてきているのです。ですから、お願いします。私は領地ではお荷物でした。迷惑しかかけてこられなかったので、せめて足手まといになりたくないのです。ランス様、私にはどうすることも出来ません。願うことしか、できません」

 服をぎゅっと握って、悲しそうにもやが出ている。思い詰めたようにどこかを見ていた。

 ペシッと両頬を挟み込んで目を合わせる。

「わかったよ、行くからそんな顔しないの」

「む。私だって一緒に行きたいですけど、生活が出来ないくらいになっていると聞かされては、ランス様にお願いすることしか出来ません」

「わかったよ。なるべく早くいって帰ってくるよ」

「すいません」

 頭をなでなで。抱きしめられると抱きしめ返す。シャローザを置いて行くことになってしまった。

「早く帰ってきてください」

「研修だからそんなに時間はかからないよ」

「3ヶ月は長いですね」

 そうだねと抱きしめる腕に力が入った。ずっと一緒にいられるのに、邪魔される。ギルドも婚約したことは知っているのに。急げって。生活自体は落ちついていたけど、それでも一緒にいたほうがいい。気分や感情で命が変わっていくのを見続けているんだから。

「何かあったら、ギルドに連絡してくれれば伝わるはずだよ。すぐにでも帰ってくる。なにがなんでも帰ってくる。お留守番よろしく」

「はい。任せてください」

 シャローザは抱きしめたまま離そうとしない。


 夕食を済ませて、明日の出発準備の確認だけはしておく。忘れそうな物はない。あとは布団をもっていくぐらいかな。残りは家においておけばいい。シャローザと結婚するために揃えたものをもっていくのもおかしなことだしね。準備は万端。弓矢は日頃から準備が済んでいる。用意するまでもない。

「ランス様、今日は一緒にいてもよろしいでしょうか?」

「ハンナさんはいいって言った?」

「なんとか説得しました。時間はかかりましたけど」

「なら、おいでよ」

 ここに来たときは一緒に寝ていたベットの上に2人で座る。

「ここに来られて幸せです。ランス様、救っていただいてありがとうございます」

「救うなんて大げさだよ。やりたいようにやったら、話が進んでシャローザと結婚することになった。それだけだよ」

「それだけなんて、このような希有な力を使ってもらえるなんてこと、あり得ないと思っています。そんな奇跡が起きたことを感謝しています。そうでなかったら、ずっとあの塔の中で暗闇に落ちているだけの生活だったはずです。こんなに自由に出歩いたり、普通に人と接したり、誰でも出来るようなことができるようになったことが嬉しいのです」

「やりたいことをやればいいんだよ」

 ふふふと聞こえたと思ったらベットに押し倒された。髪が顔にかかってくすぐったい。

「そういっていただけるのでしたら、ランス様。ちゃんと寝てください」

「押し倒したのはシャローザだと思うんだけど」

 ちゃんと寝られるように体を移動する。その上からシャローザが乗ってくる。

「ランス様の上で、ランス様を感じながら寝てみたかったのです」

 胸の辺りに顔をうずめてうまく布団をかぶっている。

「シャローザ?」

 呼吸の上下に合わせて、シャローザも上下している。

 返事がなく、静かな寝息が聞こえてくる。寝るのが早い。もう寝たの?え?身じろぎひとつせずに眠っている。寝てしまったのならしかたないか、僕も寝てしまおう。


 朝食はいつもより見た目が悪いというか、そこまで悪いってこともないけど、違っていた。

「今日は私が作りました」

「そうなんだ。いただくね」

 味はいつも通り。

「美味しいよ」

「本当ですか?」

「うん」

 嬉しそうにしているシャローザに、一緒に食べようと声をかけて朝の時間を一緒に過ごす。お弁当もあるそうでマジックバックに入れておく。


 準備が整ったので出発だ。シャローザがシュンとしているので頭をなでる。

「行ってきます。なるべく早く帰れるようにするね」

「はい、お待ちしております。道中お気をつけてください。元気に帰ってきてください」

「うん、気をつけていってくるよ。寂しくても泣かないんだよ?」

「はい」

 今にも泣きそうにしているのに。

「それじゃあ行ってきます」

 手を振って、家を出発する。村の入り口で振り返るとまだシャローザがいたので大きく手を振って村の中へ。雑貨屋でギルドに呼ばれてしばらくいないことを伝えてから、領主街へと進んでいく。騎士達が通るからか、道がよくなっている気がする。ボコボコだったのにだいぶ馴らされている。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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