シャローザとの生活1

「シャローザ、それ以上はダメだよ。戻ってきて」

「はーい」

 見える範囲なんだけど、森の中に入らずに森沿いを歩いているので戻ってきてもらう。あんまり遠くだと魔法も間に合わないかもしれないし、ずっと見ているわけにも行かないからね。

「何もなくて、つまらなくなった?」

「そんなことはありませんが、今度は何もないときに連れてきてもらいます。相手をしてもらわないと楽しくありませんから」

「どうしても時間のかかる作業だから退屈だよね」

「今はこうしているのがいいので、構いませんよ」

 隣に来て体をよせて腕を組んでいる。満足げに一緒にいる。そうしたいならいいけどね。


 疲れて来たのであぐらをかいて座ると一緒になって、あぐらの上に頭を乗せてくる。

「汚れるよ?」

「あとでキレイにしてください。ランス様と一緒にいると、安心して眠たくなってしまうのです。責任取ってください」

「頑張って起きなよ」

「時間がかかるのでしたら、よろしいではないですか」

 ズボンを握りしめるとスウスウと静かな寝息が聞こえてくる。寝てしまうのが早すぎる。彼女の寝顔を見ながら、そんなに眠くなるものなのかなとも思う。心地よさそうに目をつぶる。

 自然の風が心地よく吹いて気持ちよくなる。作業は単調だけどしっかりと乾燥しないとあとで困ることになる。薪は火がつきやすい方がいいからね。木とシャローザの寝顔を交互に見ながら時間はすぎていった。


 乾燥するまで寝返りぐらいで全く起きなかった。いてくれるのは嬉しくて、寝ているのを眺めるのもよかった。だけど、乾燥が終わったら戻らないと。

「シャローザ、乾燥が終わったから帰ろう?」

「もう、少し」

「行くよ。乾燥は終わったんだからね」

「みぁい。ふぁあ。終わったの?」

 寝ぼけた目をこすりながら見上げてくる。まずは背負って橋の向こうへ連れて行こう。背中を向けるとよじ登ってくる。川向こうではハンナさんが待っていたので、渡って降ろすときに抵抗したけど、ハンナさんに窘められていた。

 いったん別れて、騎士の人達に2本渡して、もう1本は家の横で使いやすそうな大きさに切って、家の中の薪置き場に積んで置いた。多かったな。まとめていくつかやっておくのもいいかもしれないけど、マジックバックから取り出さないと不自然だから、空間倉庫の自由に使える年齢にならないと、大事になってしまいそう。不便なんだよね。

 机にうなだれたシャローザが突っ伏していた。だいぶお説教をされたのかもしれない。ハンナさんは食事の準備をしている。スープの種類やパンが柔らかくなったりして、作れるって凄いなって思っている。

 パンは日々作り方を習いながら、うまく作れるようにするつもりだ。自分でやっていたときから失敗続きなので、うまく作りたい思いが強い。他のスープやお肉の加工など料理のことをシャローザと一緒に学んでいる最中だ。


 次の日には扉や窓の取り付けが終わって、シャローザとは別の部屋で寝られるようになった。布団は新しいベットがきたら僕の元に戻ってくる予定だ。シャローザが一緒に寝たいとだだをこねているのをダメですと言い切られて、こちらを見られても困るんだけど。たまにはこっちに来てもいいけど、それは言えないかな。祝福を受けるまで、一緒にすごすしね。寝るときだけ別なだけ。

「では、本日よりお勉強を再開します」

 並んで一緒に座っているけど、何で?グリじいから十分な教育はされているんだけど。それよりも狩りに行ったほうがいいんじゃないのかな?

 始まると計算とかこの国や他の国の言葉。あとはこの国の歴史や貴族のことを教えられる。後半がよくわからなくて、ついていけなかった。歴史はあんまり興味がなかったけど、貴族の階級や国の役職なんかはちょっとだけ勉強しようと思った。ハンナさんに最初の方から早足で教えてもらう。誰が偉いのかぐらいは、覚えておいていいからね。

「どうして計算や言葉がわかるのですか?ずるいです」

「覚えないと勉強出来なかったからね」

「勉強するために勉強するのですか?」

「そうだよ。ある程度集中してやったら、他の薬学、魔法学、錬金術、古代語とかもやったね。これらを並行して学んでいく感じだよ。薬草の計算をするのにいるから、他にも計算はいるから出来ないとね。たくさん教えてもらったけど、この分野はこの言葉の本がいいとかもあるから覚えないとヌケヌケの知識になっちゃう。使うだけなら、適当な本でもいいんだろうけど」

 復習もいいけど、わかっているところは自由にさせてもらいたい。

「ランス様が高度な知識をお持ちなのはわかりました。では、1日ごとにお嬢様と受けるように貴族の勉強と歴史の勉強を行います。お嬢様はランス様がいないときは、そのほかのお勉強をいたしましょう。専門の先生ももう少ししたら派遣されるとのことですので、それまでは私が初学を教えましょう」

「ランス様は免除なの?一緒に勉強出来ると思ったのに」

「差がありますし、テストも別のモノをやっていただきましたが、すでに他の分野は卒業以上の知識量でした。お嬢様も卒業出来るぐらい勉学が出来るのでしたらやらなくても結構ですよ」

「そんな。ランス様はいつも先にいるのですね。置いて行かれて寂しいです」

 こちらをじっと見られて困る。テーブルを囲んで3人で勉強をしている。

「追いつけばいいんだよ。必死にやらないと教えてもらえることについていけなかったしね。最初はわからなかった」

「ランス様でもですか?」

「教えてもらえることについていくことが出来なくて、それでもわかるまで教えてもらった。僕は平民だし、お金も教えてもらえる人もいなかった。教えてもらえるから必死に覚えたよ。何も知らなかったら、何も出来ないからね。魔法も武術も身を守るため。知識は生きていくために。何も出来なかったから出来るようになりたくて、頑張っただけだよ。助けてくれる人なんて、この村にはいないから自分がやるしかない」

「わかりました、それでしたら私が助けになれるように励みます。貴方がいてくれるなら頑張れる」

 何にも出来なくて、どうにかしたくて。それであがいて必死になって。教えを請うた。

 お腹が空いて苦しまないように。お腹を満たすために手伝って、暴力を振るわれないように。だから、頑張って、必死にやった。死にながら、耐えて、吸収したんだ。

「学校を卒業したほうがいいんだろうね。祝福をもらったら、薬師ギルドの総本部に行こうと思っているから、ちょっとの間離ればなれだね」

「一緒に通ってはくれないのですか?」

「通ってもいいけど、意味がないんだよね。教えてもらえなかった生産系の技術も習ってみたいし、自分で何かするときに協力してもらえるギルドがあるのがいいからね。だからどうしても学びに行く必要があるんだ」

「一緒に連れて行ってくれないのですか?」

 そんな、見つめられても困るんだけど。

「向こうの学校に入るなら、一緒に暮らせるんじゃないの?どうなるかわからないけどさ。やりたいことはあるから、あっちに行ったら最低でも何年かはいるだろうね」

「行った先へ入学すればいいのですよ。確かにその通りです。国外への逃避行」

「逃げるわけじゃないから逃避行じゃないよ。何言ってるの?」

「ランス様と2人」

 あへへへとよくわからない声を出して、ブツブツしゃべっている。そっとしておくしかないかな。声も聞こえてないみたいだし。

-------------------

読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る