村への帰り道4

「痛かった?」

 抱きしめたのが痛かったのかもしれない。優しく抱きしめたつもりだったけど。

「え、あ、その、どう、どうして抱きしめられていたの?」

「ふらふらしてて、危なそうだったから。落ちたらケガしちゃうかもしれないしね」

「そうなんだ」

「いやだった?」

 顔を振ってビックリしただけと頬を赤くしながら答えた。

「起きられましたか。そういたしましたら、外でお茶にいたしましょう」

 素早く準備をされると机の上に並んだお茶に手を出す。ゆっくり飲んでいるとフンと耳元で聞こえたので振りむくとシャローザの馬がいた。

「水が欲しいのか?」

 もう1度フンと聞こえたので桶と水を出してやる。すぐに水を飲み始めた。馬の水やり担当になってしまっている。

「すっかり馬に好かれて、少し悔しいです」

「あれ?さっきの話し方でよかったのに」

「ですけど、助けていただいて尊敬しているので。どうしても」

「そうなの?無理は言わないけど、あっちの方がいいかなって思うよ」

「2人っきりの時になら」

 ウンウンと頷いて、それでもいいかな。慣れてくれれば、普通に話してくれるとうれしい。

「乗っているだけなのにお尻が痛くて、長い間乗っていられません。ランス様は1日乗っていましたけど、いい方法があるのですか?」

「いい方法なんか思いつかないけど、お尻は痛くなったよ。慣れていくしかないとは思うけど。そんなに乗ったことはないから、よくなる方法があれば教えて欲しいぐらいだよ」

「そうだったのですね。なるべく乗るようにして、慣れていくしかないですね」

 いい乗り方なんかわからないけど、馬に揺られながら高い視点で周りを見るのは楽しいと思うけど。


 馬車に揺られながら外の風景に興味津々のシャローザ。辺境伯邸から王都へ行くときは外を見られないようにされているので、こうして外を眺めながらの馬車の移動は久しぶりで楽しいそうだ。

 魔物も出てこないから今のところ安全に進んでいるね。

「何も出なくて平和だね」

「領軍の騎士達がきちんと街道の巡回をしているからでしょう。定期的に見回りをして、魔物を討伐しているはずです。特に大きい街道は巡回の頻度を高くしていることが多いですから、突然来るような魔物でなければ出会いにくいともいえます」

「それであんまり気配を感じないと思ったよ。普通の人が通るときも恩恵があっていいね」

「貴族はそこまで頻繁に通るわけではないですから、どちらかというと庶民の方向けにしているはずです。なるべく安全に通れれば、商売がうまくいって税を落としてくれますから」

 人がたくさん通れば税金が取れる。だから巡回をさせて、人が通りやすくしているのか。安全な方を通りたくなるから人が行き来するんだろうな。

 強くなる前だったら、領主街までも行きたくなったからね。いける気もしてなかった。魔物に食べられるか、野生の動物に食べられるか、どっちかになっていたはず。祝福を受けるまでって、スキルがないから大変なんだ。戦闘に向かない職だと、護衛を雇うか身を守る道具、魔道具や武器でも付与のよいものを買ったりするらしい。弓とかは練習すれば使えるし、簡単な護身術を身につける人もいる。スキルが出るとは限らないけど、あるとないとでは生き残る人に雲泥の差が出来るんだって聞いた。

 なので騎士に守られている状態は祝福をもらっていない人にはとてもいいことではある。物々しいけどね。


「こうしていられるのもランス様のおかげです」

「急にどうしたの?森の間は風景があんまり変わらないからね」

「外の風景に飽きたから話しかけたのではありません。その、本当に感謝しているということを伝えたいのです」

「感謝されるのは嬉しいよ。家族になるのなら、するのは当然だと思う。思うからこそ、なるべく快適にすごして欲しいし、不便はあると思うけど元気に生活出来るようにする。僕からも、本当は来ないんじゃないのかなって思ってて、来てくれてありがとう」

 顔が真っ赤になって耳まで赤くなった。どうしたのかな?

「あぁ、う、笑顔はずるいです」

 わからないけど、目をそらされてしまった。こっちを向いてくれないので、しかたなく外の風景を眺めている。通ったことのある道だから、そんなに目新しさはない。魔物もいるけど、遠くにいるので近づいたら気にするぐらいでいいかな。

 王都では忙しかったような気がするから、何もせずに外を眺めているのはそわそわする。何かしたくなってくる。馬に乗っているときは、何かしたと思わなかった。もちろん馬車の操縦を習っているときも何かしている状態になるのかな。馬車に乗っているだけでは暇なのだ。

 何かしたいけど、何か出来る状態でもない。なので外を眺めるしかない。


 野宿と街に泊まったりと順調に進んでいく。今日は乗馬の日だ。外の空気を思いっきり感じながら、馬車に合わせて進んでいく。今日は街に入るのでベットで寝られる。

 野宿はシャローザがいるのでしたくはない。出来るだけ街に入って寝たい。野宿の時は騎士の人達が準備や警戒をしてくれるので、何も考えずに寝ているけど。

 街に入って宿の確保とか勝手にやってくれるので、用意された部屋でゆっくりしておく。馬にねぎらいも兼ねて水をご褒美にあげると凄い勢いで飲んでしまう。いらなくなったら飲まなくなるから、飲みたいだけ飲んでくれていいんだけどね。

 旅の消耗品はあらかじめ準備されていたようで、僕のマジックバックから何か出すってこともなかった。街に入るたびに補充はされているようなので、必要だったら出せばいいかな。


「ランス様、少しお話ししませんか?」

「うん、何の話がいいかな?」

「古代の発展した文明が一夜にして滅んだ、お話の続きを聞かせてください」

「どこまで話したかな。神からの警告を代行であるフェンリルが伝えに行くところぐらいだっけ?」

 目を輝かせて返事をするシャローザに、グリじいのところにあった本の内容を伝えるのと実際にやった本人に聞いた話で補足して、話している。文明が発展して、神の力に頼らなくても生きていけるほどの力を持ち、さらにスキルも自在に使いこなしてして、勘違いをしてしまった人間は神に届き、さらには越えたと思ってしまったんだよね。神の警告を無視し神に取って代わるために、神への道を無理矢理開こうとした文明は、神の代行フェンリルによって消えてなくなった。その文明が技術を集約していたのもあって、今では古代の遺跡として残るのみで、使い方などの詳しいことはわからないことが多い。伝承で使い方がわかるものもあるが、直し方等は未だ研究中のままだ。研究を間違えて、1国が滅んだという伝承も残っているので、研究自体も尻込みしている感じらしい。グリじいから聞いた。


 神の道を開くぞってところでハンナさんが寝る時間なので迎えに来た。本当にいいところなんだけどな。珍しくシャローザが食い下がったけど、明日聞きましょうとあっさり連れ去られた。


 シャローザもお昼までは確実に馬に乗れるようになっていて、お尻が痛くなったら馬車に戻ってきている。僕もある程度馬車を操れるようになってきていて、ちゃんと街道沿いに走らせている。

 お尻が痛くなると膝の上で、僕の方に顔を埋めるのはそろそろやめないのかな?凄く安心するからやめたくないらしい。足がしびれるから、あんまり長時間はきついかな。


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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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