村への帰り道2

 休憩になって馬車の馬と一緒に休憩をする。騎士達の馬は体が大きいので、小さく見える子達はこっちといった感じだ。水桶を用意して水を出してやると3頭ともが僕の桶に集まって飲んでいる。御者の人も戸惑う。

「お前達こっちに用意しているぞ」

 夢中になって飲んでいる。用意してもらった水は無視している。

「1つじゃ足りないかな」

「ランス様の水が好きなのですかね?」

「馬に水をやることなんてないから、どうなのかわからないよ」

「でも、一緒に飲んでいるところを見ると好きなのではないですか?美味しそうに飲んでいますから」

 魔法で作り出した水が体に悪いとは聞いたことがないけど、ポーションとかには普通に使っているし、薬師ギルドでも水を魔法で作ったものを使ったりしているから大丈夫だけど。調子が悪くなったら、普通の水を考えよう。


 ブヒンッ


 後ろを振り返ると大きな馬たちが並んでいる。首をかしげつつ見上げると騎士達が止めようとしているが、馬の方が力が強いので引き引き摺られている。みんなも水をもらったり、ブラッシングしてもらっているようだけど。何か欲しいのかな。

「美味しそうに水を飲んでいるので、飲んでみたかったのではないですか。魔馬の方が魔法で作った水が欲しいのかも知れません。たくさん集まってきますね」

 なんか嬉しそうなんだけど、水が欲しいだけなんだろうね。3匹の飲んでいた水がなくなったので、それぞれの桶に補充する。

「大きい子達はこっちに戻ってきて」

 元いた場所に戻るようにいうとついてきた。それぞれの桶に水を出してやると我先にと戻っていって、凄い勢いで水を飲んでいた。そんなに美味しいのかな?たまに飲むこともあるけど、普通だと思うよ。

「水の選り好みをするとは思いませんでした。こういうこともあるのですね」

「僕もこんなに水だけで騒ぎ出すとは思わなかったよ。何がそんなにいいのかな?馬の好みってよくわからないな」

「私もそうですね、魔法で作られた水が好きだとは思ってもみませんでした」

 馬たちに囲まれたりして、驚いたけど水ぐらいでね。休憩を終わらせて馬に乗ると一斉に進み始める。僕はどこにいてもいいので馬車の周りで併走したり、邪魔になりそうなら前か後ろに並んで走る。買った馬はよくいうことを聞いてくれている。


 街について宿泊場所に案内される。馬の世話は宿の人がやってくれる。お尻が痛いな。痛いのにベットも硬いから横を向いて寝ることにした。元々、木の上で寝ていたから十分柔らかいのかな。

 シャローザと同じ部屋だったんだけど、よかったのかな。

「ランス様と一緒にいられるのはうれしいです。夜に一緒にいられるのはより嬉しいですね。お昼しか一緒にいられませんでしたから。これからはいつでも一緒にいられるので安心します」

 ベットに座って、隣で肩を寄せ合っている。

「婚約の決まるのが早かったから、戸惑って流されるままだった気がする。手続きとかそういうことはわからないけど、ちゃんと出来ているなら大丈夫かな」

「ランス様との結婚のための手続きは、ちゃんと調べて、確認もしてもらいましたから全く問題はないはずです。紋章官の方にもどのような手続きが必要か、必要書類、提出から完了までを全て余すことなく教えてもらいましたから、心配いりません」

「あとは祝福を待つばかりかな」

「早く来ればいいのですけど、こればかりは待つしかないです」

 祝福か、そうなると色々忙しくなってくるだろうね。やることもしないといけないこともあるから。斥候系のスキルあげに、生産もレベルをあげないとダメだからね。主にはスキルあげに忙しくなる。シャローザと結婚しているなら一緒に行ってもいいのかな。

「祝福を受けたら忙しくなるんだろうな。それまでに生活魔法が上がるといいな。難しいからね」

「そんなに忙しくなられるのですか?」

「生産系のスキルも上げたいと考えているから、その修行に行こうと思っている。そのときはシャローザもついてきてよね」

「当然ついて行きます。もう離れがたいのに、おいて行かれたら怒りますからね」

 ベットの横で体をよせてきて、なんとなくそのままでいた。

「ランス様には感謝してしきれません。呪いを食い止めるなんてことが、本当に出来るなんて。誰も出来ず、もう二度と人とふれ合うこともかなわず、死んでいくのだと覚悟をしていました。痛みで起きているのか寝ているのかすらわからずに、生かされるだけの時間を過ごしていました。たまに外に出してもらえるのが、唯一の楽しみで希望だったんです。あとは塔の中にずっといるだけで、死んでいくだけだと思って過ごしていました」

 声が震えて、手に温かい何かが落ちる。振り向くと涙が目の端から零れ落ちていた。

「あの黒い魔力が私を蝕んで、痛めつける。どうしたら、楽になれるのか考えていました。楽になれるのなら、いっそのこと殺して欲しいと思っていました。死ぬまでこの痛みが続くのなら、今死んでも変わらないのだと。ずっと、痛めつけられるのなら、引き受けたことを後悔しました。痛みの中で、泣いて叫んで、恨んで後悔して、それでもどうにもならなくて。本当は後悔していました。恨んで憎んで、それも長く続きませんでした。それよりも痛みから逃れる方法だけを考えていました。どうやったら死ねるのか。どうやったら殺してくれるのか。どうやったら楽になれるのか。そんなことばかり考えていただけの、そんな私に手を差し伸べてくれて、楽にしてくださいました。呪いを一時的にでも痛みを感じなくしてもらいました。こんなことがあったらいいなと言うことをランス様が全部叶えてくれて、叶えてくれて、本当にありがとうございます。一緒にいてくれることが、呪い持ちなのに、結婚してくれるって、あ、う、あああ」

 そのあとは言葉になっていなかった。泣きじゃくる彼女を抱き寄せて、そっと肩を叩く。

「耐えて耐えて頑張ったから、いいことがあったんだよ。努力して、頑張って、それでいいことがあるってこと。報われたならよかったね」

 よけいにひどくなって、膝の上で泣いている。背中をさすりながら、落ち着くのを待とう。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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