村への帰り道1
夕食でお世話になったことのお礼をきちんと述べて、問題になっているギザギザクリスタルをマジックバックから取り出した。
「お世話になって、お礼出来る何かがないからこれを献上するっていうのなら、問題にならないかな?大丈夫かな?」
「こ、これが、こんな透明度の高いクリスタルに恐ろしいほど精密で規則的に。美しい。これは家宝にしなければ」
「普通に売ってる物だから、そのうち手に入るようになるよ。これでお礼がいいのかわからないけど、これで」
「これほどの逸品をもらえるとは思わなかった。こちらもエロイーズとよく鍛錬していたのだから、よかったというものだ」
エロイーズのお父さんからの言葉。エロイーズもお母さんもクリスタルに釘付けだった。
「これほどとは。手に入れたくなるのもうなずけます」
「細工ギルドが止めている理由もあの美しさを見れば、他が下に見られてもおかしくないわね。賠償金覚悟で止めておく理由が理解できたわ。まずこれほど透明度の高いクリスタルはないもの。遺跡で見つかる程度で、とても貴重な品でそれを加工するなんて。考えただけで恐ろしい」
「しかし、いつまでも止めておくことも出来ないでしょう。高位貴族が目の色を変えて、入手合戦をすでに開始しているというのに。うちがもらったとなると、大丈夫でしょうか?」
「お礼が欲しくて泊めたわけではないのよ?いただいたのだから、よこせと言われても渡すはずがないでしょう。厳重に管理しておかないと、粗暴な息子達に壊されでもしたら、目も当てられない。夜の町のお金にされても困るわ。あなた、1番厳重なところにしまってくださる?見せてもいい設備を整えてから、見られるようにしましょう」
同意すると執事さんが布をどこからともなく持ってきて、包んでどこかに運んでいった。顔は非常に満足しているようだった。
「ランスがいなくなるのか。剣の相手がいなくなるな」
「おじいちゃんがいるよ」
「マクガヴァン先生は国軍の指南役だぞ。何を言ってるんだ。お忙しい方なんだから、そうそう相手をしてもらえないんだからな」
「そうなの?よく来ているようだったけど。まあいいか、教えるならあのぐらいのがいいしね」
エロイーズがちょとだけグチグチ言ってくるのを聞き流して、部屋に戻って忘れ物はないはずだけど、最後に探してみる。ないね、よし。じゃあ、生活魔法の本でも読んで寝よう。
生活魔法の本が面白すぎて、夜中まで読みふけってしまったけど帰ってから読むのを楽しみにして閉じた。朝食を食べても、いつもならいないはずのエロイーズが残っている。大丈夫なのかな?
「見送りぐらいしてもいいだろう」
「それは嬉しいけど。ありがとう」
「なかなか濃い時間を過ごせた。楽しかった。王都に来ることがあれば訪ねて来いよ」
「ええー。貴族じゃないから警備隊を通る予定はないんだけど。用事で通るぐらいだから、話す時間がないと思うよ」
エロイーズが門番をしているはずもない。どこかでふらっと会うぐらいしかないだろうけど、そんなことあるのかな?会いに来い会いに来いと口を開けると僕にそんなことばかりをいってくる。王都には来るけど、貴族街には用事がないんだと説明しても、警備隊なんだから遊びに来いと聞かなかった。来たときには寄るようにすると仕方なしに答えると、嬉しそうに絶対だぞとはしゃいでいた。そんなに会いたいの?
「辺境伯の馬車がおいでになりました」
メイドさんがそう告げると馬車が入ってきて、すぐに玄関前に止まる。扉が開くとシャローザが降りてきた。
「グレンフェル家の皆様、私の婚約者ランス様が滞在の宿泊をさせていただき、感謝申し上げます。辺境伯より御礼の旨、預かり物をして参りましたので、こちらをお受け取りください」
護衛の騎士の1人が大切そうに何かの箱を執事さんに手渡していた。
「お世話だなんて、滞在中はこちらも大変楽しくさせていただきましたわ。婚姻まで滞在してもらってもよろしかったのですよ?そんなにあせって行かれなくともよろしいのに」
「大変お世話になり、ありがとうございます。私が降嫁しますので、早めに行きまして生活に慣れたほうがいいだろうという、お父様の判断に従いましてランス様の元へ参りますのでランス様もご一緒させていただきます」
「そう。ランス君もいつでも遊びに来てくれていいのよ」
形式上の挨拶とまた機会があれば来ますと答えて、馬車に乗り込んだ。だいぶお世話になったよ。予定通りといえばそうなんだけどね。
「出して」
シャローザの声を合図に一行は進み出した。馬に乗った騎士とか、2台の馬車が後ろにいるとか、そんなことはいいんだけど。多くない?貴族の移動ってこんなものなのかな?
「ついてくる人達ってこんなに多いものなの?」
「これでも少ない方ではあるのですが、見たことがないのでしたら多く見えるかも知れません。騎士達は私の護衛が目的ですから、ある程度の人数を揃えておかないといけません。ですので、この人数の割には馬車が少ないぐらいです。これでやっとランス様と暮らせます。あとは追って買った物が届くのを待てばいいですね」
「そうなんだ、これでも少ないのか。買った物がどのくらいで届くのかわからないけど。慣れられるといいね。向こうの生活がどうしてもダメだったら、どうにか考えないといけないしね。気軽に考えよう?」
「もしもの時は相談します。いいのですか?大切な村なのでしょう?」
大切という言葉に違和感を覚える。確かにあそこで生活していた。もちろん、生まれた村で祝福を受けるのは大事だろう。僕自身も何かでダメだったら、ファーレ国に行くようにはいわれている。だけど、あの村が大切かと言われるとつらく苦しく痛いことしか思い出せない。
「いいことを思い出せないから、大切なのかな?でも、生活していた村で祝福を受けるように、グリじい達がいっていたから守っているだけだよ。お父さんも魔物にやられて、お母さんも弱って死んでしまったしね。それに、いや、何でもない。何でもないんだ。こだわるのなら、そこだけなんだ」
「それだけでしたら、他のその暮らしやすい街に移動されてもよろしいかと思いますけど。どうしてそのようなことをおっしゃったのかわかりませんけど、お師匠様に何か考えがあってのことなのでしょう。あまりよい思い出がないようですが、よき妻になれるように頑張りますのでよろしくお願いします」
「こっちこそよろしくね。全部は叶えられないかもしれないけど、いってくれれば考えるし、一緒によくなるように頑張ろう」
馬車はホイットマン馬屋の前で止まった。前に馬を買った場所だ。帰るから引き取らないといけないね。
「乗って帰るの?」
「ご挨拶があったので、騎乗用の服を着ていません。どうしましょう」
「普通の馬に乗ったことがないから、乗ってもいい?」
「乗ってくださるのなら、交代で乗りながら帰りませんか?」
交代で乗るのには賛成した。長時間の乗馬は体験したことがなかったので、1度はしてみるのもいいかなって思ったのだ。家に着くまでは10日ぐらいはかかるだろうから、練習と慣れるのには十分かな。
「お待ちしておりました。こちらになります。乗られるのはお坊ちゃまでよろしかったですか?」
「僕が乗って帰るよ」
乗せてもらい馬具はつけられていたけど、鐙の位置を合わせてもらわないと足がかけられなかった。調整をきちんとしてくれて、簡単な馬の歩き方を教えてもらった。それで歩いてくれたので、馬車について行くには十分かな。準備が出来た。
「あ、水桶とかあるのかな?」
「ございます。休憩中に水をやるのはよいことです。馬を大切にしていただけますようお願いします。町に着きましたら、馬小屋で餌もお願いしておいてください。たまに出さないところがあると聞きますので」
「わかった。ちゃんと確認をするよ」
「それでは道中お気をつけて」
王都を出ると街道を一列になって進んでいく。馬の上にいるからとても高くて広く見渡せる。いつもと違う、そんな風景が見えるので自分も馬があると便利かなと思う。
荷物はマジックバックで、早く移動出来るならそっちのほうがいい。ゆっくり進んでいても人より早いから、旅の時間も少なくてすむしね。シャローザのそばにいたいかな。
きちんということ聞いてくれているのか、道なりに勝手に進んでくれているのかわからないけど、街道沿いを馬車の速度に合わせて走っている。いい子だ。
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読んでくれてありがとうございます。
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