紋章官の書類完成

「ランス、紋章官の認証印が通って、書類が完成したそうだぞ」

「本当に?」

「ああ、連絡が来たからな。辺境伯のところにも連絡は来ているはずだ。迎えが来たら、行ってくるといい」

「長かったよ。シャローザに合わせて戻る感じになるのかな。準備とかよくわからないし」

「確かに準備に少し時間がかかるのはしょうがない。認められるのに時間がかかるのはしかたのないことだったが、連絡も急にされるからな。婚約破棄にならない限りは、お互いに交流を深めて行くのが普通だから、婚姻までに書類が完成しておけばいいんだ。急なときは家の力でねじ込んでいくしかないけど、結局婚姻後に書類が完成するのも珍しくない。今回は私の知り合いがいたから早く済んだんだぞ」

 ありがとうっていうと楽しく過ごせたからいいとしようと言われた。早いほうだと言われても実感はなくて、やっともらえて帰れる気持ちの方が強い。

 準備といっても特になく、持って帰るものを確認している。弓とかはバックに入れているので、マジックバックが2つあるかだけ見ておけば荷物は全てだ。ファイアドラゴンの装備はもう身につけているので、普通っぽい感じのオックスブラッド色の服上下に靴となっている。マジックバックにしまっていたカージナルレッド色のファイアドラゴンの鱗は空間倉庫に移している。見つからないようにね。

 商業ギルドと細工ギルドの問題は解決の糸口なく、そのままになっている。細工ギルドはファーレ国に僕を連れて行くのか、それとも総本部長が来るのか、そういう話は一切聞こえてこない。細工ギルドのギルド員にも被害が及んでいるようで、商業ギルドにギルド員が交渉に来ているのを見たことがある。ギルドを通すように追い返されていたけどね。本部長が各国ギルドに働きかけをお願いするようにしてるらしい。貴族からの問い合わせに四苦八苦しているので、細工ギルドの総本部も大変になっているが、認めようとはしないらしい。なので、何も変わっていない。

「ランス様、シャローザ様がお迎えに来られました」

 返事をして表に出る。馬車から降りてシャローザは待っていた。

「ランス様、やっと許可が下りました」

「出来たみたいだね、よかったよ。泣かなくても。書類を見てからにしよう」

 涙が出るのをどうしていいのかわからずに、オロオロしている。どうしよう。

「ランス様」

 向かってくるシャローザを優しく受け止める。危ないよ。抱きしめて頭をなでる。落ち着くまでそのままでいる。

「もう大丈夫です」

「それならいいけど、今は大事な書類をもらわないと。1番大切だよ。さあ行こう」

 馬車に手を引いて、乗り込んでもらう。続いて乗り込む。みんな乗り込むと馬車は進み出した。

 思えば長かった気もするけど、出来たのならよかった。もっと時間のかかるものだと思っていたけど、1ヶ月と少しで仕上げてもらった。降嫁だから難癖をつけられることがあるんじゃないのかなって。


 紋章官の事務所の入り口に立ち、シャローザに先行してもらう。シャローザは貴族だからね。扱いは当主扱いでも、ただの平民。

 応接室のような場所に通されて、最初に対応してくれたエロイーズの友、ダニエラさんが書類を持ってきてくれた。いつもの通りというか、慣れた様子で書類を説明してもらって確認する。それを受け取ると、帰って行く。書類は全部で3枚、紋章官の保管用。両家当主確認用。僕は当主というわけではないが、両家なので、僕にも1枚渡される。もう1枚はハンナさんが預かった。シャローザがクッキーを差し出して、お礼を言っていた。続いてお礼を言う。

 それが済むと王城を出て、貴族街に戻っていく。

「シャローザはどのくらい王都に滞在するの?」

「必要なものは揃っていますので、帰って確認を終わらせればいつでもいけます。少し言付けは必要になりますけど、買ったものを送るように伝言をするだけなので、任せて帰ればいいです。ランス様はどうなのですか?」

「お世話になったお礼を言ったらいつでも帰れるよ。荷物もそんなにないしね。マジックバック2つだから、気軽に帰れる」

「それなら、本日は抜かりなく準備をされて、明日の朝から出発しましょう。よろしいですか?」

 構わないよと告げてから、いつものところで降ろしてもらうとバックを担いで店屋に向かう。保存の利きそうなパンや干し肉。それから干し果実を買う。商業ギルド、冒険者ギルド、薬師ギルドにそれぞれ明日帰ることを伝えた。冒険者ギルドだけ依頼を受けてとうるさかった。

 やることといえばそのくらいで、あとは現金を引き出したぐらい。あとはエロイーズの家族に挨拶ぐらいかな。他に挨拶をするところに行く予定もない。王都で行きたいなと思っていたところといえば、本屋さんだね。

「本屋さんってどこかある?」

「どのような本をお探しでしょうか。娯楽小説のような本に強い本屋、兵法や武技などの武闘派向けの本屋、あとは当家ではあまりなじみのない魔法使い向けの本屋ならばご案内出来ます」

「娯楽は興味ないけど、武闘向けと魔法使い向けは行ってみたい。魔法使いからがいい」

「かしこまりました。ご案内いたします」

 大通りから少しはいって、たまに人の通る道を進んでいく。迷いそうだ。

「次は来られないかもしれない」

「最短でなければ、薬師ギルドの少し行った道を真っ直ぐでつきます。目印は何か」

「スタフドっていうパスタのお店なら知ってる」

「ええと、そうです。その店があります、道を真っ直ぐです。そうしましたら、この本屋につくはずです。こちらがレステリー魔法本屋でございます」

 古めかしい看板がドアの上に掛かっていて、わかりやすくレステリー魔法本屋となっていて見つけやすい。うん、これならまた来られるね。

 ドアをくぐる瞬間に魔力を感じて、立ち止まってしまう。何の魔法だろうか?

「どうかされましたか?」

「何か魔法を感じたから立ち止まった。何の魔法なんだろう?」

 本屋の店主らしき女の人がこちらを見てにやりと笑う。

「魔力感知に優れているようだね。その魔法は本にかけてある盗難防止の魔法を感知するものだよ。他には出入り禁止の者が再び来たときに、追い返してやらないといけない。そういう仕掛けを入り口にしているのさ。魔力を探られるが、必要なことでね。世の中物騒なもんさ。ささ、中にお入り。何か欲しい本はあるのかい?」

 守るためのことならしかたない。中に入ると、その広さに驚く。空間拡張魔法を使っているようだ。外見からは想像出来ない大きさになっている。凄い店になっている。

「誰かに店を広げてほしいとか頼まれないの?」

「アタシがしたわけじゃなくて、知り合いがもっと本が欲しいとしてくれただけだから出来ないよ」

「そうだったんだ。凄い知り合いだね」

「ああ、そりゃあそうさ。グリゴリイの弟子だからね。今頃はどこにいるのやら。世界の遺跡を調べるって言ってたねえ。ところで祝福前に見えるが、魔法に興味があるのかい?」

「生活魔法なら使えるよ」

 ニコッと笑って、そうかいそうかいと楽しそうにしている。

「それならまずはいろいろな生活魔法を覚えたらどうだい?使い手の少ない、便利な魔法もある。普通は火をつけたり、クリーンでキレイにしたり。ライトなんかも便利だね。ドライとか濡れた布なんかを乾かす魔法なんかもあるよ」

「ドライは知らない。風と火を組み合わせて乾かしていた」

「ほう、才能のある子みたいだね。生活魔法は属性にこだわらずに使えるところが便利なんだ」

「確かにいろんな属性が使えるよね。魔法は使える属性が決まっているのに、生活魔法は全部の属性が使える。特殊な空間魔法とかは別だけど」

 頷きながらどこかの本棚に案内される。

「これが生活魔法の教本だ。他に誰も買うことはないはずだから、仕入れることもないだろうね。生活魔法はある程度使えればいいから、そんなに力を入れて練習する人もいない。だから、使えるのなら買ってほしいんだが」

「ちょっと見せて」

 渡してもらった生活魔法百科事典を片手でなんとか支えながら、ページをめくる。分厚いので無駄な部分が多いかと思ったけど、普通に人々が使っている生活魔法を解説している。高度な上位魔法の使い方までは知らないようだが、属性魔法を使えなくて誰でも使える魔法を集めている。後半に属性魔法使いの生活魔法も載っていて、そういう区分がされているのが凄い。初めて見る本だったので、ペラペラと簡単に見ていく。欲しい。

「大きいけど、買えるかな?」

「精算できないときは、取っておいてあげるよ。1、2年は売れることがないだろうしね」

「じゃあ、お願いします。他に欲しいのはグリゴリイの本と結界大事典みたいな本があったと思ったんだ。あとはそのくらいかな。古代語の魔術書がまさかあるなら見せてほしい」

「古代語?童顔の祝福後だったのかい?」

「教えてもらったから、ある程度わかる」

 本当なのかいと確認されたけど、本当だと答えておいた。結界の本は読んだことのあるものばかりで、グリじいの持っていた本よりも内容が劣っていた。欲しい本はなかった。古代語の本は翻訳に関連した本、翻訳するための本が充実していて、古代語の本はなかった。残念。

「翻訳する本がいらないなんてねえ。生活魔法のほうがいいとは。よっぽど使いこなせるんだろう。魔物とは戦ったことがあるのかい?」

「あるよ。この前、ファイアドラゴンと友達になったんだ」

「は?ファイアドラゴン?さすがにそれは、あんまりいうと嘘つきだと思われるよ」

「この服もらった鱗で作ってもらったんだよ。防具ギルドのギルド長のところで加工してもらった。爪ももらったけど、冒険者ギルドに売ったからどうなってるかわかんない」

 怪しげな目で見られるけど、本当なんだからしかたない。

「冒険者カードは使えるの?」

「使えるよ。冒険者が1番買って行ってくれるからね。当たり前だよ。さて足りるのかねえ」

 残高とか確認していないので、通らなければ商業ギルドのでいけるとは思っているんだけど。どうなのかな?

「通ったね。取り置いてまた来てくれるなら、新しい本を探しておこうかと思ったがダメだったかい」

「古代語の本がいいよ。なるべく原本が、写しだと文字がわからずに間違えてることがあるし。またよるよ、何かの用事で王都に来たときに」

「そうかいそうかい、それなら探しておくとしよう。ところでこのギルドカードは間違っているのかい?ワイバーン単騎討伐のマークがついているんだが。あとS級扱いのマークも」

「詳しいんだね。それは冒険者ギルドがつけたものだから、自分で勝手につけたものじゃないからね。生活魔法を頑張っていたらついた」

 生活魔法しか使えない状態だから、本当に困るよね。普通の魔法を使った方が楽なこともあるし、発動速度を考えるとどうしても生活魔法のほうがいいんだよね。

「生活魔法だけでね、凄いのはわかったよ。また来な。古代語の魔術書が入っているかどうかはわからないけど、魔法使い達に持っていないか聞いてみるかね。もちろんランスのことも聞いてみる」

「ウソは言ってないから、いくらでも調べて」

 本を受け取ると1ヶ月ほどお世話になった屋敷についた。下準備をする。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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