シャローザと王都観光2

 もうちょっとだけど、シャローザの足がガクガクしている。登るまではなんとか頑張ってほしい。腕を肩にかけて、階段を上っていく。

「すいません、ここまで来たのに」

「もうちょっとだけ頑張って。自分で登ろう」

 1段1段確実に登っていく。出口はもう見えている。

「ランス様、私はゆっくり登りますから」

「速かった?」

「がんばります」

 踏みしめる階段が終わりに近づくにつれて、階段を踏み外したり、息を整えて階段を上る。外は見えている。

「もうちょっと、あと少し」

「はぃ」

 息も切れ切れに踏みしめて上がっていく。


「着きました」

 立ってもいられそうにないシャローザに背中を向ける。背に乗せると展望台を歩き始める。

「凄い高いね、シャローザ」

「こんな景色があるのですね。遠くまでよく見渡せます。王城も見えます。凄いですランス様」

「自分で登ってきたんだから、自分で手に入れた風景だ。あの大きな白いのが神殿かな?」

「そうです。行ってみたかったですか?」

「遠くで見るだけでいいよ、神殿に用事なんかない。行く必要なんてないよ」

 高い展望台の上で王都の景色を見て、楽しんだ。帰りは足腰が立たないシャローザを背負って下まで降りた。馬車に乗ると、足がきつい。降りるのも必死だった。足が痛い。でも、気持ちは満ち足りていた。

「展望台はたくさん人がいたね。高くて見晴らしのいい場所だった」

「登るのがこんなに大変だとは思っていませんでした」

「でも、高いところから見る風景はよかったんじゃないの?」

「風景とランス様の背中がとてもよくて、クラクラしていました」

 運動させすぎて、ちょっとおかしくなってしまったのかな?一時的なものだと思うけど。

「降りるときも安心感で、寝てしまわないようにするのに必死でした。展望台の風景もいつもと違っているので、不思議な気分でした。降りてくるのも下がよく見えるので怖かったのに、ランス様に背負われているので安心と両方感じる奇妙な感覚でした。馬車に乗せられるときは残念でした」

「あんまり背負う事態にならない方がいいんだから、今日みたいな疲れてどうしようもないときはそうするけど。ちゃんと歩けるなら歩いてほしいよ」

「わかっています。わかっていますとも」

 ふらっと力が抜けたようになるシャローザを支える。メイドさんと席を替わってもらい、隣に寝かせて寝かせる。落ちないように注意しないと。馬車のゆれでイスから出ないよう、支えておく。太ももの上で寝ているから、起こさないようにしておかないとね。


 ぐっすりとしているシャローザが辺境伯邸についても起きなかったから家の人を呼んで運んでもらった。こんなに寝ているのが珍しいらしかったらしい。

 馬車で送ってくれるそうで、うっすらと夜の暗さが空の白さを混ぜて変えていっている。今日は行けないところばっかり案内して、シャローザもいけるところじゃないと行きたくないんだけどな。一緒に楽しみたいからね。誰かと何かするのは嫌いじゃないけど、好きでもない。でも、シャローザと何かするのは楽しいんだ。今日みたいな、大変なこともそれはそれで、思い返すと足が痛かったけど、シャローザとの思い出にはなったよね。シャローザもそう思ってくれると嬉しいかな。


「お帰りランス、待っていた。母上が待っているから話をしよう」

「今日は汗だくで、話って何?」

「ランスの白粉のことだ。少し情報があるようだぞ」

「そうなんだ。ちょっと待って」

 夕食まではそんなにないから、そんなに時間はかからないだろう。水球と乾燥クリーンで、サッパリするとエロイーズの後ろについて行く。

 ノックをして中に入ると座らされる。

「お帰りなさい、ランス。細工ギルドには明日、公爵夫人様とご一緒にお話をすることになりました。帰りは商業ギルドの本部長シーラさんともお話しする予定です」

「シーラさんってギルド長じゃないの?」

「兼任しているのよ」

 兼任していた?最初から兼任していたんだろうか?ギルド長だと知っておけば問題なかったしね。知らなくても困らないことだから、いいか。

「今の状況を正確に知っておかないと、話がややこしくなるから話し合いの前に教えてほしいの。こちらも白粉だけじゃなくて、白粉の貴族用容器の作成。とてもキレイなクリスタルの調度品の製作を行っていることも知っているわ。それが今回の争いの原因よね?」

「うん、クリスタルの販売を細工ギルドが認めないといってきて、1度販売を中止してるはずだよ。各国に見本を送っていて、販売して行くつもりだったみたいだけど、今どうなっているのか知らない」

「あれほどの調度品なら、そのくらいのことをしてもおかしくないか。そこに細工ギルドが待ったをかけて、売れなくなってしまったと」

「正確に言うなら、作り方を辺境伯の細工ギルドでギルド長に確認してもらって。それでもダメっていわれて、本部長にも確認してもらったんだけど。総本部からダメって言われたって。確認の時に本部長が大丈夫だといっていたけど、ダメだったんだよね。シーラさんが怒って、細工ギルドとの取り引きは総本部の決済じゃないと認めないっていってた。総本部の代行がどうこう言ってたけど、とにかく僕が総本部に行かないといけないみたいな感じだった」

 行きたくないからいかないけど、どんどん大事になってる気がする。

「総本部まで行くとなると、でも、祝福前のこどもを出すのは危険すぎるから、行かせないはずね。行くなら相応の準備と理由を持って、召喚するならわかるけど。制作過程の確認ぐらいでは呼び出したって聞かないわね。薬師ギルドのF級だったら、後学のために数週間の日程で呼ぶことはあると聞いたぐらいで、他のギルドで総本部に呼ぶこと自体聞いたことがないわね」

「それなら行くことも出来ずに八方塞がりになるのではないですか?」

「そうね、どちらかが引いてくれると化粧品達に影響がなくていいんだけど。それでもまずは細工ギルドの対処のまずさについて、問い詰めて、譲歩案を出させないといけないわ。総本部に行くならいくで、それなりの金額を覚悟するようにクギを刺さないといけない」

「商業ギルドも冷静になってくれればいいのですが、妥協案が引き出せれば」

 渋い顔をしている。うなりながら白粉を見ている。

「ところでランスの作っているクリスタルはいくらの値段がついているのでしょうか?教えてもらえるとは思いませんが、いいお値段がするのですか?実物を見たことがありませんので、想像もできないのです」

「聞いた話では白金貨でお釣りが来るぐらいと。欲しいのに売れないので値段が天井知らず。今の値段だけど、王族がそろそろ参戦してくるようでつり上がるようね。他の国では王族が大枚をはたいて“献上“させたそうよ。その情報が各国に流れている。この国で生産が行われていることも。理由もなく販売できない状況、それが一気に細工ギルドに。恐ろしいことになるわね」

「不満の元が細工ギルドなら、細工ギルドに同じ物をすぐに作らせるようにすればいいのではないのですか?作れないのに禁止とは?祝福前の子どもに生産系や攻撃系のスキルが使えないのは、この世界の人間なら誰でも知っていることでしょう。まさか、細工ギルドが作れないのなら、作り方が違うのも納得です。総本部にもそう言ってしまえばいいのではないのですか?」

「細工ギルドの本部長は手を尽くしているといってたのよ。総本部にも手順は確認して、生産系スキルではなかったと伝えていると。それでも納得しなくて困っているみたいね。欲しい人はいるし、売りたいのに細工ギルドが禁止しているから売れなくて、商業ギルドは損害を発生させたと認定しているみたいよ。確認作業をして、それでもなお禁止にする理由がないから、細工ギルドもいくら請求されるか恐ろしいものね」

 細工ギルドが早く売るのを決めてくれたら、それで終わりのはずなんだけど。売るために僕も確認のために、作るところを見せたのに無駄になっちゃうのかな?近くの国ならまだなんとか出来るかなって思うけど、ファーレ国は遠いよ。ファーレ国は確か四竜の山の中央ぐらいにある都市で生産系のギルドの総本部が多くある。薬師ギルドの総本部もここにあるので、いつかは行くことになるだろうけどね。

「それでランスはどうするつもりなんだ?」

「なにもしない。何も出来ない。ギルド同士の問題はギルドを通じてじゃないと。細工ギルドが悪いと思うけど、所属していないギルドに何か言うこともない。商業ギルドの対応は間違っていないから、細工ギルドがどうにかするしかない。前例のないことだけど、僕を細工ギルドに所属させるとかね。スキルのない僕の所属ができるなら、誰でも所属させることになるとは思うからできないって、この国の本部長はいっていたから。無理じゃないのかな。認めてくれない総本部長が悪いだけだよ」

「売れないのはいいのか?」

「困るけど、そのうち売ってくれればいいかな。商業ギルド長が怒っているから、相当まずいんじゃないのかなって思ってる」

 誰が悪いって、細工ギルドの総本部長なんだよね。本部長が確認してもダメだって。それなら最初から総本部で確認することにすればいいのにね。

「何も出来ない。確かにギルド間問題に口を出したら、巻き込まれて大変なことになってしまうかもしれないな。静観が1番いいかもしれない」

「今は解決出来そうな糸口がないから、見届けるのが1番かもしれないわね」

 どうにもならないので、困っている。本当にどうにかなればいいのだけど、そうもいかないか。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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