シャローザと王都観光1

「また明日ね」

「はい、また明日来ます」

 なんとなく寂しげに手を振る女の子を見送って中に入る。

「ランス、噂で聞いたんだが白粉を減産するとは本当か?流行りだしたばかりで、そんなことをしていいのか?貴族の奥様方も気に入ってくれてるのにだ」

 エロイーズが着替えていて、見つけて近づいてきたらそんなことを言い始めた。

「情報が早いね。今日決まったんだよ。減算するより生産が追いついてないだけかな。作る人も集めているところだろうしね。本当は僕の作った物のことで、あるギルドと揉めているから生産量を落とさざるおえない。他の国ではそのギルドが貴族用の容器を作成することになっているからね。この国では僕が作っているけど、そのギルドと揉めているから出す量を抑えるみたいだね。そのギルドの総本部の決定だから、僕にはどうすることも出来ないよ。ギルドなら各国の本部から総本部へ、どうにかしていってもらうしかないよね。商業ギルド長はカンカンに怒っていたから、本部の決済じゃなくて、総本部の決済じゃないと取り引きしないっていってた」

「そうなのか、せっかくいい物が広まったと思ったのに逆に戻っていくんじゃないのか?そうなったら被害が出てくるかもしれないぞ?」

「すぐに出るかどうかはわからないけど、使っているとドンドン酷くなるから中止するんじゃないの?貴族用でも足りていない状態なのに。そのギルドにみんなでいっていればそのうち、どうにかなるんじゃないかな」

「そうか、ではそのギルドに早急にどうにかするよう、奥様方に進言しておこう」

 何かどす暗いものが見えるんだけど、いいのかな?

「商業ギルド長は本当にそれだけで、生産を落とすと決定したのか?」

「人が足りないのも理由にあると思う。白粉の開発が僕だから、揉めているなら貴族用の容器も作っていて出せないってことじゃないのかな?そのギルドには貴族用の容器の開発とかお願いしているからね。揉めていることに関してだけど、そのギルドの本部長に作り方を見せて、その時に大丈夫だと言われているから余計に商業ギルド長がムキになっていると思う。あとは僕が総本部まで行くしかないね」

「総本部というとここからだと、どこも遠い。祝福前なら、商業ギルド長がいやがるのも無理はないか。他国へなど行かせたくはないものだ。ろくに護衛もつけられないからな。ランスは攫われそうだ」

「他国には行きたくないかな」

 納得したようで頷いている。身を翻すとどこかへ歩いて行ってしまった。エロイーズのことだから悪いようにはしないだろう。

 戻ってきたけど、なんとなくほこりっぽいから軽く水とクリーン、温風で乾かしておく。城壁の西での練習はうまく行ったと思う。最後に中断したのは、魔力の乱れが大きかったのがわかったから中断したはずだ。乱れない状態から魔法の発動をすれば、それなりの魔法を使えるはずだけどね。


「おはようございますランス様。本日はどのようなご予定ですか?」

「決めてないけど、どうしようか?」

「それでしたら王都の中を観光しませんか?ランス様はどのようなところに行ったことがあるのですか?」

「武器ギルドのギルド長のところでしょ、防具ギルド長のところ。商業ギルド、冒険者ギルド、薬師ギルドと高級な宿屋かな。薬師ギルドで教えてもらったパスタのお店と串焼きかな」

 他に行ったところってどこかな。通り沿いの店ぐらい?

「観光はされずにお仕事ばかりということですね。それなら有名どころを案内してもよろしいでしょうか」

「いいけど、神殿には行きたくない」

「わかりました。私も呪われているので、神殿には入れませんから行かないです」

「それならいいよ」

 行き先もわからないまま馬車に乗せられて、王都の中を走り出した。最初は串焼きをよく買う広場に連れてこられた。

「ここの噴水を中心にいろいろな店があるので便利な場所なんですよ。食べ物屋が多いのも特徴です。1つ買いませんか?」

「なにがいいのかな?いつも串焼きぐらいしか買わないから、何がおすすめなの?」

「あちらに甘い飲み物を売っているので、そちらにしましょう」

 甘い飲み物か、どんなのが売っているんだろう?案内してもらった店の前で待っていると飲み物を運んでもらった。受け取って飲んでみる。

 味は確かに甘いかな。果物を混ぜて甘い、甘ったるい感じがしている。蜂蜜も入っているかな。独特のくどい感じがするから、混ぜた果実の種類か量を調節すればいいと思うけど。嬉しそうに飲んでいるシャローザには、美味しいねと答えた。

「あんまりここにいると食べ過ぎてしまうので、次に行きましょう」

 案内された先には大きな作りの建物があって、公演とか書いてある紙が貼ってあった。

「こちらが王都劇場です。音楽や舞台を行っているのですよ。ランス様とも1度は来てみたいです」

「舞台って何?音楽は楽器の演奏ってことはわかるんだけど」

「舞台は俳優が役を演じて、物語を楽しんだり。踊りや舞踊などの時もあるそうです」

「旅芸人達の勇者劇とかをたくさんの人でやるってこと?」

「そうです、音楽や人、舞台道具などでもっと素晴らしく見えるはずです」

 遠くからそっと眺めるシャローザ。

「見られないの?」

「それが、実は呪い持ちは入れないようになっていまして。昔、観覧していた貴族を狙うために、呪い持ちを入れて多くの人が呪われたことがあったので、入り口で呪いを持っていないか検査することになったのです。ですから私は入れないのです。もしよければ、ランス様だけでも」

 顔を少ししかめながら、言葉を僕に向けていた。

「面白くなさそうだから、行かないよ。シャローザが呪いが解けて、行きたいっていうなら、一緒に行こう。音楽とか聞いても眠たくなりそうだからね」

「その、入れるようになったらお誘いします。それまでは楽しみにしておりますね。一緒に、一緒に行ってくださいよ。約束です」

「約束する」

 はにかむように笑う。悲しい顔をしないと行けない場所に連れてこなくてもいいのに。

「一緒に行けない場所は観光したくない。いけるところだけにしてよ、シャローザ」

「それもそうですね。わかりました。次は一緒に」

 着いた先には高い塔が立っていて、人が塔の中にすいこまれている。

「こちらが王都望遠塔です。ここは昔、王都内を監視するために軍の施設だったのですが、監視が城門上の上から出来るようになったので、廃止されたのを観光施設として利用しているのです。王都を一望出来ますよ」

 馬車から降りると外側には何もなく、上まで斜めに壁が伸びている。入場口から中に入ると上る階段がつけられていて、中央を柱が伸びていて、壁に向かって腕が伸びていた。階段は2つあって、一方は登りで、一方は降りている人達だった。高いけどシャローザは登れるのかな?

「登れる?」

「登ってみせます」

 頑張ろうとしているので、一緒に登ろうかな。ゆっくりだけど確実に登っていく。1周ぐらいしたら踊り場みたいな、少し広い場所に来るので、そこで休憩。

 シャローザは汗をかいていて、意気も結構上がっている。まだ先は長いけど、登り切れるかな。

「手を引こうか?先は長いよ?」

「でも、汗をかいています」

「汗をかいているね。それで手は引いていいの?」

「え、と。あの」

 息が整ったぐらいに手を出す。恐る恐る出してきた手を握る。立ち上がった彼女を引っ張るように階段を上がっていく。1周したところで広い場所で休憩。

「だいぶ汗をかいたけど、なにか飲んだほうがいいんじゃない?」

「すいません、気が回らずご用意しておりません」

「水だけなら出せるけど」

 シャローザの目の前に水の塊を浮かべる。

「飲めるから大丈夫だけど、体を冷やすのに使ってもいいんじゃない?手を入れたりね」

 塊から水を取って口に含んで飲み込む。

「飲みすぎると途中でお腹が痛くなるから、飲み過ぎは注意だよ。なったことあるからさ」

「そうなんですか?それなら少量にしておきます」

 水の中に手を入れて気持ちよさそうにしている。手を抜くと水を消す。

「手を出して」

 手を出させると風で水分を一気に飛ばす。

「じゃあ、行こうか」

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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