シャローザのお姉さん3

「お食事も終わりましたし、どこでやりますか?」

「城壁外の西、練習場としてはやりやすかったよ」

「では移動しましょう」

 みんなで馬車に乗り込んで、西の広い場所手前で馬車を降りる。広くて何もないから練習にはちょうどいいんだよね。

「まずはどっちから行く?騎士にしよっか。木刀を持ってないから、あるもので戦おうか。手早く終わらせたいから、構えて」

 剣を抜いて構える。僕は作り出したクリスタルの剣を構える。動き出したのに合わせて剣を振るう。武器を作り出す以外にスキルは使っていない。剣を合わせてから、荒々しい力押しの剣筋を逸らしながら、懐に飛び込んでクリスタルの剣を腹に切り入れた。ビギッとヒビが入る音がして、砕けてキラキラと光を放ちながら消えていく。騎士は膝をついた。

「このくらいでいいかな?どのくらいの力量なのか知らないけど、これでわかってくるとありがたいかな」

「な、あの程度で負けなはずは」

 立ち上がるとなおも戦おうとする。

「エルミニド辺境伯の騎士様、貴方は膝をつかれました。負けを認めてください。スキルを使っていないランス様に、純粋な技術で負けているのです。力押しなら勝てるでしょう。しかし、そこに持って行けないのなら、何をやっても勝てないです。当家のエロイーズ様もスキルの力押しで勝つぐらいです。ランス様がスキルを持っていた場合、剣だけで負けます。真剣ならば最悪の結果が訪れますが、続けるのですか?」

 メイドさんの顔が怖いよ。怒っているのは初めて見た気がする。

「わ、わかった。負けました」

 威圧された騎士が顔をゆがませて頷いた。

「フィリーダ、うまくいく魔法とうまくいかない魔法を見せてよ」

「はい、それではいきます」

 ?詠唱に入ると魔力はなんとか形になった。見せてもらった2つの魔法の違いは詠唱の長さによって魔力が途中で拡散している。短いのは拡散前になんとか形になっている感じ。拡散の元は詠唱前の謎の魔力の乱れ。

「詠唱の前にどうして魔力を乱しているの?」

「使う魔法を悟らせないように、魔力を乱せと」

「詠唱しないならいい手だとは思うけど、詠唱している時間で十分にわかることだよね?無意味じゃない?」

「そうしろと先生に教えてもらいました」

 そうなんだ。それってちゃんと魔法が使える人がやるべきじゃないのかな。その上で乱すならなんとかなりそうだけど。

「乱すのは魔法が使えるようになってからでもいいと思うんだ。正しくきちんと魔法を使えるようになる。その次にやればいいよ。魔力って魔法の大元だから、乱さずに詠唱したらうまく使えるはずだよ」

「そんなことでですか?」

「では逆にどうして使えないかわかる?」

「わかっていれば、直して使えるようにしています」

「だから原因を教えた。最初に魔力を乱すことで、短い詠唱はギリギリ形になっていて、詠唱の長いのは途中で拡散して魔法になっていなかった。短い詠唱も威力が弱いはずだよ」

 首をかしげていたので、とにかく乱さないようにやってみようということにした。癖みたいになっているのか。

「うまくいかない」

「ちょっと触ってもいい?」

「いいですよ」

 腰の真後ろに手を当てる。魔力の流れを把握する。

「このままうってみて」

 始めるときの乱れを僕の魔力を干渉させて押さえ込む。さっきよりはましなはずだ。

「出来ました。出来ましたよ」

 長い詠唱が成功した。魔力の流れを掴むようにすればもっとよくなるかな。ウグッ。喜んで抱きしめられた。苦しい。飛び跳ねているので、バランスが、倒れ込んで痛っ、下敷きになった。よほど嬉しかったのだろう。初めて出来るときって嬉しいからね。

「すいません。嬉しくてつい」

「気持ちはわかる。出来ると嬉しいのはいいけど、ケガには気をつけてね。それで対策だけど、癖になっているからまずは、魔力を感じることが出来るといいんじゃないのかと考えてる。それが出来ると魔法が使いやすくなるよ」

「教えてください」

「手を出して」

 出した両手に触れるか触れないぐらいで両手を出す。手のひらに魔力を出して、少しづつ強くする。

「何か感じたら教えて」

 しばらくすると何かを感じたらしく、両手をさっと引いた。

「何かがありました。手の間に奇妙な」

「それが魔力。自分の中に同じようなものがあるから、それを感じ取るようにしてみて。ダメそうならもう1度魔力を感じてみよう」

 目を閉じて魔力を感じるようにしている。ちょっと乱れているかな?

「出来ないです」

「自分の中にある自然に持っているものを感じるんだから、すぐには出来ないよ。他の人のを感じて、自分の感覚で感じられるようになるまで繰り返そう」


 何度も繰り返して、諦めそうになったフィリーダ。天を仰いでいる。

「出来ません。私は才能がないのです」

「諦めないために、とっておきを使うよ。手を出して」

 両手を握ると魔力をフィリーダの中に流し込んでいく。

「あ、ああええ、ああああ!」

 立っていられなくなって、地面に座り込んだ。

「僕の魔力とそれを押しのけようとする、何かを感じない?」

「え、あええあ、ああ、これがこれが私の」

「出来たみたいでよかったよ」

「体の中にあるのを感じる」

 みんながおかしくなったフィリーダを見て、近づいてくる。

「魔法を使ってみます」

 長い詠唱を唱えると途中でやめた。乱れていることがわかったのだろう。

「いっている意味がわかりました。これで魔法がうまくなれる」

「あとはフィリーダの努力次第、使える魔法が多くなるといいね」

「はい、ありがとうございます」

 両手を握って笑顔が近い。わかったから。どうしてダメだったのか、わかったのが嬉しいのはわかったよ。

「ランス様、お姉様と距離が近いのではないですか?」

 静かな声が響いた。手を離してもらうと下がって距離を取る。

「近かった?教えるには近づかないといけなかったからさ」

「終わったのですよね?」

「今さっきね。終わったって教えてもらったよ」

「今日はいい頃合いですので、帰りましょう」

 かなりの時間がすぎているようで、日が傾いていた。よく頑張ってくれたと思う。

 馬車に乗り込むといつもメイドさんを横に座らせているのに、横にシャローザが座ってきた。肩がぴったりくっつくので、窓際によると近づいてぴったりくっつく。

「どうしたの?」

「な、なんでもないです。そっちによりたいだけです」

 前のメイドさん達は微笑んでみていた。よくわからないけど、イヤじゃないからこのままでいいかな。僕が降りるまでずっとそうしていた。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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