一緒に暮らす準備2

 次の日はシャローザが乗るための馬を見に来た。ホイットマン馬屋の看板の下にいる。城壁側が馬小屋になっているようだ。シャローザは騎乗用の服になってきていた。動きやすいほうがいいかな。

「いらっしゃいませ。本日はどのような馬をお探しでしょうか?」

「そういえば馬にはあんまり乗ったことがないな。どんな馬がいいの?」

 お好みもありましょうからと馬房の方へと連れて行かれる。紹介状を渡しておく。どんな馬がいるのかな?いろんな色の黒とか白っぽいのか茶色とか焦げ茶とかそんな感じの色。ふんふんしてる。なるべく中央にいよう。

「そうですね、まずは乗りやすいのがよいか、多少気性の荒い馬でも乗りこなせるのか伺いたいです」

「軍用に調教された馬に乗せてもらっていました。乗せてもらっていたときは遠乗りなどもしていました。とてもいうことを聞く、賢い子でした」

「お話を聞く限り乗りやすい馬がよいかと思います。軍用に調教されている馬はおりませんので、もしかしたら魔物などに怯えることもあるかも知れませんが、すぐに逃げられるのでしたら馬も暴れたりはしないでしょう。この馬などは素直にいうことを聞く馬ですので、乗りやすいですよ」

 試乗をしてみてくださいというので、その馬を馬房から出して馬が少し運動出来るぐらいの場所に連れてこられる。馬具を取り付けて台から馬の上に乗るシャローザを柵の外から見ている。うまく乗れているように思う。ちゃんと柵沿いに乗っているし、すぐ止まるし、引かれたほうに方向転換する。

「ランス様、賢いです。この馬がいいです」

「じゃあ、その子にしよう」

 焦げ茶っぽい色で、顔に白色の模様のある子だった。決まったので一安心かな。出発はまだ先なので預かってもらうことに。馬具はその時までに用意してくれるというので任せた。馬たちの視線が気になったが、次は引き渡しの時だから気にする必要もない。店から出て馬車に。

 木が折れるような音がした。振り返ると馬房から飛び出してきた馬がこちらに向かって走ってくる。柵を折って駆けて来ていたので、シャローザとメイドさん達の前に立って待ち構える。目の前に来ると嘶きながら立ち上がり、前足を振り降ろす。目の前で蹄鉄が音を立ててなった。見上げると目が合って、ブルブルしている。黒色の大きめの馬が鼻を鳴らしている。

「ごめんね、君は選んであげられないんだ。僕が乗るんじゃないからさ」

 鼻の上をなでながら顔を近づけてくる。言葉はわからないかもしれないけど、ふんふんと頭をよせてくる。フンスカしていると店の人が急いでやってくる。

「すいません、魔物種の血が入っているみたいで、気性が荒いんです。ケガがなくて本当によかった」

 馬銜をくわえさせてから頭絡が素早く取り付けられる。手慣れている人は凄いなと思いながら、油断していると髪の毛を食べられていた。手綱を引かれるが一向に動こうとしない。馬と過ごした時間はほぼないと思うんだけど、聖なる森にいたときに魔物種の馬と戦ってから背中に乗せてもらったぐらいしかないんだけどな。

「もう十分だろう?帰ろう」

 手綱を一緒に握って馬屋のほうに向かう。職員の人は手を離しているけど、手綱を引く僕のほうへとついてくる。馬房に戻すと素早く閂を通されて、追加の閂もつけられていた。店主には感謝されて、また暴れ出したがほったらかして帰って行く。水玉と乾燥、クリーンでよだれを落とす。

「髪を食べられるのはなんとかしてほしい」

「魔物種に好かれているのですか?」

「馬にはそんなに乗ったことがないんだけど。好かれる理由がわからない」

「すごく好かれていましたよ?馬の世話係でもあそこまで好かれるのは見たことがありません」

 シャローザに微笑まれて、なんとも言えない気持ちになった。好きになってほしいわけじゃない。馬に好かれても、使う必要がない。

「スゴいことだと思いますよ。魔物種は特に懐くことが少ないらしいです。国の偉い将軍とか、ものすごい人にしか言うことを聞かないんです。すり寄られることなんて、ランス様は特別なのかもしれません」

「でも、魔物種の馬とは戦って背中に乗せてもらったくらいで、好かれる理由がわからない」

「もしかしたら魔馬達の皇帝だったのかもしれませんね。皇帝に認められるとすべての魔馬が従うという伝説があるみたいです。ある国王が乗ろうとして国を蹂躙され滅んだとか。それだけ強い伝説の馬なんです」

「もしかして風と雷魔法が得意だったりする?」

「風はわかりませんが、雷鳴を呼び、天変地異をおこしたとされます」

 いい攻撃してくるなって、戦った後に妖精女王に怒られた。あいつと戦うなんてと。背中に乗せてもらったと話したらすごく驚いていた。それってもしかして。まあ、好かれようが関係ない。うん、関係ないんだ。

 馬車に乗り込んで戻っていく。シャローザが着替えに戻るのを見送って、動物に好かれるかなとは思う。待つあいだ少し体を動かす。あとはこまごまとした買い物に、付き合うぐらいかな。

 家族ができると思うと嬉しかった。母さんのことは感触まで思い出せるぐらいに、はっきりと覚えている。だから、死なないように守れるぐらいの力が存在していることで、無力なままじゃないと思える。一緒にいてくれる。まだまだ頑張らないといけないけど、祝福をもらう前に解術の見当だけはつけておこう。不完全なものだから魔力の固定が不完全かもしれないしね。細かく隅々まで解析できる。時間をかけられるからしっかりと準備して、かけらも残さず消し飛ばさないと。


 誰もいない練習場で剣を振りつつ、生活魔法を浮かべている。弱くあっては奪われる。自分を守る。そして、守りたいものを守れるように。してあげられることはそんなにないかもしれないけど。

「ランス様、着替えて参りました」

「うん、行こうか」

 水浴びとクリーンで身ぎれいにしてから、必要なものがないか探しに行く。大きなもの、ベットとか家具などはもう手配が終わっているから、食器も買ったね。あとは何がいるかな。家に置いておく料理の道具。

「調理道具を揃えたほうがいいかな。僕は持ち歩くから家で使うように。あとは何かいるかな。食べ物を保存しておく場所?地下でも作るかな」

「料理はわかりませんので、ハンナ、選んでくれる?」

「かしこまりました、お嬢様」

 鍋も色々あるんだな。半球ぽいのぐらいしか持ってないしね。あとは包丁も長さや刃の大きなものまでたくさんあった。そんなに種類がいるんだと思うぐらいは、たくさん選んでいった。そんなのあるんだと思ったのは釜の上に鍋を置くための網になっている鉄のヤツだ。小さい鍋を置けるようになるので便利そうだった。

 次に調味料のよく使いそうな塩とか、乾燥したハーブ類などを買っていた。

「農作業用の用具はありますでしょうか?」

「全然持ってない。狩りが中心だから、何か育てるってことはないかな」

「それならば、いくつか購入してもよろしいでしょうか?」

「うん、お任せするよ」

 クワとかいろいろ買っている。苗も買っているね。何を育てるのかな?

「何を育てるの?」

「ハーブなど、料理の味付けの足しに出来ますので長く住むのであれば、あるとよいかと思います」

「すごいね、なるほど、買うだけじゃなくて作るのか。野菜とかも作れるの?」

「専門家ではありませんが、自分たちが食べる分ならば出来るのではないでしょうか」

 やってみようと追加の苗を選んでもらった。うちに行くときに取りに来るように手配しておく。シャローザが来るってだけで、色々用意をしないといけないしね。

「他には何かいるのかな?」

「ランス様の服が必要ですね。普段の服はランス様のご自由で構いませんが、きちんとした場に出席するための式典用の服を準備しておかなければなりません。イヤそうにされてもダメですよ」

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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