シャローザと食事

 朝食の時間になってから眠い目をこすりながら食べ始める。終わってから部屋で座ったままうたた寝を始める。浮かれすぎて疲れた。



「このほっぺたの押し心地が最高です」

 ほっぺたをつつかれる感触が。何をされているかわからなくて、目を開け横を見るとシャローザが座っていた。

「何しているの?」

「起きてませんでしたので、少し頬を触らせてもらいました」

 満面の笑みで嬉しそうに言われると怒るに怒れない。先にすることは魔力の補充。つついていた手を取って魔力を流していく。全身が少し光るぐらいの魔力で調整する。手を離すと少し残念そうに見つめられる。

「本日のご予定はありますか?」

「今日はないよ。シャローザが来ると思って、帰るなら何かしようかな」

「それなら王都を案内します。お姉様によいところを教えていただきましたので、楽しみにしてください」

「それは楽しみ。よろしくね」

 馬車に連れて行かれて乗り込むと勝手に走り出した。貴族街を抜けて高級な店が並ぶ通りにつくと、重厚な作りの店構え。その前で降りた。メイドさん達が席が空いているかを確認してから、中に入って仕切られた個室に通された。何を食べる店なんだろう?

「お任せで美味しいそうですよ?それで構いませんか?」

「こういうところは初めてだからシャローザにお任せするね」

「お任せコースで」

 店員さんっぽい人が部屋の隅に控えていて、頷くと出て行った。キョロキョロと個室の中を見ている。金ぴかの装飾品とか落ち着かない。

「そわそわされてもすぐに料理は出てこないですよ?」

「落ち着かないだけ。高級なところって来たことがないし、物がたくさんあるのも気になるんだ」

「うちのお城やグレンフェル家では普通に過ごされてると思いますけど、ここよりはとてもいい家ですよね?気持ちの問題ではありませんか?多少、装飾は多いですが」

「それかな。何かなんだろう。このそわそわする、違和感があるんだけど。シャローザ何か頼んだ?監視をするような、そういうの」

 違和感の正体を魔力で探ると魔道具を見つけたので、魔方陣から読み取って、声とここの様子がどこかに送られている。魔力は魔石から供給されているから、ここにいるぐらいは十分持つだろう。誰かに見られているのは気分がよくない。

「そういった道具が置かれているのですか?私にはわかりません。もしかしたら、お姉様がランス様のことをとても気にされておりましたので、私たちがうまくいっているのかを気にして手を回したのかも知れません。ですが、確認は必要ですね」

 目配せをしたハンナさんは個室から出て行った。その間に料理が運ばれてくる。前菜かな、普通に食べていくけど、気になっている魔道具のせいで味がよくわからない。美味しいとは思う。

「美味しいですね。屋敷で食べるのとは違う、料理人の腕がいいのでしょう」

「そうなんだ。おいしいよ」

 水で口の中をキレイにする。美味しいのだけど、それしか感じない。なんとか会話をしながら食べすすめていくけど、屋台の串焼きの方が口に合っているのかも知れない。楽に食べられるのがいいしね。

 ハンナさんはなかなか戻ってこない。魔道具をチラチラ見ながら、緊張してどうしても味がそれなりに美味しいしか感じていなかった。ほとんどコースが終わって、デザートが出てきたときに戻ってくるとシャローザに耳打ちをする。食べ終えるとイスから立ち上がって、部屋の隅に移動する。イヤな感じは受けなくなった。

「ランス様、イスに座られてはどうでしょうか?」

「早く帰ろう。魔道具があると気になってしょうがないんだ」

「そうでしたか。夕食はエルミニド家にご招待いたしたく思いますが、よろしいでしょうか?」

「どうして?客人に武力で応えるのが流儀の家へ行きたいと思う?」

「サンデイヴお兄様も反省されていると、伺いましたし。お姉様はとてもお優しいので、出来ればお屋敷にご招待して、仲良くなっていただければと思ったのです」

 ちょっと遠目に話しているけど、シュンとしている様子だけはわかる。

「とにかくここを出て話をしよう。非礼の塊、エルミニド家へ行くのはイヤだ」

「シルヴリンお姉様やサンデイヴお兄様がしたことは、許されることでないのは知っています。しかしながら、フィリーダお姉様がお会いしたいと言われましたので、お姉様だけにお会いいただけませんでしょうか?」

「ここで話したくない」

 あまり触りたくなかったが、魔道具を手に取ると魔石の魔力を抜き取って置き直す。赤い魔力光が散っていく。

「なぜ監視をさせていた?」

「夕食を共にしていただくために。お姉様が見ておいででしたので素早くご準備するつもりでおりました。その確認だけは確実にしたいとおっしゃっていましたので、そのままにしておりました」

「のぞき見はよくないことは知っているよね?なら、それなら、まあいいか。シャローザ、今日は帰るね」

 店員に精算を頼むとカードで精算をして、店を出るとそのままどこかに行きたくなって歩き出す。

「メイドさん、1人にして。数日中には戻るから」

「しかし」

「ダメなら振り切るだけかな」

 ああいう魔道具に魔力が通っていると落ち着かないし、緊張する。嫌いなんだ。

 監視を許すって、いつでも公開してるって思っているのかな。じゃあ、秘密とかも教えなくてよかったのかも。だったら、いつ見られてもいいから。表面だけでいいなら、本当はもっと、僕が勝手に期待していただけだった?家族だから、深い関係になっていけると思っていたけど、違ったのかも知れない。それならそれでいいか。

 人の来ないところに行きたいな。王城の外に出ると、強そうな魔力を探して、そっちの方向へと歩いて行く。バックを持ってきていないな。数日ならなんとかなるね。そんなに強くはないか。魔法だとすぐに終わるから、剣で引き延ばして戦おう。魔法練習場になっている平原を抜けて、森が広がる場所まで来た。空が白む頃に仮眠を取る。

 森の入り口、起きると森の中に入っていく。徐々に木が高くなっていき、暗くなっていく。夜目が勝手に森の中を鮮明にしてくれる。今のところ強い魔獣の類いはいない。クリスタルの剣を手元に作り出すと木々の間を目的地へ歩いて行く。メイドさんは必死についてきている。入り口付近で待っててくれればいいんだけど。

 正確に真っ直ぐに歩いて行く。魔力を追っているので、向こうには気がついているはずなんだけど、こちらへ来る気はないようだった。来てくれると楽に終わって帰るつもりだったけど。周囲の魔物が動いている様子。

「早く来ないかな」

 巣になっていると思われる。上位種がいるはず。大きいのは何だろうね。木の間をすり抜けて4足歩行で駆け抜けてくる。ベアだね。

 下からの切り上げで、頭が割れると空間倉庫へ。即死なので収納される。わざと音を立てるように枝を踏みながら歩いて行くと、数匹むかってくるが相手にもならずに空間倉庫へ入っていく。いちいち残していくと、他の魔物の餌になられるのは困る。数は増えているものの、一瞬で収納されている。

 だいぶ倒したかな。即死収納で死体はないから、どのくらい倒したのかがわからない。さすがに大きいのがこちらに向かってくる。やっと動いてくれたか。普通のベアと大きさが1回り大きいベアが混じってくる。ウォーベアかな。囲まれるように扇状に迫ってくる。爪をかわしながら切りつけていくけど、さすがに大きいのは一太刀とはいかず、剣を何度か振るうことで倒していく。爪が剣に当たるとすぐに折れる。すぐに再構築するけど、もろい。振るえる程度の重さだとしかたないか。

 死体がある程度出来ると回収、戦うという流れが出来ていて、時間はかかるが倒していく。なかなかに凶暴でひくことがない。もう1つ上の上位種がいる可能性があるな。ウォーベアを片付けつつ、大きな魔力はこちらに向かってくる。この中ではひときわ大きい魔力を持っている。この群れを仕切っているのはこいつだろう。

 ウォーベアよりもさらに1回り大きい。さすがにまずいか。雄叫びを上げると突進してくる。あの巨体で突っ込まれると避けるしかなく、木を使ってかわす。かわして木に突っ込むと大きな幹の木がミシとひび割れる音がして、倒れていった。うわ、木の後ろに隠れているとか出来ない。そのまま後ろに倒れられると巻き込まれる。

 その間にウォーベアが突っ込んでくるので、キングベアに集中出来ない。ウォーベアをまず倒して、それからだ。考えるとすぐにウォーベアを殺すことに専念、キングが突っ込んでくるのでやりにくいが数を減らしてく。

 1対1になってこいつに集中出来る。急に立ち上がると大きな体をさらに大きく見せようと両手を挙げた。あれを受けると死んでしまう。振り下ろしてきた爪をかわそうとして、目測を誤った。腕がざっくりと裂けて、血が滴る。

 痛い。まだ負けてない。負けない。風で加速しながら剣を突き立てる。突き立てても構わずに襲ってくる。手の中には次の剣が握られている。爪に当たらないようにかわして突き刺す。次。ひるんでいるところにもう1本。次。爪を振るってくるのを避けるとその腕に差し込む。明らかに動きが悪くなっている。次、目に突き入れる。次は口を貫通させると地面に倒れ込む。回収を行うと森から出ていく。

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読んでくれてありがとうございます。

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