魔法なんとかの人達と5

「許してくれ。負けだ」

「練習なんだから、ちゃんと付き合ってくれないと困るよ。ほら、剣を取って」

「はははは」

 落ちた木刀を蹴って目の前に滑らせる。

「イヤだがな、ランスこそ、その手で続けるつもりか?」

 木刀を持っている手を見ると血が木に染みこんで、赤黒くなっている。やっちゃったかな。最近剣をこんなに持ってないから手の皮がむけてしまっている。

「夢中になっちゃった。これじゃあ、さすがに師匠でも止めてくるね。やめにしよう。あーあ、久しぶりに楽しかったのに」

 残念。終わりになっちゃった。エロイーズ父とおじいちゃんは険しい顔で僕らを見ている。剣を離すと痛みが襲ってくる。やり過ぎるとこれがあるからな。じわり、痛みが手全体を覆って、少し声が漏れ出す。

「ランス様、止血をしませんと血が落ちています」

 手からは止まることなく、滴が落ちていく。

「水とマジックバックを」

「すぐにご用意したします」

 その間にも抜け出ていく。興奮が冷めていくほどに、痛みが鮮明に襲ってくる。痛い。耐えられないほどではないかな。

「1つ聞いてもいいか?なぜそこまで頑張れるのか、魔法だけでも十分に強い。剣までやる必要はあるのか?」

「強くなりたい。強く。誰にも負けないように。大切な人を家族を守るために。全部落として、消えたから。2度と。次は僕が守れるように、負けないように。あのときは何もわからなかった。強くなるために、守るために。何も出来ないだけで無力だった。あんな思いは2度としたくない。したくないから、強くなるために守るために、教えをもらうことが出来た。教えてもらったことを生かしてさらに高く、もっともっと力が欲しい。欲しいなら求める。その道が必ずあるはずだから」

 誰も口を開かず夜の静けさが降りてきた。


 水とマジックバックを受け取ると水に手を突っ込んでザブザブして、痛いから声が出る。マジックバックからローポーションを片手ずつ垂らしていく。少し、皮の薄い場所もあるが訓練をしないならいいかな。息を整えて一息吐く。メイドさんにお礼を言って、さっきから黙っている魔法なんとかを見つめる。

「待たせたね。あのときの続きをしよう。ええとまずは何だっけ?ええとファイアーアローだったか。どのくらいにすればいいかな?5本だ。じゃあ、防いでね」

 瞬時に5本のファイアーアローを僕の周りへ出す。大きさはなるべく小さくしているけどね。見せかけは。

「じゃあ、いくね」

「その程度で」

 1本を顔の近くに通過させる。何かが割れる音がして、髪が燃えて地面をのたうち回る。

「その程度だから、次は当てるね」

「待ってくれ、話し合いに来たんだ。殺し合いじゃない」

「殺し合いじゃないよ。そいつに同じ魔法でやり返しているだけだよ。お返し。じゃあ、そいつは僕らを殺そうとしたと、そう認めるんだね?」

「認める。だから、賠償を行う。いくらで許してくる?」

「白金10枚で冒険者ギルドは許したけど、いくらがいいかな?冒険者ギルドはこれからも付き合いがあるから、それで許したけど。あとはないから倍の白金貨20枚で」

 全員が唖然として何もしゃべらない。

「それは法外な値段だ。場合によっては国が傾いてもおかしくない」

「なら滅びろ」

「なにをいって」

「次はこの国でファイアドラゴンたちを呼んで力比べをしよう。ブレスは魔法の1種だから魔法使いなら防げる。行かなくていいからよかったね。訓練が出来ていい。やるときはギルドに言っておくからよろしくね」

 火の矢を消して屋敷に向かって歩き出す。メイドさんは後ろをついてくる。

「待ってくれ、話し合いを、話を」

「僕は許せる金額を提示したよ。何を話すの?」

「将来は魔法師団に必ず入団出来るようにする」

「魔法師団の使える最高位の魔法は?」

「レベル8の水魔法だ」

 水だけ?レベル8?

「どうだ素晴らしいだろう?入団すればこの秘技に触れられるのだぞ」

「僕、生活魔法Lv.8だから、それを無詠唱出来る。他の属性も出来るから、その程度では入りたいと思わないよ。集団なんだからレベル10の高魔力型の魔法が使えないと入る意味ない。それでは国を守れないよ。全員やめたら?」

 口が開いたまま固まっている。

「明日の朝、王城に何がいいかな?ファイアーアローだったからアイスアローを落とそう、全力で止めてね。もちろんドラゴンもやるけど」

 屋敷の中に入って泊まっている部屋に戻り、イスに座る。途中で終わった訓練のせいで興奮したまま。手を握ったりして、感触を思い出している。少し皮の薄い部分を見て、数日は訓練しない方がいいか。夢中になりすぎた、ここまでなるのは本当に久しぶりでちょっと反省。

 訓練自体はうまくいった。満足。余韻に浸りながら背もたれに体を預けて、リラックスしていく。疲れたな。楽しかったけど。


「ランス様、ランス様」

 肩を揺すられて目を開けるといつものメイドさんが、寝間着のままで立っていた。どうしたのかな。

「すぐに着替えて参ります」

「え?うん?」

 寝ぼけたまま扉から入ってくる人達を見つめる。おじいちゃんとエロイーズ父、魔法なんとかの人か。それぞれが席に着く。

「眠いからお茶頂戴」

「はい」

 執事が返事をするとすぐに目の前にお茶を出してきた。熱いお茶を少し冷ましてから飲んでいくと、目が覚めてくる。

「それで何か用なの?こんな時間に。眠たいんだけど」

「どうすれば許してもらえるだろうかと考えていたんだが、お金は用意出来ないので他のもので代替出来ないだろうか?」

「だいたい?大きな部隊のこと?」

「かわりという意味の方だ」

 首をひねって考える。今のところお金以外のことは考えていない。

「この王都の魔法結界強度がどのくらいか、上から魔法を落として調べてみるとか?」

「どのくらいの」

「6ぐらいから更地になるまで強度を上げる。6でも魔法へ無防備な都市なら壊滅的な状態になると聞いたことがあるよ。森の中ぐらいしかやったことがなかったから、人工物にむかってやってみたかったんだ」

 口元がヒクヒクと動いている。

「他には何か、何か。家とかどうだろうか?用意出来るところは一等地になる。メイドもつけよう」

「ここにいるときは宿に泊まるから別にいらない。他になら知識か、古代の遺跡とかが欲しいかな」

「知識とはどんな知識が望みだ」

「魔法」

 おおと歓声を上げるが、おじいちゃんは渋い顔をしていた。

「ランス、それは禁書級の知識という意味でいいのか?」

「え?禁書って危ないから近づくなって師匠から聞いたけど」

「呪いのかかった物もある。世に出すことを禁止された秘術の類いが含まれておる。読むこと自体を一部の人物に絞った書物だ。本自体が危ないのも含まれておるがのう。知識も実現出来れば恐ろしいことも含まれている。それに普通の魔法師の有している知識、宮廷魔道師でも世界に名を知られるほどでなければ、教えることすら出来ぬだろうに。グリゴリイの知識を全て納めた上で、それ以上の知識というのは、禁書の類いしか思い浮かばんが、コールス殿はどうかのう」

 あくびをしながらお茶を飲みながら、眠気が少しずつ消えていることは感じている。

「グリゴリイの知識を有するとは説明してもらえますか?」

「何じゃったかの、小さい頃に危ないところを助けてもらった魔法使いがグリゴリイの知識を有しておって、それを納めたと聞いておる。魔法の知識には詳しくないので、それで納得しておるがのう。無詠唱で魔法を使える者故、そのくらいの知識を得ていてもおかしくないと思っておる」

「では、グリゴリイの弟子に教えを得たと。ほう、ならば我らが与えられる知識は禁書図書ぐらいしか、しかし、通るであろうか?他の貴族から厳しい圧がかかる」

「部下を切るか。しかし、すでに国のこととランスは認識している。ならば、危険性とドラゴンのことを話して通すしかあるまい。部下の家にはしっかりと話をつけよ。宮廷魔法師にも話を持っていくことで、手に余ると進言させよ。それで無理矢理にでもやるしかない。宮廷魔法師がうるさそうではあるが。ランス、その知識で宮廷魔法師を負かせるか?」

 魔法で倒していいならというと、知識でといわれて面倒くさいと答えた。紙とペンを用意してもらって、机の上に広げペンに特別なインクをつけ、円を描いて線を繋いで古代語で構成される魔方陣を作り始める。


「出来た」

 時間はかかったが結界魔法の魔方陣が出来た。この紙の上に構成するように調整して、考えて作った。

「魔方陣の外に出ている場所に魔力を流すよ」

 魔方陣につながるように線と円が出ていて、そこに魔力を流すと結界魔法が発動するという仕組みだ。両手を当てて魔力を流すと単層の結界が作られる。

「遊びで作っただけだから成功だね。もう1つの仕組みがきちんと動くかを確認しよう」

 さらに魔力を流すと結界がもう1層でて全部で2層になる。紙の上の結界魔法がきちんと作動するということを確認できたから、おじいちゃんに渡す。

「これを改良出来る人がいたらね」

「結界とはこんなに簡単にできるものなのか」

「覚えないといけないことは多いけど、できるようになれば誰でもできるよ」

「では、これは当日まで預かる。ワシは陛下への進言を取り付ける。コールス殿は根回しと部下の家への協力を数日中に終わらせて、謁見に」

 みんなが出て行ったあとに部屋にクリーンを使って、ベットに横になった。

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読んでくれてありがとうございます。

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