魔法なんとかの人達と2

 斜め前からエロイーズが睨んでくる。睨まれるようなことはしていないんだけどな。しばらくして、扉が開くとローブに身を包んで整ったひげを生やしたおっちゃんが入ってきた。ティワズは無精ひげで伸びると剃る感じだったなと思い出す。

「ようこそおいでくださいました、コールス魔法師団長殿、皆揃っているので席にどうぞ」

 軽く自己紹介をかわして、食事が運ばれる。依頼書の上に置いてよと皿を置いてもらう。2人は軍の話をしていた。テーブルマナーというものは教えられているので、いつもよりは気にするぐらいで食事を勧めていく。

「ランス君は慣れた様子だね」

「一通りの礼儀作法は教えてもらったよ。特に厳しかったけど。思い出したくない」

 グリじい、礼儀作法のたたき込みは異常だった。強く生きるのなら、貴族への礼儀作法で失礼があって死んではならないと。一通りと言っても。思い出さない思い出さない。

「それで私を呼び出したのは、その子どもの失礼に対してだったかな?うちの団員がそのような子に負けるとは考えられない。まだ祝福前に見えるが?」

「祝福前だよ。生活魔法ぐらいしか使えないけどね」

 ピクンと眉が跳ねた。

「私は一応、爵位をいただいている身なのだが?」

「貴族当主扱いだと冒険者ギルドから聞いてる」

「君自身が?せめて貴族の子どもだといった方が信じられる」

 視線が本部長に向かう。

「冒険者ギルドではこういうことの教育が出来ないから、使わないといつも言っているのですよ。わかっていただけますかグレンフェル殿」

「ランスはS級扱いの冒険者と聞いているから、間違いではないでしょう」

「S級扱いといえば、実力もなく勝手にランクだけが引き上げられるあれですかな?全く忌々しい制度だ。冒険者ギルドはどういうつもりで、ああいった制度の運用をしておられるのですか?」

 本部長は食事の手を止める。

「勇者の適応されているS級扱いは本来、お貴族様からの足止めをさせないための制度です。勇者連合国のお話し合いで決めておりますので、制度上の問題点があるのでしたら、国王様を通じて連合国の会議で発言していただくべきでしょう。下の者では制度の不備はわかりかねます。それに魔王を討ち取ればS級を正式に交付することになりますので、早く討伐していただけることを願うばかりです。勇者は王子様ですので、私よりも国にお勤めの方々のご教育次第ということでしょう」

 魔法師団長とエロイーズの父は顔をゆがませる。

「対してランス君に与えられたS級扱いは冒険者ギルド史上初となります。F級でありながらS級冒険者の能力を持ち、生活魔法を完全に使いこなすことの出来る希代の才能。S級冒険者としてもよいのですが、F級はどの級よりも優先されますので、S級扱いのF級という扱いになっております。ですので、祝福を受けましたら自動でS級に更新されます。ワイバーン単騎討伐は多少の疑念が残っておられる方がおられましたが、今回、ファイアドラゴンに勝ち、その爪を与えられたので疑念は完全に晴れました。ドラゴンが一晩で国を滅ぼすと言われているので、ランス君にも同等の力、いや、それ以上の力があることが証明されたのです。所属国の本部長として誇らしい限りです」

「ドラゴン?夢でも見ているのか本部長?」

 僕の前の皿の下にしている、依頼書を取り出す。

「ランス君、さすがに不敬です。これにはファイアドラゴン国の王印が許可を得て複写されているのです。絶対に上に物を置いてはいけない。いいね?」

「そんな大事な書類を食事前に出さないでよ。邪魔だよ」

「国際問題になりそうなことを平気な顔していわないんだ。次はしてはダメだよ。わかった?」

 うんと返事をしてから食事に戻る。依頼書のことを語っている。話が途切れた。

「そういえば、魔法師団の人、漏らした団員と続きをしたいんだけど、連れてきてくれる?死ぬ魔法を使われたんだ、お返しをしないとね。それともあれのかわりに戦ってくれる?わざと詠唱を待つとかはしないから、真面目にやるよ」

 あのときはドラゴンの話でうやむやになっちゃったからね。

「あの与太話と思った方が真実だったのか」

「信用のおける従者とエロイーズも証言していたのです。他に目撃者もありS級扱いともご説明しました。すぐに謝罪するべきだと。お伝えしました」

 魔法団の人は食事の手が止まった。

「ダメなら上の結界壊してあぶり出してもいいけど、ただ弱い結界だから崩壊するけどいいかな?たぶん、魔方陣も壊れると思うんだ。対策されていないと思うしね。どうするのがいいかな?そこの人をかわりにするのが1番いいと思うんだ。魔法は使えるんでしょう?」

「馬鹿にするなこ、ぞ。う」

 目の前に氷の槍を配置する。

「ランス君、国と戦うならさすがにギルド証は剥奪。他のギルドも同じだからね」

「戦った人っていないの?」

「いることにはいるが、さすがにギルドが強制討伐依頼をしたね。討伐されるまでに4カ国ぐらい甚大な被害を受けて、歴史的な事件になったよ」

「じっちゃんと戦えるかな?今の状態だとどうなのかな」

「さすがに動かないと思うが、ないわけじゃない」

 食事の手は止めていない。氷の槍は消しておく。

「この王都ごと消滅してしまえばわからないかな?」

「他の支部から連絡が行くと思うが?」

「誰がやったかはわからないでしょう?」

「そういわれると、そうかも知れないが、やっていいことではない」

「それで魔法師団の人、どこで戦う?塵になってしまえば、証拠はないもんね」

 一斉に顔が僕の方に向く。何かまずいこと言ったかな?

「ランス君、人は殺していないよね?」

「人は殺したことあるよ、知ってるでしょ?」

「塵にして殺したかと聞いてるんだ」

「それはまだしたことがないんだ。了承の上ならいいのかなって」

 本部長の顔が怖い。

「ランスって人を殺したことがあるの?どんなのをやったの?」

「エロイーズ様、申し訳ございません。ランス君の情報は誓約の上でしか、教えることは出来ません。ここにおられる方は無理だとは存じますが」

「ワシは老い先短いので構わんぞ。それに隠居しようと思ったところを引きずり出されるだけなのでな。面白そうじゃ。話を聞いている間に、思い直してもらえればさらによいがのう。ブレアよ、すまんが部屋を用意してくれんか?」

 使用人に命じて、防音の効いた部屋を用意される。3人で移動することになった。扉が閉まるとメイドさんが中に入っていた。

「メイドさんは知らない方がいい。出て行ってくれる?」

「お飲み物だけはご用意させてください」

 お茶を出されるとメイドさんはすぐに外へ出て、本部長が扉が閉まっているか確認する。カーテンを閉める。

「マクガヴァン様、国の規律に違反すると思うのですが」

「それは現役の者だけじゃ。指南役は相談も受けるので誓約を別でしても構わん。そこは指南役の判断に任せるということじゃな。それと防音はどうするんじゃ、このままでは筒抜けだのう。部屋だけの防音では信用はおけんしの」

「私も使えません。魔道具も用意していません」

「これは困ったのう」

 息を吐き出して、どうしたものかと考える。外にいるメイドさんに魔法が使えるか聞いてみた。

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読んでくれてありがとうございます。

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