魔法なんとかの人達と3

「一応は使えるのですが、多少の音を誤魔化す程度しか使えません」

「使えるのなら、うーん。でも誓約はしたくないよね?」

「それは構いません。お客様の秘密を守るのも仕事のうちですので」

「1人分、お茶とクッキーを追加でお願いしてもいい?」

 かしこまりましたと準備が出来るまで少しの間待つ。目の前にもう1つお茶が並ぶ。メイドさんにも座ってもらう。それから魔法を使ってもらいつつ、僕は小さないつものセットを作る。

「この小さいのは一体、何なのですか?とてもかわいらしいです」

「それじゃあ、僕の秘密を知らない者に伝えないことを誓約して欲しい」

「「ランスの秘密を知らない者に伝えないことを誓約する」」

 防音の魔法が一瞬で置き換わる。大きなままのウィットはイスの右側に、小さめに出てきたズワルトは膝の上に。妖精達は小さなお茶セットのところに行く。左側には本部長のイスで大きいままの空間がなかった。

「神の代行フェンリルの名において誓約を認める」

「女神の代行スコルの名において誓約を認める」

「妖精女王の名において誓約を認める」

 膝の上なのにちょうど目の前に頭の後ろと耳が見えていて、前が見えない。

「ズワルト、前が見えないよ」

 体を横たえると驚いて固まった2人が見えた。まあいいかとお茶に口をつける。

「お迎えが来たんかの?」

「来るなら天使だと思うよ?」

「死んだことのあるような口ぶりじゃな」

 ウィットはおじいちゃんを見ている。では僭越ながらと本部長が僕の諸々のことについて説明を行っていく。信じられんとばかりに質問が飛んでくる。

「ではソードスラッシュを相殺したのはスキルのおかげということか?」

「スキルは使ってないよ。今は封印されていて、使えない。ティワズが剣を振るうとソードスラッシュのようなのが出るから、戦うためにはまずそれをなんとかして近づかないといけなかったから、剣筋から避けて相殺してやっと打ち合える。僕もレベル10へなったときに同じ現象になったから、それが普通なんだよ」

「なんと、それではソードスラッシュの優位性が失われてしまう」

「失われることはないし、魔法よりは速く打てるのがいいと思うよ」

 生活魔法をちゃんと使っている人にあったことがないから、ほとんどの人は生活魔法を鍛えようとは思わないんだろうな。それでも生活魔法をもっとうまくなりたい気持ちは変わらない。今使える最高火力だしね。

「それはそうかもしれんが、ではランスだけが特別だと思っていいんじゃろうか?」

「わからないけど、僕も他の人が使っているところを見たことはないかな。今は剣を振ることが出来るからいいよ。魔法もコツコツ練習するしかないから、難しいよ」

 ズワルトをなでながら、気持ちいいな。

「ランスの使える生活魔法で、この王都を落とすとしたらどのくらいの時間がかかる?」

「それはどういうこと?殺さずにっていうのは難しいと思うけど」

「では、国軍を皆殺しにするとしてどのくらいの時間がかかるんじゃ?」

「スキルレベルって8以上の人がどのくらいいるかかな?」

「1人、私がそうだ」

「じゃあ、軍の戦う状態から1時間あればいけるかな。生き残るためのスキルがあるかどうかの問題だけど、ないなら10分かからないと思う。極大魔法ぐらいのを2発打てば死ぬと思って、そのくらいかな。もっと練度が高いことを想定していたから。剣術で今の僕をすぐに倒せるぐらいと思っていたんだけど、そうでもなかったから。ただの技術だけなら力押しでなんとでも出来るはずなんだけどね」

 おじいちゃんは考え込む。メイドさんと目が合う。

「質問してもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「人を殺したことがあるとのことでしたが、野盗を殺す程度のことと考えて間違いないでしょうか?」

「そうだね。野盗を殺したことがあるよ。盗賊?どっちでも同じか」

 メイドさんは納得した顔で頷いている。横から本部長が声を出した。

「ランス君、あれを野盗や盗賊の類いと同じでは困る。夕暮れの血を壊滅させたのは君だろう。あれは犯罪集団だ。それに組織として連携や仕事の割り振りもキチンとされていた。そうでなければ、国軍が負けるようなことはない。仮にも軍隊を退けた集団なんだから、裏を返せば国軍も退けられるんだ」

「あれがごろつきの集まりだって、ティワズがいってたよ」

「規模が違いすぎる。十数人の集まりじゃないんだ。普通は十数人から数人程度のことを指す言葉だよ。何千人で構成されている盗賊団をただの野盗などと一緒に扱わないでくれ。概念がおかしくなる」

 本部長が興奮気味にしゃべる。そうなのか。お茶を飲んでズワルトをなでる。落ち着く。

「ゆ、夕暮れの血といったか?」

「マクガヴァン様、どうされたのですか?」

「あれを殲滅したのはS級冒険者ティワズだったはず。ランスだったと?それは本当なのか?」

「はい、当時はギルド長をしておりましたが、ティワズが直接訪ねてきて、ランス君が拠点に入っていきました。当時の私も目を疑いましたが、終わってみればこれ以上ない成果で終わりました。捕虜になっていた冒険者や商人、売りに出されそうだった女性や子ども達。夕暮れの血に所属した犯罪者達は残らず戦闘不能。主犯格は戦闘不能にされて渡されました。そのあとは周知の通り、ランス君の名前も聞くことなくティワズが連れて帰ってしまったので、ティワズのしたことにして、助けられた者達には誓約を課してから解放しました。名前もわからない子のことが探されるのもまずいと思い、ティワズがしたことにしたのです。それにティワズでしたら、S級冒険者で自由に活動していたので帰ったと言っても信じてもらえるのです。それよりも幼い子が殲滅したなど説明する方が馬鹿げていますから」

 ふむふむと話を聞いている2人。真剣にしているので邪魔にならないようにウィットもなでてみる。大きいとふっさふっさ具合がよりよい。真っ白い毛の中に手を入れて、なでている。

「それはどんな魔法を使ったか、わかるのかの?」

 おじいちゃんは少し落ち着いてしゃべっている。

「魔法?いえ、普通の剣術でした。その辺にある枝をティワズが拾って渡していたのを見ていましたので。魔法は禁止されていました。ティワズが試験だともいってましたね。ちょうどいいと」

「試験?軍を投入も落とせなかった、あの夕暮れの血が魔法禁止の上ただの枝で?信じがたい。それだけで倒したと?そうか、剣術のレベル10になると出るというので倒していったんじゃな。そうか。その戦闘能力ならどこかの国が欲しがってもおかしくないのう」

「それは大丈夫でしょう。S級冒険者は国やギルドにとって破格の価値を持っている、ですのでギルドカードを持っている限り、ギルドからの保護対象となります。変にこじらせられると困りますが、だいたいS級冒険者のことは大目に見てくれますから」

 無理矢理出すように笑う本部長。

「誰か扉の前におる」

 メイドさんは素早く扉の前に立つと少しだけ扉を開けた。

「どういったご用件でしょうか?」

「話が少しでも聞こえないかと思って。秘密が知りたいんだよ。中に入れてくれない?」

「誓約をされるのでしたら、よろしいかと存じます。しかし、警備隊長が誓約をすることは出来ません。警備隊は国軍と同一とされておられますので、国法に抵触します。婚約も決まっていないエロイーズお嬢様は、職を放棄されるということでお間違いないですか?」

「主人の命令でも?」

「職を辞するのなら、どうぞ。お辞めにならないのなら、お帰りください。強引に入ればマクガヴァン先生とランス様の怒りに触れて、誓約をすることになりますので、覚悟の上でお入りください」

 そっと扉が閉められる。メイドさんは座り直した。

「さっきの娘、扉の前でぶち破ろうとしておるな。所詮聞く覚悟もない、知りたがりであろう。扉は止めておく、あとで仕置きはランスとそこの剣士、しっかりと教育しておけ」

 そういって白い毛並みをなびかせながら扉の前に座る。結界を出したね。これなら何人たりとも入れない。

 そのあとも2人からの質問に答えたり、教えたりで時間がすぎていった。


「聞きたいことは全部聞けました。フェンリル様、スコル様、妖精女王様感謝いたします。よい冥土の土産になりました」

 おじいちゃんは立ち上がると深々と頭を下げた。メイドさんもそれに続く。

「うむ、では」

 全員が一斉に消えて、結界も消えていった。

「チャージ、チャージ、チャージ」

 エロイーズの声が響いてくる。外で一体何をしているのかな?メイドさんは扉を開けようと立ち上がる。その瞬間。

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