ファイアドラゴンと戦う3

 大きい。すっごく大きかった。

「何用か、人間よ。幼体に見えるがエルフが混じっているのか?」

「純粋な人間だよ」

「迷い込んだのならすぐさま引き返せ。運良くここまでたどり着いたと言えよう。その運に免じて、その辺に落ちているものを持って帰ってよい。そして、帰りは襲わせないと約束しよう」

「迷い込んだんじゃなくて、力を試しに来たんだ。下の一族っていうのかな。倒して上がってきたから、運良くたどり着いてはないよ」

 その後ろから、さらに大きなドラゴンが羽ばたいて出てきた。

「力を試すとな。その意気やよし、久方ぶりの人間よ。幼き故の向こう見ず。ファイアドラゴンの族長である我が全力を持って、受けてやろう。来るがよい」

 族長ドラゴンの前がさあっと割れるように開いて向かい合う。高速で魔力を練り上げて、氷に変換をしていく。

 山の上は火の土がドロドロとしていて、熱い熱気が漂っているのに出した氷から霜が出来ている。弾けるように魔力が爆ぜた。魔力の操作がおろそかになって、込めるはずの一部が広がるように輝く氷の粒になって宙に消える。

「来ないのなら、こちらから行くぞ」


 グオオウオウオ


 濃密な炎に変換された魔力。一直線に向かってくる。魔力を充填している氷に当たって、溶かすのと氷になるのがごちゃ混ぜになっているけど、氷は消えずにブレスを受け止めていた。じりじりと氷が溶けていっている。やばい。やばい、やばいやばい。魔力の変換が追いつかない。

「ん」

 氷に手を当てると直接魔力を送り込んで、手ごと氷に変化していく。負けない。全力。精一杯、やれ、まだまだ。もっと。もっともっと。もっと早く。魔力の変換に集中して氷を作り出していく。もっとはやく。

 水蒸気と氷が炎の光を拡散させて光り輝く。

 もっと、速く変換、まだまだ、まだ、負けてない!

 目の前には氷の塊が作り出されていた。凍り付いた手の突き刺さった、氷の塊。

「いけーーーーーーーーーーー!」

 進む方角を決める。押し出す。パキンと澄んだ音が響いて、氷の塊が前へと押し出される。ブレスが溶かそうとさらに強大になり、氷を溶かしていく。氷から水蒸気を直接作り出しながら、ブレスに向かって進んでいく。

「いけーーーー!」

 叫ぶ声に応えるようにブレスに負けないように進んでいく。クラッとして、風が操れなく、あ、力が抜ける。

 地面に向かって落ちていく。手を犠牲に、ないや。全力を出した。本当に全力。

「満足したのか?」

 ふさっと黒い毛が目の前に見える。

「うん」

「ならばよい。ほれ、治したぞ。結果は自分の目で確かめよ」

 手は一瞬で治り、背中で座り直して、氷の塊がブレスを押し込んでいく。負けじとブレスの魔力量も上がっている。それでも氷の塊が押し込んでいってる。いけ。


 いけ


 いけ


 いけ!


 いっけ!


 いけえ!


 ごんっ


 氷の塊に当たったファイアドラゴンの巨体が押し込まれて倒れ込む。宙から地面に叩きつけられると同時に氷は割れて砕け散る。倒れ込んでしばらく動かなかったが、いきなり浮き上がってきた。

「我が力比べで負けただと。見くびりはしたが油断はしなかった。我の負けだ。ああ、負けるなどと、この体好きにするがよい」

「魔力切れで動けないから、町まで連れて行って欲しい」

「そんなことはいつでもしてやろう。他に何かないのか?」

「力を出して戦えたから満足だよ。鱗とかいるならいるときに取りに来る」

 体がだるい。魔力切れで動くのがしんどい。

「我を負かしたのにそんなことでよいとは、欲まみれの人間とは違うようだ。純粋に力だけを比べに来たのか。一族の者も死んでおらん。ならば、我らの友として認めよう。これからはいつでも遊びに来るがよい。名は何という?」

「ランス」

「ランスをファイアドラゴンの友として認めよう。よいな皆の者」

 大音量の咆哮が響き渡る。う、うるさい。耳や頭がじんじんする。ぐったりして動けないから、体に響いてくる。

「ならば、街まで連れて行こう」

 爪の先に服を引っかけられると飛び立った。山から空へ飛び凄い風の中を降りていくとあっという間に街の入り口。散り散りに逃げ惑う人々。

「人の街に降りるのは久方ぶりよ。用もないからのう」

 魔法の詠唱が聞こえる。巨体だけど丁寧に地面に置かれた。地面からゆっくりと立ち上がって、ふらふらする頭を抱えながら唸る。

「そうじゃ、爪をやっておこう。あと鱗を少し。我に勝って何もないではいかん。いつでも力比べに来るがよい。歓迎する、我らが友ランス。しかし、他の小物がうるさい。うっとしいの。しかたない。帰るとしよう。名残惜しいが、また来るがいい」

 爪を1本切り離すと目の前に置かれた。あと何枚か鱗を置いていった。翼を広げるとひと羽ばたきで天高く飛び上がり山の方へと飛んでいく。次に行くのは変換の速度を上げてからだね。爪にもたれかかると座り込む。鱗はマジックバックに無理矢理突っ込んだ。ちょっとはみ出てるけど。疲れた。動きたくない。魔力切れになるとふらふらして気持ち悪いのが続く。全く動けないことはないけど、気分が滅入るぐらいはぐらんぐらんした感じが続くので、あんまり続いて欲しくない。出来れば寝てしまいたかった。周りがうるさくて、警戒をしなくてはならない。気分が悪くなくなるぐらい魔力を回復させてから動こう。

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読んでくれてありがとうございます。

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