王都滞在11
「任された」
門番の人に任せて、屋敷の方へ帰って行く。後から来たエロイーズの馬車に乗せられた。
「本部長が直接来るなんて、少しばかり驚いたわい。本当に強いようじゃの」
「知り合いだったの。修行中にここの国で師匠と来たからね。本当の僕を知る1人でもあるのかな。ファイアドラゴンの許可が出てよかった」
「そうか。しかし、国を滅ぼすともいわれるドラゴンに戦いを挑むとは末恐ろしいの」
「S級冒険者は対国家戦が出来るぐらいの戦力って聞いてるけど、あとはどっちが上か対決だね。楽しみだよ。本気で戦えるの」
どのくらいの力でやればいいのか。通じるのかが問題だね。とにかくぶつかればいいかな。
「そこまでの人材とは聞いていないぞ」
「そんなの知らない人たちに教える必要も教える気もない。知る必要のある人達には教えている。エロイーズ達には知る必要のないことだしね」
「なぜだ」
「軍人が知る必要があるの?知る必要のあるのは国の上の人達だけでいいんじゃないかな。知るにも誓約が必要だけどね」
全部を教える必要はないはずだよ。辺境伯とは敵対関係を維持し続けているから、今度はその力を振るうぞと教えた。
「その力の一端を垣間見えるのか?」
「教えないと言ったよね?」
「そこを曲げて教えて欲しい」
「だから、無理だよ。イヤ。せめて、魔法を木刀で切れるようになってから、僕と練習出来たらね」
半分も力を出せばエロイーズが押し負けると思っている。魔力量の問題もあるからね。エロイーズは不満げに睨んでくる。
「教えないからね。だって、本部長は元々知っていたんだし、冒険者ギルドに所属していたから、活動に必要な一部の人は知ることになったけどね」
「知りたい。そんなに秘密にされると知りたい」
「だから教えないって。エロイーズは知らないほうがいい。命と引き換えに教えろって言われたらどうするの?教えるの?僕の誓約は代償を何も決めていないよ?」
「それでも誓約をするほどのことか。完全に破ったときは誓約が魂を壊す。命が途切れ神の元へとは誘われることはない。それでも私は知りたいと思ってしまう」
ため息をついて、真剣なエロイーズを見つめる。
「知らないなら、それ以上追求されることはないよね?それに祝福後なら知られても構わないかなとは思っているんだ。大人になったら教えてあげるよ」
「しかし、しかしだな」
「やめんかエロイーズ。国に知られてはまずいことがあるのだろう。国に所属している我らが聞くのは国に知られるのと同じこと。これ以上は詮索するでない。命を無駄にする行為を見過ごせないのでな。隊長という立場を忘れるのではない」
ゆっくりと諭すように言葉を伝えている。それに呼応したエロイーズは首を縦に振った。屋敷に着くとシャローザが待っていた。前よりもいい服を着ている。新しく買ったのかな?
「新しい服だね。よく似合っているよ」
嬉しそうにはにかみながら顔を見ると白粉を塗っている。
「シャローザ、お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「何でしょうか?」
「白粉をつけているよね?」
「はい、どうですか?お誘いももらいました」
きちんと顔を向けてくれている。嬉しそうに笑う顔がキラキラして見える。
「玄関先でいちゃつかないでくれ。客室を用意してあるはずだ。そっちでしてくれないか?」
泊まっている部屋に4人ではいると、シャローザに白粉の話をする。
「その白いのが鑑定出来るわけじゃないから、別のを使っている可能性があるけど鉛白が使われていると思う。鉛白自体が毒なんだ。使っている時間が長いと不調が出てくるはずだから、使わないで欲しい」
「毒?ですが毒ならば皆さんはなぜ使っているのでしょうか?ランス様本当なんでしょうか?」
「エロイーズにやめるようにいったけど、使わないといけないといっていたよ。毒だとわかったとしても使うようだった」
いっている意味がないけど、忠告はしたから。
「使わなくても肌もキレイになってきているよ?シャローザには使って欲しくない」
「もっとキレイになって、ランス様に愛してもらいたいのです」
「なくても、シャローザのことは思っているし、考えているよ。これから一緒にいるんだから思い出を作っていこう。想いを重ねて、記憶を重ねていくのが一緒にいるってことなんだと思うよ」
「キレイになるのは反対なのですか?」
「反対じゃない。だけど、中毒になるのは見たくない。僕は薬師なんだから、危ない物はさすがにやめて欲しい。おかしくなる前に絶対にやめてもらう。絶対にだ」
魔草のように効果があって、使いすぎると中毒になるのなら管理すればなんとか出来るだろうけど、鉛白を含む白粉はいい効果が見つからなかった。使うだけダメってこと。
「どうして私だけダメなのですか。他の人は使うのが普通なのに。他の方に誘われたヤキモチですか?」
「それが普通?苦しみよりも美しさを取るの?ヤキモチ。ちょっとわからない感情だけど」
「美しければ、ランス様にもっと見てもらえるはずです」
「どうして?呪いがあってもなくても僕はシャローザを見ているよ。健康的になっているのもわかっている。目のクマもとれている、肌がキレイになっていて、髪もつやを取り戻している。それなのに台無しになるよ?」
困ったような、戸惑うように口を開く。
「どうして、キレイになることに反対なのですか?」
「反対じゃない。その白粉を使わないで欲しいんだ。いろんな文献を調べてみたけど、1番酷くて死ぬ。脱力や便秘に腹痛。痙攣に昏睡。苦しみたいようだけど、白粉で呪いよりも酷いことになるのを僕は絶対に見たくない」
シャローザを真っ直ぐに見つめて目を離さない。
「ですけど、キレイだと。キレイになれば、もっともっと」
「普通にすごせるようにして欲しい。呪いの時は違ったはずだ。あの時に戻りたいの?」
「・・・・・・あの時のようなことになるのですか?」
「そうだよ。だんだんと蝕まれる。シャローザ、もっと一緒にいたいならそうしよう。僕にもやりたいことはある。君にもあるよね?やりたいことがあればお互いに伝えよう?それからどうするか決めればいいと思う。一緒にいるのはイヤ?」
もしかしたら本当は家族になることが。
「お忙しそうにされていたので、邪魔にならないかと思って魔力の補給の時だけお会いしようと思っていました。よろしいのですか?」
「いいよ。一緒に動くことになって、面白くないかも知れないけど。一緒にいることは歓迎だよ」
「では明日はどうなのですか?」
「それで少し王都を離れる用事が出来たから、伝えておきたくて。魔力の補充をしておこうって思ったんだ。魔力が切れるまでには帰ってくるよ。それと白粉は禁止だからね。帰ったら別の物を作るつもりでいるから、それまで待ってて欲しい」
「わ、わかりました」
帰ったら連絡するねと伝えると寂しそうにこちらを見つめる。ごめんね、わがままで。手を握ると握り返してくる。頭をなでて、嬉しそうに口がほころんでいた。
「急に決めてしまってごめんね。明日には出発する。それじゃあ、帰ったらどこか行こうね。王都のことはわからないから、いいところがあったら一緒に行ってみよう」
「はい、それまでに調べておきます」
魔力の補給が終わって、馬車を見送る。どういうところに行きたいのかとかいろいろ聞かれた。美味しいものが食べたいなと言っておいた。必要なことは終わらせたかな。ベットに入って眠りについた。
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読んでくれてありがとうございます。
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