王都滞在9

 供物を捧げていた道が、今もあるというのなら通っていくけど。ないなら道のない登山になるから登るための装備だけは、揃えておかないといけない。もう1度冒険者ギルドに戻るとレスタに、登山の道具の売り場を聞く。前に行った武器屋にあるだろうとのことだったので、すぐに向かった。手続きにどの程度の日数がかかるのかわからないけど、準備だけはしておこう。同じように中に入って、どこに登山道具があるのか探している。武器も種類がたくさんあるよね。

「どこにあるんだろう?」

「坊や、何を探しているんだ?お使いなんて偉いね」

 お姉さんに話しかけられる。格好からして冒険者だろう。

「登山の道具を探しに来たんだ。見回ってるんだけど見つけられなくて」

「こっちにあるよ。合う大きさの用品があるのかわからないけど」

 案内された先には大人用の登山靴や縄にトンカチのようなものなんかが置いてあった。自分が持つにしては大きいかな。

「オヤジさん、子供用なんてないよね?」

「うん?どうしたんだ?」

 店番をしていたやや背の低めの店主がやってくる。

「早速来てくれたのか。それで、どんなところに行くのに登山道具を買うんだ?」

「ファイアドラゴンと戦うために山を登らないといけないから、靴は最低いるよね?」

「待って、ファイアドラゴンってあのファイアドラゴン?どういうことなの、坊や」

 ファイアドラゴンはファイアドラゴン以外にいるのかな?

「話が出来ると言われている魔物だったと思うけど」

「親が行くの?」

「両親は死んでいないよ」

「坊やが行くの?」

 そうだよとどんなのがいいのか、店主に聞いてみる。

「最低でも炎耐性の一式じゃないと、服なんて燃えちまうから裸になるな。その前に、どうやって炎を防ぐんだ?物が使えないと困るだろう、そうだな、最低限の燃えない衣服と靴にマジックバックも燃えるかもしれない。炎耐性の袋で覆うっていう方法もあるか。しかし、どんな手を使っていくのかが気になるところだな」

「炎を防ぐのは普通に氷の魔法。それから、冒険者ギルドを通じて許可とかはもらえるんじゃないの?ギルドには話したから許可は下りると思うよ」

「いいナイフを持っていたが、自分で取ったとかか?」

「あれは師匠にもらったものだよ」

 なるほどなと店主は納得。冒険者のお姉さんは話について行けていない。

「祝福前だよね?祝福もらえてる童顔って可能性は否定出来ないけど」

「祝福前だよ。生活魔法が使えるから、氷を出せるよ」

 目の前で手のひらを開いて、氷の塊を出す。自分の手につく前に消えてなくしておく。

「氷とはすげーじゃねえか、ならそんなに耐久性は必要ないのか?燃え残るというぐらいならそんなに高くないだろうが、ファイアドラゴンの炎に耐えるとなると値が張るぞ。買えるのか?」

「高いなら、服と靴、マジックバック入れだけは耐えられればいいかな。他はマジックバックに入れておけばいいから。あと、ファイアドラゴンってどのくらいの炎か知ってる?どの本も曖昧だから、正確な威力が知りたいんだけど、誰かしらないかな?」

「知らねえだろうな。知っていればファイアドラゴンと戦ったということだ。下っ端と戦うならあるかも知れないが、親玉は都市を滅するといわれているんだぞ。そのくらいの威力だ、戦いを挑むとか狂人かバカか物を知らない阿呆か。行くような装備が欲しいだけだろう?こっちは売れれば構わない」

 ウソは何も言ってないけど、買えればいいと思っている。だんだんと信じてもらえないってことがわかってきた。

「炎耐性の袋と服だな。靴もいるか。クランポンはつけ外しがしやすいほうがいいかもな。そうだな、これと靴は炎耐性がついているが、普通に使えるもんだ。今使ってるヤツの予備として持っていてもいいし、使っても悪くないぞ。山道が歩きやすいぞ」

 何の皮だろうか?光沢感が出ている。クランポンは金属のトゲトゲがついたもので、靴に装着して滑り止めにすると説明された。

「行ってみたい装備を買いたかっただけなのね。安心した」

「軽く火を当ててみてもいい?本気じゃないから」

「おう、火事にならん程度ならいいぞ」

 許可をもらったので服に軽く火を当てると燃えなくてそのまま消えた。おお、炎耐性だ。袋も同様に消えた。靴も試すが消えて、燃えない。

「強すぎる炎だと消えないかも知れないが、燃えないはずだ」

 ちゃんとした装備のようで安心。どこまで保つかわからないけど、あと杖をすすめられた。一緒に購入する。靴はすぐに履いてみて、紐や履き心地を調整する。クランポンはつけ外しの練習を教えてもらいながらやった。服も調整はざっくりとしてくれた。準備は一通り終わった。

「お姉さんがついて行ってあげようか?行き帰りの護衛ぐらいは出来ると思うの」

「いらないかな。やっぱり、こういうのはついてくる人が同等の人じゃないと無理だよ。何も考えていないわけじゃないけど、氷を使えないときついんじゃないかなと思うよ」

 一撃でやられてしまう。

「途中で戻って全然いいの。縄張りまで行くと本当に危ないわよ」

「縄張りの中にしかドラゴンはいないはずだけど。用事は終わったから帰るね」

「おう、気をつけてな」

 何をどう思ったのか冒険者は後ろをついてくる。外で待っていたメイドさんはすぐに隣に並んでくる。

「お嬢様からの伝言です。なんとかして欲しいとのことです。ランス様、お嬢様の依頼を受けることは出来ないのでしょうか?」

「貴族の依頼を個人的に受けることは出来ないよ。辺境伯や公爵の依頼も冒険者ギルドを通じたもの。でなければ、個人で依頼を受けてくれるかもって思われると困る。例えるとどんな感じなのかな?エロイーズが国軍の1人1人から交際の申し込みを直接される感じかな。1人いいというのならその他全員も同じってこと。じゃあ、収拾は誰がつけるの?軍団長?この世界の収拾をつける人は誰?S級ってこと、わかってる?国家からの依頼が直接来るようなそんなところにいるのに、個人として受けることは出来ないな。メイドさんは連合国の依頼を直接頼まれて断れる?」

「無理です」

「僕は断れるんだよ。ギルドを通していないからって。だから、ギルドの依頼以外は受けられないんだ」

 並んでいたけど、後ろに下がってついてくる。理解してくれてたのかな。泊まるところに着くと入り口でエロイーズが待ち構えていた。

「ずいぶんと冷たいじゃないか」

「何のこと?」

「依頼を受けてくれてもいいんじゃないのか?」

「ギルドを通さない依頼は、国王であったとしても受けられない。それをやっちゃうとどうなるかわかる?」

 1回ぐらいといわれた。

「じゃあ、1回ぐらい国を滅ぼしてと言われても、最悪受けないといけなくなるけど、エロイーズは連合国が依頼してきたらどうするの?」

「そんなことがあるわけないだろう」

「あるかも知れないから、言ってるんだけど。S級冒険者なんだよ?国からの依頼があるんだから、その辺はどうするの?」

「それはうまく、誤魔化してだな」

 答えになっていないので、ジッとエロイーズを見つめる。

「な、なんだ」

「ちゃんとした答えを言ってくれないと。そんなことが出来るような相手なの?真面目に答えて」

「依頼を断ることは出来るはずだ。気に入らないとか、S級冒険者ならそういう理由も通る。国相手であっても変わらないのがS級冒険者だ。それによって、入国禁止になったとか聞いた。その冒険者にはどうでもよかったみたいだけどな」

 住んでいる国を入国禁止にされたら困る。関係のない国だったら、たしかにそういうことが出来る知れないけど、終わってから帰れなくなると困る。

「納得出来たか?」

「出来ないかな。じゃあ、別の国で暮らせってこと?」

「別の国に行かなくてもいいだろう。今は大丈夫だ」

「受けないよ」

 何か言いかけたが、中に入っていく。面倒だから国とかそういうの。ギルドのように国を超えて活動しているから、国に縛られることもない。国とうまくやってて、どこに行ってもあるから便利なんだけどね。

 メイドさんに部屋で食事を取りたいとわがままを言って、置いてあるイスに腰かける。わかってくれるといいんだけど。

「すねてしまったのか?」

 イスの上に顎を乗せて窓の外を眺めていた。ファイアドラゴンはどんな攻撃をしてくるんだろう。爪や牙が当たったら即死と思ったほうがいいかな。防具は耐火のみで衝撃には弱い。使ってくる炎は僕の氷で対抗出来るのかな?威力が

「ランス、ランス。どうした。考えことか?」

「う、ん、あ、うん。考え事してた」

 揺すられて初めてエロイーズが部屋にいることを知った。ファイアドラゴンに気を取られすぎていた。

「お願いなんだが、朝練の時に一緒に剣を見てもらえないだろうか?」

「新しく買うの?」

「稽古をつけてくれていただろう」

「気まぐれのことか。ちょっとね、冒険者ギルドからの知らせを待ってて、それが終わったあとならいいよ。行きたいところがあって。それまでは魔法の練習に集中しようと思ってる」

 朝練に付き合ってくれるのならと引き下がっていった。同じ体勢に戻ろうとすると夕食を運んできてくれたので、先に食事をもらう。窓の外が暗くなってすぐに寝た。

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読んでくれてありがとうございます。

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