王都滞在8
久しぶりに王都外に出て、採集とかしよう。あれ?振り返るとメイドさんが後ろをついてきていた。いつの間に。
「えっと、メイドさん、外に採集に行くからついてこないほうがいいよ」
「多少の武術の心得はありますので、近郊でしたら問題ありません」
「何かあっても困るから、城壁内にいて欲しい」
「お気になさらず」
こっちが困るんだけど。なんか強いのが出てきたときに困る。多少の武術の心得って何?何が使えるの?
メイドさんは普通に後ろをついてきて、外に出てきた。王都に隣接する森ではなく、ちょっと離れた場所で採集を行う。出てきても狼ぐらいだとは思うけど。
森の中を歩き回りながら採集を続けていく。魔物が出ないので採集に集中出来るね。今日は狩りをしないので、薬草を収納しつつ採集に力を注いでいく。
「割と遠くまで来ちゃった。帰らないと」
「距離がわかるのでございますか?」
「移動した距離とだいたいの方角で。今から帰ろう。日が高いうちに戻れるよ」
最近、戦っていない気がする。本気で戦えない。戦えるほどの敵と戦えるほどの人がいない。殺し合いでなくてもいい。本気で戦いたい。だけど、戦えるほどの敵がいない。どうしたらいい?どうすれば。
「どこかに戦える場所はないのかな」
「どうされましたか、ランス様」
「本気で戦いたくなってきた。相手を探す」
「先生やご主人、お坊ちゃま方やお嬢様ではないのでしょうか?」
「僕の本気は魔法だから、剣のお遊びじゃないの」
師匠級ならば魔法対武技でやれるけど、それ以下だと1撃ももたないと思う。王都内に入ると冒険者ギルドに直行。レスタの受付に行く。
「本気で戦いたい。戦える敵か相手が欲しい。戦わせて。なんか、むずむずするんだ。こう、戦いたくて戦いたくてさあ。ずっと、抑えないとどうにもならないから、どこか戦える敵を」
「お前に合うような敵が王都周辺にいるわけないだろう。輝く太陽を封殺するような敵だとS級、本気のS級か。本部長を通さないと依頼自体がない。そこまでのは、国内の群衆突撃でも、もの足りんだろう。先に上がっていろ、下から話は伝えておく」
階段を上ってギルド長の部屋からエロイーズ達が出てくるところだった。
「ちょうどよかった、ランス、戦闘系のクエスト発注が出来なくて困っていたところだ。本人がよいと言えばいいのだろう?」
「うちを介さない依頼ということならば、自己責任ですので構いません」
「すまないが先生のところへ来てもらえないだろうか?」
すっとエロイーズに目を向ける。
「最近、足りないから本気を出せる、ワイバーンでも足りない。魔物でも人でもいい。本気で戦える相手が欲しい」
「ランス?」
「先生とやらはレベルが上がったの?上がっていないのなら、相手にならない」
「な、マクガヴァン先生を馬鹿にするのか?」
目線を切るとそのまま上に上がっていった。メイドは立ち止まって、エロイーズに引き留められる。
「ランスはどうしたのだ?」
「本気で戦いたいとおっしゃっておられました。抑えて戦うのではなく、本気で戦いたいと。何か思うことがあったのではないでしょうか?」
「いきなり本気で戦うとはなんだ?我々では相手にもならないということなのか」
「下の受付の方の話では国内の群衆突撃でも足りないだろうとおっしゃっておいででした」
階段を上がりきると本部長室に入っていく。慌てたレスタが入ってきて説明する。
「どうしたんだいランス君。今までは人に合わせてうまく、やっていけていると思っていたんだが、本気で戦いとはどういうことだい?」
「全力を。全力を出して戦いたい。相手に合わせて戦うのが、弱すぎて大変。疲れた。それなりので強すぎるとダメだし、何も考えずに本気で戦いたいんだよ。戦略もなくひたすら全力で戦える、そういう戦いがしたい」
「戦った末に死んでしまったのでは、エインヘニャル様の見立てが疑われてしまう。相手になりそうなのはティワズぐらいしか思いつかない。他のS級はどこにいるのか、生きているのか死んでいるのかすらわからない。他となると、4竜のどれか。S級以上の設定だが実質S級では返り討ちにされるかもしれん。ダンジョンのいくつか。S級が本気でかかるとすると、それぐらいになるか」
「ティワズは近いの?」
「うちは南西の国になるが、東の方にいるようだ。無慈悲の絶望に行くのならそっちに行く。時間がかかりすぎる。近場でということならソイルドラゴンかファイアドラゴンになる。ダンジョンというのなら、貴公子の迷宮だ」
ドラゴンか迷宮。本部長は地図を持ってきて、机の上で広げ説明してくれている。
「迷宮は時間がかかるよね?」
「そうだな、S級の迷宮なら最低半年ぐらい。低級迷宮でも最下層までは1週間はかかる。貴公子の迷宮に行くのか?」
「それなら、ファイアドラゴンと戦ってくる」
「ソイルドラゴンにしないか?ファイアドラゴンは攻撃性が高く、話も通じない」
「時間が省けて助かる」
何も言わずに戦いが始まるのが普通だと思う。人ではなく、魔物でもっとも強いとされている。その中でも特に攻撃的なファイアドラゴン。戦う相手にはもってこいだ。
「真剣に戦うというのならすぐに手配を開始しよう」
「お願い」
手続きが色々あるというので、数日待つように言われた。廊下に出るとメイドさんが待っていた。
「エロイーズお嬢様より伝言を預かりました。迎えに行く、とのことです」
「誰を?貴族からの依頼はこなすけど、直接の交渉には応じないよ。冒険者ギルドに依頼が通せないのなら、僕は応じない。ギルドからなら何か問題が起こってもなんとかしてくれる。ギルドがいないなら、問題が起こって困るのは僕なんだ。それを絶対になんとか出来るというなら受けてもいいけど、出来るの?国や連合国、ギルド、S級ってそういう人達も相手にするよね?」
「そこまでとは考えが及んでおりませんでした」
「公爵の依頼は受けたことがあるけど、そこからお願いされたらどうするの?断れるんだよね?」
メイドさんは口を固く結んで、答えを口にしなかった。そういうものから自分の身を守らないといけないから、ギルドに所属している。それを通さないというのなら、自分で交渉しないといけない。そんなの無理だし、それに時間が取られるのは嫌だ。
ギルドから出ると目の前にエロイーズの家の馬車が止まっていた。
「ランス、さあ乗ってくれ。話は聞いているはずだ」
「ギルドの依頼以外は受けない」
「個人的なお願いだ。頼む」
受けられないとだけ告げて、大通りを歩いて行く。
ファイアドラゴンのことを考えながら、火の属性が得意な魔物で長生き。1番強いのが一族を仕切り、人の言葉も理解し話せる。ファイアドラゴンは攻撃性が高く、縄張りに入ってきたら容赦なく攻撃を行うことが知られていて、腕の立つ人間でも近づくことはしない。行くための道は昔、供物を捧げていた道があって、そこがなんとかわかるぐらいと本で見たことがある。
「どうして受けてくれないんだ」
「エロイーズお嬢様、僭越ながら。ギルドを通さないと仲介に入ってくれないので、個人で依頼を受けるのは無理だそうです。お嬢様の依頼を受けることにより、お嬢様より立場の上の方の依頼をお嬢様がお断り出来るのでしたら受けるとおっしゃっておりました」
「上の立場なんて、そんなにいないだろう。そんなに上に顔が知られているとは思っていないんだが」
「国やギルドでしたらどうされますか?」
「それは無理だな」
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読んでくれてありがとうございます。
☆や♡を恵んでください。お願います。
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